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EVシフト準備万端! 中国の自動車メーカー、BYDの衝撃/前編【動画アリ】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
筆者撮影

 “中国のシリコンバレー”と称される深センの街中からクルマで約40分の郊外。その会社の正門で、迎えてくれる方を待つ間、筆者はただただスケールの大きさに圧倒されていた。なぜなら、巨大な正門のすぐ先には、モノレールがあり、そこから延々とレールが伸びている。それはまるで、浦安のディズニーランドのあの感じを彷彿とさせたのだった。

 Build Your Dreams、頭文字をとってBYDというこの会社が興ったのは今から22年前の1995年のこと。家電用バッテリーの会社として創業し、2002年には香港メインボード(H株)において過去最高額で上場。そして今から14年前の2003年に自動車へと参入し、2005年には世界初のプラグインハイブリッド車を送り出した。さらに2008年には世界最大の投資持株会社バークシャー・ハサウェイの会長兼CEOのウォーレン・バフェットが約10%の投資を行って話題となり…と言った具合で今、中国において大躍進を遂げている自動車メーカーである。そして創業者で現会長の王伝福は創業からの22年で、中国一の資産家になった。

 今回、そんなBYDに同業のジャーナリストとともに取材を申し込んでみると、あっさりとOKの返事が来た。そうして筆者はここを訪れたのだった。

 会社の規模としては、2016年に約50万台を販売しているが、中国においてはまだベスト10には届かない。しかし先に記したように、実際に会社を訪れて感じる印象もはや、日本の自動車メーカーと同等以上の雰囲気が漂っている。しかも日本からの取材は極めて稀なようで、我々が取材に訪れた際に逆取材も行われたほどだった。

 エントランスを進んでいくと、会社の沿革を示しつつ、製品を展示しているホールが用意されており、ここでレクチャーを受けた。既に見学コースとして確立されており、我々の他にももっと規模の大きな団体が何組もレクチャーを受けていた。しかもこのホールの展示をひとつひとつ説明を受けて見ていったら、楽に2時間くらいは経ってしまうだろう充実の内容である。

 この辺りは動画を見ていただければ一目瞭然だが、1995年からの歴史がわかりやすくまとめられている他、事業内容を紹介展示しており、同社のルーツでありコアビジネスである家電用バッテリーの紹介に始まり、半導体、ガジェットの筐体、PCやタブレットといった具合に展示される。そして次に、自動車の技術がバッテリーから始まって、モーター、制御機器、その他商業車の技術等も展示されていた。また、現在既に5つを擁する研究所の案内や、自動車事業における研究開発棟の模型、そして今後のロードマップを模型としたジオラマが展示されるなど、ここを見ればこの会社の全てがわかる…という内容だった。

 そしてさらに、実際の自動車を展示したホールに移っていく。ここで電気自動車の「e6」や今回試乗もできた主力モデル「唐(tang)」の説明などを受けたのだった。

 今回筆者は、香港経由で深センに入ったのだが、国境を越えて最初に深センで乗ったタクシーはBYDのe6だったことに衝撃を受けた。これまで中国に抱いていたネガティブなイメージはこの瞬間に崩壊し、あとはただただ驚きの連続…。その最初の一歩がこのe6のタクシーだった。

 BYD株式会社の統括部長で日本商務部につとめ、月の半分以上を横浜で過ごす陳浩(Chen Hao)氏が今回、流暢な日本語で社内をアテンドしてくれたわけだが、陳氏から受けたこの電気自動車e6のスペック説明も刺激的だった。

 「バッテリーは64kWhで、航続距離は400km。タクシー用途なので1日1回の充電で済みます。このe6はもう6年前から走っていますが、既に100万kmを超えた個体も存在しています。ちなみに深センのタクシーは全部で1万8000台ですが、そのうちの7000台をe6が占めます。そしてタクシー会社はもちろん、BYDの資本が入っていて、かなりの走行データを収集できています」

 といった具合で、64kWhというその性能は、日産新型リーフの40kWhを上回り、航続距離も驚きの数値。さらに稼働台数も数百万台あるものと言われているし、タクシーでも運用してデータ取りしていることなど様々に、素直に「もう何年も前からこのモデルがあったのか」「既に豊富なデータもあるのか」という強烈なショックを受けた。

 しかも深センの街中では、このe6が多く走るだけでなく、バスは全てEV(これもBYD製)となっていた他、他の中国の都市と同じ様にスクーターも全てEVであったことにも衝撃を受けた。なので深センの街中の空気はとても綺麗で東京と変わらない、と思ったほどだった。

 いまや1400万人が住むこの都市は、若くて勢いのある街でもある。今回我々が宿泊したのは、深センが中国のシリコンバレーと呼ばれる所以でもある巨大電気街「華強北」。その活気はかつての秋葉原の数十倍と聞いて確かに納得が行くものだった。とにかく、若者が多い。事実、いまも人口が増え続けるこの都市は、人口に占める20〜30代の割合が約60%とも言われ、65歳以上の高齢者が数%しかいないと言われているそうだ。

 実際にこの街で過ごしてさらに衝撃的だったのは、現地の人がほぼ現金を使っていないこと。ここ深センから誕生し、最近アリババグループを抑えてアジアNo.1の時価総額を持つに至ったテンセント社が開発したインスタントメッセンジャーとSNS機能を融合したアプリ「ウィーチャット」。その付加機能である「ウィーチャットペイ」でほぼ全ての買い物が電子決済されている。しかもウィーチャットペイは、デパート等だけでなく、本当に普通の飲食店等でも使われているほど浸透している。もっともこのウィーチャット、日本でメジャーなLINEが全世界で2億ユーザーと言われるのに対して、ウィーチャットは2015年時点で登録者数が11億、現在のアクティブユーザーが7億以上と言われるほどのモンスターアプリだから、現地にこれほど浸透しているのも納得である。

 深センはその他に、スマートフォンで世界3位の出荷台数とシェアを誇るファーウェイも本拠地をおく他、ドローンで有名なDJIもここ深センがホームグラウンドである。深センが中国のシリコンバレーと言われる理由は、こうした世界上位を占めるイマドキの企業が多く集まっているからである。

 さらに「華強北」のタワー内にある、スタートアップが集まるフロアを見学させてもらったが、ここには世界中から未来を作ろうとする若者が集まって来ており、様々な取り組みによって大きく成長し羽ばたくベンチャーで溢れかえっていた。それはまるで、明日を変える企業が生まれる場所、のように思えた。

 話がBYDから深センのことについてに変わってしまったが、実はこれ、あえて脱線して記したことでもある。なぜなら、この脱線して記した深センの勢いそのものが、自動車メーカーとしてのBYDの雰囲気そのままであるからだ。

 BYD社内を案内してくれた陳氏がこんなことをサラっと話した。

 「携帯電話や家電のバッテリーは、昔から日本のソニーや東芝などで使ってもらっています。また最近では自動車向けのバッテリーに関しても、日本はもちろん欧米の自動車メーカーと話を進めている段階です。我々は自動車メーカーとして自動車も送り出しますが、バッテリー技術やEV関連技術もオープンに売っていきたいと考えています」

 とのことだった。そもそもがバッテリーの会社としてスタートして、「バッテリーを活かすための事業を」と考えて自動車に参入したBYDだけに、自社生産だけでなく技術の提供にもかなり積極的だ。そしてそんな風に発言する裏側には、自社の製品や技術に対する自信が伴っていることがわかる。だからとてもオープンで、とてもアグレッシブな姿勢として、我々の目に映る。それはこれまで自動車ジャーナリストとして見てきた、世界中の名だたる自動車メーカーからは感じたことのない熱気と勢いでもある。

 さらに陳氏は続ける。

 「実は昨日、我々は小型EVを送り出すという発表を行いました。郊外に持ち家があるけれど、そんなに所得は高くない…というような層に向けて送り出します。それより上の層には今回試乗いただく「唐」をはじめとするプラグインハイブリッドで対応して、さらに上の層に対しては高級EVを送り出すという戦略です」

 成り立ちが既にEVやPHEVを主力として創業されたBYD。それだけに今後のロードマップは明確で、自家用車に関しては先のレイヤーでやっていく。そしてこの他に、商業車に関してもEVストラテジーがある他、冒頭で記したモノレール事業も当然電気が軸となる事業である。

 展示ホールの最後にあったのは、都市構想のようなジオラマ。砂漠があり、そこにたくさんのソーラーが敷き詰められ、それが蓄電される施設に集まっている。さらにそこから送電されてEVのチャージャーやモノレールへの供給がなされる他、スマートグリッド等も考慮した街作りが目の前に展開されていた。

 実際に今回筆者が撮影してきた添付の動画を見ていただくと、特に自動車関連の方は驚くのではないだろうか? もちろんまだまだ荒削りな部分や不明瞭な部分はある。しかしながら、そうした細かなものを補って余りある勢いを筆者は感じて、焦りというかショックを受けたほどだった。

 というのも正直な話、ニュース等で伝え聞いて中国の勢いを知っているようでいて、どこかで日本の優位性を根拠なく抱いている人は多いだろう。筆者もそうした一人だった。が、こうして目の前で展開されているものを見ると、その勢いは想像を遥かに超えているし、むしろ想像以上に先を行っている感覚を強く感じたのが実際のところだ。

 そして様々なレクチャーを受けたあと、我々はBYDの主力モデルであるプラグインハイブリッドの「唐」を試乗することになった。この唐を、実際に試乗したレポートは後半にお届けしたいと思う。

筆者のYouTubeチャンネルLOVECARS!TV!の生放送において、BYDを特集した回のアーカイブはこちら↓

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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