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東京都が地域危険度マップを公表。地域によって危険度が大きく異なる理由は?

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
東京都の「地震に関する地域危険度測定調査(第8回)」より

あなたのまちの地域危険度

 東京都から先週2月15日、地震に関する地域危険度測定調査(第8回)として、「あなたのまちの地域危険度」というパンフレットが公表されました。東京都では、東京都震災対策条例に基づいて、1975年11月から、概ね5年ごとに地域危険度を公表していて、第8回目の公表だそうです。

 今回は、地震に対する危険度を市街化区域の5,177町丁目に対して、5段階評価した「危険度ランク」を公表しました。ちなみに、町丁目とは「〇〇町〇丁目」の地域単位を意味します。危険度が最も高い危険度ランク「5」は全体の1.6%の85地域で、「4」は287地域、「3」は820地域です。

 地盤が軟弱で古い木造住宅が密集する荒川や隅田川沿いの下町を中心に、足立区、荒川区、墨田区に危険度の高い地域が集中しています。これに加え、品川区や大田区、中野区、杉並区、三鷹市、国分寺市などの鉄道沿線の古い住宅地域でも危険度が高くなっています。

危険度ランクとは?

 地震の起きる場所は予め分かりませんから、特定の地震を想定せずに、堅い基盤(「工学的基盤」と呼ばれる建物の杭を支持できる程度の硬さの基盤)での揺れを同じ強さにしたときの地域ごとの相対的な被害度の違いを評価しています。

 そこで、町丁目単位ごとに、地盤の硬軟による揺れやすさの違い、建物の構造による耐震性の違い、建物密集度による火災の延焼危険度の違い、避難や救助に必要な道路や公園の広さなどを考慮して、建物の倒壊危険性、火災の危険性、災害時の活動の困難度を分析し、さらに、これらを組み合わせて総合危険度を評価しています。ランク1~5の存在割合は、すべての指標について同じになっています。

建物倒壊危険度

 地震の揺れによって建物が倒壊する危険度を示したもので、地盤の危険度と建物の危険度によって評価されています。一般に地盤が軟弱なほど揺れが強く増幅されます。東京の地盤は、西から東に行くに従って、山地、丘陵地、台地、沖積低地、干拓地、埋め立て地と地盤が軟弱になります。また、台地には谷を刻んだ軟弱な谷底低地もあります。沖積低地では地盤が液状化しやすく、丘陵地の大規模造成盛土も危険です。そこで、町丁目別に12種類の地盤に分類して、地盤の危険度を評価しています。

 一方、建物の耐震性は、建物の構造(木造・鉄筋コンクリート造・鉄骨造など)や建築年、建物階数によって左右されます。また、建物の棟数が多いほど被害も増えます。そこで、地盤の危険度、建物の耐震性、棟数などをもとに、建物倒壊危険度が算出されています。

 その結果、足立区、荒川区、台東区、墨田区を中心に、地盤が軟弱で、古い木造家屋が密集している荒川、隅田川沿いの下町の危険度が高くなっています。また、東海道線や京浜急行線沿線の品川区や大田区にも危険度が高い地域が見られます。

火災危険度

 地震火災による建物の焼失危険度は、出火のしやすさと燃え移りやすさから決められています。出火の危険性は、地盤の揺れが強く、世帯数が多くて火気器具が沢山使われるほど高くなります。一方、延焼の危険性は、燃えやすい建物が近接していると高くなります。従って、広い道路や公園などが少なく、耐火性が低い木造建物が密集している地域で延焼危険度が高くなります。また、周辺地域との間に焼け止まりがないと、もらい火の危険もあります。

 これらの結果、火災危険度の高い地域は、建物倒壊危険度の高い地域に加え、家屋が密集し空地の少ない環状7号線周辺やJR中央線沿線の北区、中野区、杉並区、世田谷区なども該当しています。

災害時活動困難度

 地震発生後には、危険地域からの避難や、消火・救助活動が、被害の拡大を防ぎます。こういった行動を支えるのが、道路や空地です。そこで、災害時の活動の困難さを、活動有効空間や道路ネットワーク密度の不足率から評価しています。活動空間は幅が4m以上の道路や小公園、道路ネットワークは広い外郭道路に通じる幅6m以上の道の整備状況で評価しています。

 この結果、道路や公園が不足する地域での困難度が高くなります。このため災害時活動困難度の高い地域は、道路基盤などが少ない多摩地域や区部西部に加え、狭隘な道路の多い杉並区や世田谷区の住宅地の一部となっています。

総合危険度

 総合危険度は、建物倒壊危険度と火災危険度に災害時活動困難度を加味して求められています。結果として、地盤が軟弱で揺れやすく、耐震性の低い建物が密集し、広い道路や公園が十分に整備されていない場所の危険度が高くなっています。

 このような危険度を知ることで、「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」を実践できます。可能な限り、「君子危うきに近寄らず」と危険を避け、それが無理なら「転ばぬ先の杖」で対策を進める必要があります。そうすれば、「備えあれば憂い無し」で地震後にも普段通りの生活を続けられます。すべての人がそのような行動をとれば、地震被害を大きく減らすことができます。

 昼間人口1,558万人、夜間人口1,316万人と言われる東京です。首都・東京が大きな被害を出せば、日本国民全員にも影響が及びます。少しでも首都・東京の被害を減らしたいものです。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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