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キッシンジャー氏を招いた講演体制をオスロ大学が反省、ノーベル委員会は反論/物議を醸した平和賞受賞者 

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
サントス大統領と授与式で挨拶するキッシンジャー氏 Photo: A Abumi

ノーベル平和賞授与式の会場で、注目を集めたヘンリー・キッシンジャー元米国務長官。平和賞を受賞すべきではなかった代表のひとりとして有名だ。

正式招待したオスロ大学とノーベル委員会は、政治難民の背景を持つ市民、学者、左派政党などから大きな批判を浴びた。

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キッシンジャー氏が招待された理由は、ノーベル平和賞フォーラム・オスロで「大統領選後の米国と世界平和」について語るゲストスピーカーとして。しかし、主催者である委員会と大学は、会場の参加者が「批判的な質問」ができないように、自由な質問時間などを作らなかった。

誰もが納得する選考が難しい平和賞。だからこそ、さまざまな意見に耳を傾けるオープンな議論が必要とされるが、委員会と大学は、それを封じた。

現地の報道陣や学者が批判をするのも、無理もないかもしれない。筆者も、オスロ大学メディア学科では、常に批判的であるようにと、徹底的に教え込まれただけに、「批判的な質問」から逃げようとするフォーラムの姿勢を不思議に感じた。

抗議したラテンアメリカ団体の人々の中には、キッシンジャー氏だけが歓迎され、批判から守られること、自分たちの意見は封じられることに対して、「我々にはそれほどの価値しかないのか」と落胆する声が目立った。

オスロ大学の教授たちは、アカデミックな討論の場を奪っているとして、ノルウェー国営放送局NRKなどに寄稿をして、その体制を批判。

フォーラムが終了した翌日の12日、オスロ大学のオーレ・ぺッテル・オッテルセン学長は、自身のブログで心情をつづる。外部・内部からの批判はもっともだと、自己批判をし、講演の体制には落ち度があったことを認めた(※ノルウェー人が誤りを認めることは、珍しい)。

このような行事で批判的な議論を封じる体制は、学問の根幹と伝統を揺さぶるものだとして、イベントの形式そのものに問題があったことを認める。学長自身は別の形を当初から望んでおり、オープンな質問とコメントの時間を設けるように要請したが、ノーベル委員会に聞き入れてもらえなかったと説明。

同時主催とされているが、キッシンジャー氏と、ホワイトハウス国家安保担当補佐官を務めたズビグネフ・ブレジンスキー氏を講演者に決め、イベント内容を指揮したのはノーベル委員会だったと記述する。大学側に、平等な決定権はなかったとした。

「ノーベル委員会を含め、様々な機関と合同で活動はしていきたいと思います。しかし、オスロ大学は批判的な社会で成り立ちます。我々の学生や研究者は、質問や意見を述べることができるべきです」。学長は、今後のフォーラムにおける体制改善の意志を示した。

キッシンジャー氏が正式招待されたことには、未だに連日、政治家などからも批判の声が相次いでいる。

止まない批判の嵐に、ノーベル委員会の秘書であるニョンスタ氏は、アフテンポステン紙を通してこう反論する。委員会には落ち度はなく、招待は正しかったと。その理由はこうだ。

  • フォーラムのテーマは、現在と未来、米国大統領選後の世界平和についてであり、40~45年前の米国の国政政治における個人の責任についてではない
  • 国際政治と歴史学を語るうえで、影響力のあった人物であり、ゲストスピーカーとしては適任

また、委員会側は、会場の外で抗議していた人々よりも、内部で対話を聞いていたファンの数のほうが多かったとして、批判者の数は実際は少ないと指摘。会場からの反応はポジティブなものであり、新たなチャンスがあったとしても、ほかの形でイベントを行うことはなかっただろうと反論している。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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