「何てめぇチクってんだよオラ!」 ヤマト運輸下請が暴行事件で起訴も、反省文だけ
本日、ヤマト運輸の下請け企業である、「有限会社栄光運輸」(東京都豊島区)で働いていた30代前半の若者が、先輩社員からの暴言・暴行といったパワーハラスメントにより、精神疾患と両上腕内側打撲、内出血、背部打撲を発症したことについて、池袋労働基準監督署が昨年11月に労災認定したことを、本人と本人を支援する「労災ユニオン」が記者会見をして報告した。
この事件では加害者が起訴されているにもかかわらず、会社は「反省文」だけで済ませている。事件を通じてパワーハラスメントを繰り返す企業の体質が明るみになってきた。
また、近年暴力による精神労災の件数は増えており、職場に蔓延する暴力に対する対処は急務である。
「ボコボコにしてやる。警察呼んでみろ」
今回の事件の被害者Aさんは、2016年夏から2019年春までの約3年間、東京都豊島区にある有限会社栄光運輸で働いていた。
Aさんに任された主な業務内容はヤマト運輸の営業支店における4tトラックドライバー(法人や物流倉庫に集荷するドライバー)だった。その営業支店の荷物に関わるドライバーは、同社を含め多くは下請け運送会社の労働者であり、ヤマト運輸の指示に従い集荷していく業務を行っていた。
この仕事は、過密なスケジュールにより長時間労働になることが多く、下請け企業の労働者のストレスは大きかったという。今回問題となる暴行事件も、多忙を極めている際に起きたことだった。
まず、Aさんへの先輩であるB氏からの暴行事件が起きたのは、2018年9月の夜である。夕方、AさんはB氏へ電話で翌日の業務連絡をしようとしたところ、B氏も忙しいのか運転中なのか、電話がつながらなかった。
その後、Aさんも顧客のもとから出発する時間になり、運転中の電話は対応ができないために、会社の事務所にいる上司へ電話でB氏への伝言を頼んだ。しかし、その後しばらくして、激怒したB氏からAさんへ電話がかかってきて、「てめえ何上司にチクってんだ。後で覚えていろよ」とだけ一方的に言われ電話は切られてしまったという。
おそらく、B氏は上司への伝言を、「Aさんの告げ口」と解釈したのであろう。その後、会社のトラック駐車場にてAさんが車内で日報等を記入していたところ、激高したB氏が訪れ、急に運転席のドアを開け、「何テメェチクってんだよオラ!」などと怒鳴って運転席に乗り込んできた。
Aさんは翌日の業務連絡について事務所の上司へ伝言を頼んだだけだと説明をしたが、B氏は一切聞く耳を持たず、腕や胸ぐらを掴み、Aさんは運転席から強引に引きずり下ろされた。そして、一方的に激高している状態は続き、胸ぐらを再度掴まれ、トラックを背にして強く何度も背中をトラックへ叩きつけられた。
作業着のチャックは飛び、作業着のつなぎ目が裂けそうになるほどであった。「ボコボコにしてやる。警察呼んでみろ」とさらにB氏が怒り出したところで、別の同僚が仲裁に入り、その場は一旦収束した。その場で茫然自失となったAさんは、その後、Aさんは心身の不良から休職をせざるを得なくなってしまう。
継続する精神的な被害を労災申請で補償
医師の診察を受け、Aさんは両腕の怪我、背中の打撲等で全治2週間を診断された。さらに、この先の不安と、今回の事件を思い出すことで、精神的に追い詰まってしまい精神科を受診したところ、心因反応、抑うつ状況、不眠症の診断も受けた。
Aさんは、警察署に出向き担当の刑事と相談の上、正式に被害届を提出した。その後、検察庁から加害者のB氏は起訴され、罰金刑に処されることが確定した。暴行のシーンについて、ドライブレコーダーに証拠が残っていたことが大きかった。
ところが、問題はこれで終わらなかった。会社の上司にB氏は起訴され罰金刑が確定したと伝えたものの、会社は何の処分もしないと回答したのだ。しかも、Aさんは業務中の暴行が原因であるにもかかわらず、労災の申請さえできない状態だった。
結局、AさんはB氏の暴行の恐怖のために精神疾患が治らず、2019年4月、会社を退職せざるを得なくなってしまったのである。
その後のAさんは「労災ユニオン」に加盟して暴行による精神疾患は労働災害だと申し立て、2019年11月には池袋労働基準監督署で労災認定が認定された。
これによって、過去および未来の治療費が無料になったり、休業補償を受けることができるようになった。ただし、精神疾患は回復していないうえ、会社を辞めなければならないという理不尽な状況は何も救済されはしなかった。
ヤマト運輸、栄光運輸の対応
2019年6月、Aさんと労災ユニオンは、栄光運輸に対して、一連の労災事件に関する補償を求め団体交渉を申し入れ、7月、8月に団体交渉を行った。
また、9月に元請会社であるヤマト運輸本社に対しても下請け企業である栄光運輸の実態調査と栄光運輸がユニオンとの交渉へ誠実に応じるよう指導を申入れた。
しかし、栄光運輸は、「B氏による暴行事件は、パワハラではないし、会社は関係無く当人同士の揉め事」、「B氏に対する処分は反省文の提出で十分である。暴行の初犯なんだから」というような回答を繰り返していた。
また、ヤマト運輸からは、Aさんは下請け企業の労働者であり直接的な雇用関係にないということで具体的な回答は全くなかったという。Aさんは、ヤマト運輸の配車係から業務指示を受け過密な労働をしていたにも関わらずである。
裁判例では、元請企業の労働者と下請企業の労働者との間に、「実質的な使用従属関係」や「直接的または間接的指揮命令関係」が認められれば、元請企業(今回のヤマト運輸)が下請企業の労働者(今回のAさん)に対して、安全配慮義務を負うされており、今回のケースもこれに該当する可能性がある。
結局、2020年1月現在、暴行による怪我は治ったが、精神疾患は回復せず、精神的に閉鎖状態でとても憂鬱な日々が続いている。再就職に関しても出来るような状況ではない。
その一方で、刑事罰を受けているB氏は、大きな制裁もなくこれまで通り、ヤマト運輸の荷物を運んでいる。
パワハラ問題の深刻化
現在、職場のパワーハラスメントは深刻さを増している。例えば、東京都の「労働相談情報センター」が2018年度に対応した相談では、「解雇」や「賃金不払い」を上回って「職場の嫌がらせ」に関する相談が最も多く、相談項目全体の11.0%を占めた。(東京都産業労働局「平成30年度における労働相談及びあっせんの状況について」)
そのような状況を受けて、昨年5月には、「パワハラ防止法」も成立したが、罰則規定がないなど実効性が疑問視され、暴言・暴力といったパワハラの相談は、今も私たちへ数寄せられている。
そして、近年、パワハラの中でも、特に今回の事例のように、ひどい暴言・暴力による精神疾患の発症が顕著になっている。2017年度の「精神障害に関する事案の労災補償状況」の中の「精神障害の出来事別決定及び支給決定件数一覧」を見ると、支給決定の具体的な出来事は、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、暴行を受けた」88件が最も多く、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」64件、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」63件の順になっている。ここからも、ひどい暴言・暴力による、精神疾患の発症、それによる自死が広がっていることがわかる。
職場で暴力を受けたら、泣き寝入りをせず相談を
暴行を職場で受けても、パワーハラスメントであると認定され、謝罪や補償、再発防止などを勝ち取る道のりは容易ではないが、泣き寝入りをしてしまっては、何も得られない。
本来の権利の主張や、おかしいことにおかしいと異議申立てをするのは、なかなか一人ではできないだろう。その際には、労働組合(ユニオン)などの支援団体と一緒に行動することが重要だ。
今回の事件では、「労災ユニオン」にAさんがつながったことで労災認定にこぎつけている。 今回の事件の他にもユニオンに加入しての団体交渉で会社にハラスメントの事実を認めさせ、謝罪をさせたり損害賠償を支払う結果となった事例も多い。
ハラスメンの被害に悩む労働者の方は、ぜひ外部の労働組合(ユニオン)への相談をはやめに行ってほしい。
尚、「労災ユニオン」では、近年深刻化する職場の暴力被害に関する無料労働相談ホットラインを開催するという。
現在、職場の暴力に悩んでいる方は、相談してほしい。専門の相談員が職場での状況を聞き、意向にそって、労働法に基づいたアドバイスや改善に向けたサポートをしてくれる。
日時:2/1(土)13時~17時、2/2(日)13時~17時
電話番号:0120-333-774
主催:労災ユニオン
※相談は無料、相談内容は秘密厳守
無料労働相談窓口
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。
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*業務が原因のケガや病気でお困りから相談を受けて、労災申請や会社との交渉を行い、労働環境の改善に取り組む団体です。
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*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。
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*ブラック企業の相談に対応しているユニオンです。自動販売機運営会社のストライキなどを扱っています。
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*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。