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電通の働き方改革は、打ち手よりもプロセスと結果が重要だ 過剰品質にいかにメスを入れるのか?

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
創業116周年を迎えた電通 働き方改革の打ち手を発表したが・・・(写真:アフロ)

電通は27日、記者会見を開き労働環境改善に向けた基本計画を発表した。全国紙、地方紙の各紙だけでなく、NHK『クローズアップ現代+』でも報じられたので、ご存知の方も多いことだろう。

主な柱は次のようなものである。

1.従業員一人あたりの年間総労働時間を14年度の実績2252時間から、2019年度には1800時間に約2割削減する。

2.達成のために、人員の増強、業務の削減、IT投資の強化、自動化の推進などに取り組む。

3.休暇の連続取得日数の増加を行う他、週休3日制導入や給与制度の見直しを検討する。

労働環境改善に向けた、電通の本気度が伝わる高い目標だと言える。ただ、これらの取り組みは、プロセスと結果を見なくては評価することができない。

2015年12月に発生し、2016年9月に労災認定された新入社員の過労自死事件は、法人と上司の書類送検、前社長の引責辞任という結果になった。労働基準法違反により東京地検に起訴され、正式裁判になることが決まっている。

これまでも、メディアで何度も映像が紹介された22時の消灯など改革を行ってきた。遺族とも、労働環境の見直しについての合意を行っている。7月3日に、汐留本社ビルの電通ホールにて開催された創立116 周年記念式においても山本社長は式辞の中でこう述べている。

当社において立て続けに顕在化した問題は、社内に内包する新たな課題を気付かせ、軌道修正するきっかけを私たちに与えてくれた。サービスの品質向上や予算達成はとても大切なことだが、「当社は社会が必要とする変革をもたらす存在であること」「主役である社員一人ひとりが心身ともに健康で成長を実感できること」がその前提になくてはならない。

出典:電通HP

今回の取り組みの発表同様、改革への決意、覚悟が感じられるスピーチである。

もっとも、この目標の難易度は並大抵ではないということを認識しておきたい。電通の「労働環境改善に向けた基本計画」は当初、4月までにまとめるはずだった。社内の意見交換、業務分析などにより時間がかかったとのことだが、ここにも電通の業務の絶対量、難易度が過剰であること、属人化した部分があることが感じられる。

山本社長は記者会見で「時間短縮と業務品質向上の両立を簡単ではないが必ず成し遂げる」などとコメントしている。ただ、この言葉自体、すでに矛盾に満ちているし、昔ながらの電通イズムを感じるものである。そもそも、この期に及んで「業務品質の向上」なのか。いや、上場企業としてこの点にこだわり続けなくてはならないのは分かる。ただ、電通の長時間労働の原因はこの過剰なまでの品質、顧客期待への過剰なまでの対応ではなかったか。

拙著『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)で強く主張したことだが、電通に限らず、世の中の「働き方改革」の取り組みは、普遍的、根本的矛盾を孕んでいる。まさに、仕事の絶対量、役割分担、過剰品質だ。創意工夫だけではなく、具体的な投資が必要だ。そう、よくトップの意志が必要だと言われるが、その意志は単に施策の徹底ではなく、具体的に投資をするかどうかが問われるのだ。

今回の電通の取り組みで評価できる点は、具体的に人材やITに投資をすること、一部の業務の自動化を推進する点である。これは具体的な打ち手だ。もっとも、電通における長時間労働慢性化の根本的な原因である、顧客の期待に応えようとするがゆえの過剰品質にどこまでメスを入れるのか。

もちろん、品質を落とすということを宣言することは現実的ではない。さらには、たしかに大手広告代理店ならではの仕事の特殊性などもある。その案件を受注できるか。案件を獲得したものが総取りするのがこの世界だ。ましてや、よくも悪くも電通ならではの期待がある。

さらには、時短の目的化によって、従業員がすり減らないかどうかも懸念するべき点である。長時間労働の是正は安全衛生面からも、生活との両立という観点からも、さらには労働への参加者を増やすためにも検討するべき点だが、これを目的化することによる負荷も考えなくてはならない。人事担当者と最近、話題になるのは、働き方改革の目的化による従業員の疲弊だ。

やや批判的なことを書いてしまったが、この問題が明るみに出てからずっと、電通の取り組みには注目してきた。自死事件、長時間労働の慢性化は許されるものではないが、とはいえ、同社に対する無責任な批判も散見された。「鬼十則」に代表される、独特の風土がもたらす誤解、羨望と嫉妬のようなものも渦巻いている。この局面を乗り越えた際に、電通と、日本の働き方にイノベーションが起こることを期待する。もっとも、この手の取り組みは上手くいっている風を装いがちだ。上手くいかなかったらいかないなりに、真因を突き止めて欲しいし、情報を積極的に開示して頂きたい。

電通の2018年度の採用メッセージは「電通が創るのは前例のない未来だ」だった。前例のない改革に期待したいが、ぜひ、これ以上疲弊しないように。そして、前例がないというならば、この過剰品質、顧客期待への過剰な対応にもメスを入れて頂きたい。「若き老害」と呼ばれる私からのエールだ。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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