第93回アカデミー賞ファッションを総解説 「レトロ×未来的」の華やかな装いに注目!
来場者のファッションが毎回、話題を集める映画の祭典、第93回アカデミー賞の授賞式が2021年4月26日(日本時間)に開催されました。大型の映画賞では久しぶりの本格的なレッドカーペットとなっただけに、来場者の装いにはこれまで以上に注目が集まりました。今のおしゃれトレンドと絡めつつ、あでやかな着こなしを解説します。
昔を懐かしむ「懐古趣味」と前向きな「未来感」を両立させる装い
全体の印象としては、例年にもまして「華やか」。大規模なレッドカーペットが難しいとされる中、今回の授賞式は通常通り、ノミニー(ノミネートを受けた受賞候補者)が顔をそろえてのリアル開催となりました。
数々の困難を乗り越えて実現した、ハリウッド映画人が待ち望んだ晴れ舞台の復活だけに、多くの来場者がファッションの面でも「アカデミー賞らしさ」をあらためて意識したようです。まばゆいキラキラ演出や古風なシルエットが今回の装いを象徴していたと言えるでしょう。過去を懐かしみながらも、前を向いて歩いて行こうというポジティブなメッセージが感じられます。
クラシックなシルエット×フューチャリスティックな輝き
『プロミシング・ヤング・ウーマン』に主演した女優のキャリー・マリガン(Carey Mulligan)は、全身をゴールドの輝きに包んだ、いかにもアカデミー賞というゴージャスドレスをまといました。ベアトップできれいにデコルテを見せつつ、ビスチェを着ているようなシルエット。
裾がダイナミックに広がり、床をこするほどのロング丈という、多くの人がレッドカーペットと聞いて思い描く通りのドレスをチョイス。ようやく実現した晴れ舞台に臨む気持ちをファッションでも示していました。
同じく主演女優賞ノミニーのアンドラ・デイ(Andra Day、『The United States Vs. Billie Holiday』)は、ゴールドのドレスを選びました。片方のストラップが斜め掛けになって、もう片方の腰部分を肌見せしたアシンメトリーのデザイン。同じくゴールドでそろえたイヤリングとクラッチバッグも響き合っていました。
ノミネート以外のゲストもさすがの着こなしを披露。『スーサイド・スクワッド』のハーレイ・クイン役で知られ、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』では主演女優賞の候補にもなったマーゴット・ロビー(Margot Robbie) は、きらめくシルバーのまだら模様が入り交じった、細ストラップのドレスで会場に姿を見せました。ほっそりとしつつ、穏やかなムードも漂うナローシルエットのロングドレスが優美な印象です。
メタリックカラーでグラマラス感を強調する装いは、男性来場者にも見られました。たとえば、助演男優賞候補に選ばれたレスリー・オドム・Jr(Leslie Odom Jr、『あの夜、マイアミで』)は、上から下までゴールドのグリッターなスーツ姿で登場。シャツやポケットチーフまでゴールドで統一する徹底ぶり。同じく助演男優賞ノミネートのポール・レイシー(Paul Raci、『サウンド・オブ・メタル』)は黒のスーツ姿のシャツ襟に特大のきらめきピンを通し、ジャケット襟にメタリックな飾りを施して、グラマラスな印象に見せていました。
肌見せは「ヘルシー×エレガント」が新鮮
旬のトレンドを取り入れた装いも披露されました。プレゼンターの歌手・女優、ゼンデイヤ(Zendaya)は弾けるようなフレッシュさを感じさせるレモンイエローのドレスを選びました。ビキニトップとロングドレスを融け合わせた、リゾート気分やヘルシーさも帯びた若々しい装い。ジューシーなイエローともあいまって、健康的な色気を薫らせる「ヘルシーセクシー」を印象づけていました。
『私というパズル』で主演女優賞にノミネートされたヴァネッサ・カービー(Vanessa Kirby)は細身のセットアップ風にも見えるドレスをチョイス。見どころは短くカットされたトップスの裾下から、おへその上の素肌がのぞいている「チラ腹見せ」。新たな着こなしとしてファッション界でも注目のアレンジです。健康への意識が高まったことを背景に、素肌を適度に露出する演出は2021年春夏の新トレンドです。
主演女優賞ノミニーのヴィオラ・デイヴィス(Viola Davis、『マ・レイニーのブラックボトム』)が着用した白いロングドレスは上半身のあちこちに隙間を生む、丁寧なカットワークが施され、ところどころから肌が透けて見える仕立て。ドラマティックな上半身と、繊細なドレープが揺れる下半身という上下別テイストのハイブリッド仕様です。上半身はタイトで、腰から下が広がる「フィット&フレア」は、めりはりの利いた美シルエットを描き出しています。
「パワースリーブ&ビッグカラー」で上半身に華やぎ
受賞者を発表するプレゼンターの女優、アンジェラ・バセット(Angela Bassett)は明るい赤のボリューミーなドレスをまといました。肩から張り出すかのように、布をたっぷり膨らませるのは、トレンドの「袖コンシャス」にもマッチ。コメントに盛り込まれた「ハリウッドのクリスマス」という言葉からも、授賞式の復活を喜ぶ気持ちが伝わってきます。
女性監督が「主役」になったのは、今回の歴史的な変化と言えるでしょう。『あの夜、マイアミで』を撮ったレジーナ・キング(Regina King)監督はきらめくストライプが走った、細身のつやめきロングドレスで来場。肩にまで張り出した大きな飾り襟はオントレンドのディテール。シルエットは古風でありながら、きらきら装飾で未来感を漂わせる「レトロフューチャー」のトレンドを先取りしているかのよう。
『ビール・ストリートの恋人たち』で助演女優賞に輝いた実績を持つ女優だけに、しなやかな着こなしを披露していました。初めて撮った長編映画『あの夜、マイアミで』で3部門のノミネートを果たしています。
「レッドカーペットにレッドカラー」でハリウッドの様式美
レッドカーペットと同化して映りやすいので、赤のドレスは着こなしが難しいとされますが、あえて真っ赤なドレスをまとったのは、『Mank/マンク』で助演女優賞にノミネートされたアマンダ・セイフライド(Amanda Seyfried)です。胸元が深くVカットされた妖艶なシルエット。細かいプリーツが入った、裾広がりのドレスは、往年のハリウッドを思い起こさせるような様式美を備えています。
プレゼンターを務めたオスカー女優のリース・ウィザースプーン(Reese Witherspoon、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』で主演女優賞)はダークレッドのロングドレスで来場。ホルターネック風の仕立てで、肩と腕を健やかに露出。ウエストに細いベルトを巻いて、めりはりを付ける「ウエストマーク」の小技も織り込みました。
助演女優賞ノミネートのオリヴィア・コールマン(Olivia Colman、『ファーザー』)も真紅のドレス姿を披露。上品なロングスリーブに首を覆う高い襟がクラシックな風情。ベルトとシューズも赤で品良く整えています。コロナ禍以降、昔を懐かしむようなデザインが支持されています。今回の授賞式では、映画館に足を運ぶことが難しくなった状況を踏まえて、映画が身近だった頃を懐古するかのような装いが目立ちました。
「エアリーファンタジー vs. ダークロマンティック」美の競演
助演女優賞ノミニーのマリア・バカロヴァ(Maria Bakalova、『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』)は、優雅な白のドレスで会場に。スパンコールをちりばめ、清らかさと華やぎを同居させています。
淡いグリーンとピンクに彩られた、ヴィンテージ調のワンピースで来場したのは、脚本賞を受賞し監督賞にもノミネートされていたエメラルド・フェネル(Emerald Fennell)監督(『プロミシング・ヤング・ウーマン』)。スパンコールがちりばめられていて、きらめきを帯びつつ、エアリーな装いです。軽やかな布使いやフリルのあしらいに、どこか70年代ヒッピーライクなムードが感じられます。
『ジュラシック・パーク』でおなじみのローラ・ダーン(Laura Dern、『マリッジ・ストーリー』で助演女優賞)もプレゼンターを務めました。この日の装いは毛足の長いシャギーなフェザーパンツが目を引きました。真っ白なパンツはフェザーにくるまれて、ものすごい量感を生んでいます。トップスはシンプルな黒ハイネックを引き合わせて、引き締め感を押し出すコントラストが冴えていました。
Netflix映画『シカゴ7裁判』に使われた曲『ヒア・マイ・ヴォイス』が歌曲賞にノミネートされたセレステ(Celeste)は、赤と黒が入り交じった、つややかなワンピースで会場へ。胸下から切り替えられたエンパイアシルエットでクラシックな雰囲気。ボレロ風のショートケープのようにも見えて、フリンジ状の飾りが動きを添えています。このようなダークロマンティックな雰囲気も今のトレンドの傾向です。
主演女優賞はファッションの面では授賞式最大級の「見せ場」となります。今回の受賞者となったフランシス・マクドーマンド(Frances McDormand、『ノマドランド』)は真っ黒のドレスを選びました。3度目の主演女優賞という偉業にもはしゃぐことをしない哲学的な品格ルック。ただ、袖先にはフェザーを配して、広がりを持たせ、レッドカーペットにふさわしい特別感も示していました。フェザーやフリンジなどの装いに動きを持たせるディテールも今の気分を示す演出です。
「気負わないドレスアップ」がオスカーの新スタイルに
非白人の女性としては初めて監督賞を受賞したクロエ・ジャオ(Chloe Zhao)監督(『ノマドランド』)は、ほんのり輝きを帯びた、淡いベージュのロングドレスで来場。肩の力を抜いた「エフォートレス」なシルエットです。振り袖のように大きく開いたフレア袖が優美な印象。
そして、足元は白のスニーカー。あでやかシューズが一般的なアカデミー賞授賞式ではかなりの例外です。プロの俳優を使わないキャスティングを持ち味とするジャオ監督らしい「普通」の靴選びとも映ります。
『ミナリ』で助演女優賞を受賞した、韓国の国民的女優、ユン・ヨジョン(Youn Yuh-jung)は黒に近いネイビーカラーのドレスを着用。首の詰まった五分袖の、落ち着いたシルエットです。細かいキルティング風の仕立てがノーストレスで心地良さげな装い。ゴージャスなドレスが多かった中、映画の役柄にも通じる、飾り気や気負いを遠ざけたムードを演出しているかのようでした。
まだオスカーを手にしていないことが不思議とされる大物女優のグレン・クローズ(Glenn Close)は、『ヒルビリー・エレジー』で助演女優賞にノミネート。ビーズを全身にあしらったブルーの華やかなドレスの下に黒パンツを合わせた、トレンドのレイヤードルックを披露。ゴージャスなドレスにパンツを重ねることで、グラマラス×マニッシュなこなれたセレモニールックに仕上がります。
ポジティブなファッションで気持ちを盛り上げて
レッドカーペット来場者の装いを振り返って感じるのは、アメリカ映画人のポジティブな姿勢。ドレスを通して、映画や俳優の魅力をあらためて印象づけたい、華やかなあのころに戻ってほしいという意識がうかがえました。
トレンドに流されないクラシックなファッションは「タイムレス」と呼ばれ、モード界でも支持されています。過去のいいところを懐かしみながらも、未来に向かって進んでいくフューチャー志向がミックスされているのが最近の流れと言えます。
きらめく素材や鮮やかな色、ドラマティックな袖・襟、ロマンティックなフリルやレース、動きを生むフリンジやフェザーなどをプラスワンで取り入れると、普段の装いにもあでやかさや動感が加わります。まだ日々の生活に様々な制限がある中、ハリウッドスターの装いを参考に、ファッションで自分を元気づけるようなスタイリングを取り入れてみてはいかがでしょうか。
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