日本アカデミー賞の着こなしを解説 「ダークロマンティック」な装いに注目!
「第44回日本アカデミー賞」の授賞式が開催され、ノミネートされた俳優が思い思いの装いでレッドカーペットに登場しました。晴れ舞台に臨むトップ俳優たちの装いには、最新のおしゃれ傾向やスタイリング技も生かされています。今回は受賞者たちの着こなしから、トレンドを読み解いていきます。
節度と特別感を微妙なバランスで両立 目立った「ダークロマンティック」
全体の傾向として感じ取れるのは、セレモニーの定番とえる黒系の深い色を基調にしながら、華やぎやフェミニンを薫らせる「ダークロマンティック」のスタイリング。透ける素材を用いたり、適度な肌見せを取り入れる例が相次ぎました。コロナ禍が続く中という難しい時期のセレモニーだけに、節度と特別感を微妙なバランスで両立させるコーディネートが選ばれたようです。
一方で、ダークロマンティックをベースにしつつ、芯の強さやポジティブ感、正統派クラシックなどを盛り込むアレンジも登場。おしゃれに敏感な演技者ならではの着こなしが披露されました。以下に主要各賞の受賞者ルックを解説します。
「チュール素材、袖コンシャス、ビジュウ」であでやかに主張
優秀主演女優賞は小松菜奈(作品は「糸」)、永作博美(「朝が来る」)、長澤まさみ(「コンフィデンスマンJP プリンセス編」)、長澤まさみ(「MOTHER マザー」)、倍賞千恵子(「男はつらいよ お帰り 寅さん」)、広瀬すず(「一度死んでみた」)の各氏が選ばれ、幅広い顔ぶれがそろいました(50音順)。
「MOTHER マザー」で最優秀主演女優賞で受賞した長澤さんは両袖がチュール生地で透けるブラックドレスで登場。チュール袖はボリューミーにふくらんでいて、袖に視線を引き込む「袖コンシャス」のトレンドを反映しています。肌が透けるシアー素材もトレンド素材として注目を集めています。ほのかな肌の透け加減はダークロマンティックそのもので、袖口は幅広カフスですっきりと見せています。
小松さんはきらめきパーツを全体にあしらった縦長の袖なしドレスを着用。胸に飾られた、ビジュウ(宝飾パーツ)のような花モチーフがあでやか。秋冬のトレンドカラーと期待されるパープルを先取り。甘さを控えた大人色がダークロマンティックのお手本になりそうです。
永作さんはスリーブレスのドレスで、優美な着姿を披露。正面の身頃はブラックですが、両サイドは白地の別生地で切り替えられていて、シャープに見える仕掛けです。
倍賞さんはブラックの上下で端正にまとめて、ベテラン女優ならではの気品と落ち着きを醸し出していました。よく見ると、スカートにはチュールを重ねてあり、やわらかい雰囲気も添えています。
黒主体の装いが多かった中、候補者5人のうち、最年少の広瀬さんは鮮やかなピンクのロングドレスをチョイス。ポジティブ感が強いピンクは「ポストコロナ」を見据えたキーカラーとして、世界的に関心を集めています。
「オールブラック、ノーネクタイ、ライダース」でクールにひとひねり
優秀主演男優賞は小栗旬(「罪の声」)、草なぎ剛(「ミッドナイトスワン」)、佐藤浩市(「Fukushima 50」)、菅田将暉(「糸」)、二宮和也(「浅田家!」)の各5氏がノミネート。最優秀賞を受賞した草なぎさんは太い襟、深い打ち合わせのジャケットで、フォーマルな装いに変化を加えました。
小栗さん、草なぎさん、佐藤さんは、そろってシャツまでオールブラックのスーツ姿。佐藤さんはシャツの第1ボタンをはずし、いかにも大ベテランらしい、授賞式慣れした着こなしにアレンジ。二宮さんは白シャツに蝶ネクタイとオーソドックスなフォーマル姿。ポケットチーフも挿しています。
最も目を惹いたのは、菅田さんの着こなし。唯一、黒革のライダースジャケットを羽織って登場しました。白シャツ、黒ネクタイのフォーマル姿をベースにしながら、ジャケットだけをタフな表情に変えた「技あり」のコーディネート。セレモニー服の表現に個性を注ぎ込みました。近年はこのような「フォーマル崩し」が新トレンドに浮上。手持ちのフォーマル服を普段使いする際にも役立つスタイリングです。
上品肌見せ、縦長シルエットですっきり凜々しく
優秀助演女優賞は江口のりこ(「事故物件 恐い間取り」)、黒木華(「浅田家!」)、後藤久美子(「男はつらいよ お帰り 寅さん」)、桃井かおり(「一度も撃ってません」)、安田成美(「Fukushima 50」)の各5氏です。桃井さんはビデオ経由で授賞式にリモート参加しました。
最優秀賞を受賞した黒木さんは、両袖が透けるシフォン生地のドレスに身を包みました。胸元にはきらめいた黒のビジュウが施され、レッドカーペットらしい華やいだ印象に。裾もほのかに透けていて、ダークロマンティックのたたずまいです。
江口さんがまとった黒のドレスは、左脇がカットアウト(くり抜き)されていて、お腹の素肌がわずかにのぞいています。「チラ腹見せ」は世界トレンドになっていますが、こういったスリットのような肌見せはシャープな見え具合を演出できます。
後藤さんは白のジャケットに黒のパンツという、凜々しくモダンなスタイリングで登場。スカーフのように垂らした、きらめくボウタイで縦長シルエットを描き出しました。マニッシュなパンツルックは、「芯の強い女性像」を印象づける今の時代の流れにマッチしています。
安田さんは上品なノースリーブの黒系ロングドレスをチョイス。細く長いシルエットが優美な印象を醸し出しています。
LAからリモート中継で参加した桃井さんはスパンコールで埋め尽くしたまばゆい装いで大女優の貫禄を示していました。
クラシックとこなれ感のミックスがポイント
優秀助演男優賞に選ばれたのは宇野祥平(「罪の声」)、妻夫木聡(「浅田家!」)、成田凌(「窮鼠はチーズの夢を見る」)、星野源(「罪の声」)、渡辺謙(「Fukushima 50」)の各5氏です。最優秀賞は渡辺さんが受賞しました。
受賞した渡辺さんはさすがのレッドカーペット慣れを思わせる正統派スーツの出で立ち。見るからに上質な仕立てのスーツが世界的俳優にふさわしい品格を漂わせていました。
宇野さんはスタンダードな黒スーツ姿で、ポケットチーフも基本通り。妻夫木さんは蝶ネクタイを締めたクラシックな礼装。成田さんは黒のスーツで眼鏡をかけてインテリジェンスなムード。
星野さんはスーツですが、イエローがかったシャツを着て、ネクタイはなし。第1ボタンも開けて、気負わない雰囲気に見せています。オーソドックスなスーツ姿が多い中、星野さんのこなれた装いは全体がかしこまって見えすぎるのを防ぐうえでも効果的に映りました。
モノトーンコーデをファンタジックに若々しく着こなす
新人俳優賞には服部樹咲(「ミッドナイトスワン」)、蒔田彩珠(「朝が来る」)、森七菜(「ラストレター」)、岡田健史(「望み」「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」「弥生、三月-君を愛した30年-」)、奥平大兼(「MOTHER マザー」)、永瀬廉(「弱虫ペダル」)が選ばれました。
蒔田さんは黒、森さんは白の透けるシアー素材とレースを取り入れたドレスで登場。服部さんはブラトップのような、ビジュウモチーフがついたドレス。3人ともフリルやふんわり袖、ビジュウ使いなどでモノトーンコーデを若々しくファンタジーに仕上げていました。
男性陣の岡田さん、奥平さん、永瀬さんはブラック主体の装いを凛々しく取り入れていました。
装う楽しさをあきらめない 自分らしさを服で表現
全体を眺めて感じられるのは、例年とは違って華やぎを抑え気味ではあっても、しっかり「自分らしさ」を随所に示そうとした、受賞者たちのおしゃれマインドです。
キーワードになった「ダークロマンティック」には、シックなたたずまいと甘いムードをミックスするバランスがポイント。スーツやドレスといった、クラシックの定番服にちょっとだけ新しさを加えるアレンジが「ありきたり感」を遠ざけてくれます。
コロナ禍の中でも、状況と折り合いをつけながら、装う楽しさをあきらめない着こなしは、さすがの「役者魂」を示すかのよう。日本アカデミー賞という大舞台にふさわしい特別な華やぎと格式を印象づけていて、私たちの普段の装いにも参考になるところがあると感じました。
(関連サイト)
日本アカデミー賞協会