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北海道新幹線「並行在来線」問題 現状放置で地域衰退の道庁政策姿勢が厚労省セミナーで浮き彫りに

鉄道乗蔵鉄道ライター

 北海道庁主導による密室協議の場で、赤字額を過大に、売上高を過少に見積もり、バス会社との協議もなく、本来であれば廃止対象とはならない輸送密度が2000人を超える余市―小樽間も含めた函館本線の長万部―小樽間の廃止の方針が決定された北海道新幹線の「並行在来線」問題。

 道庁はこうした試算を行うにあたって、国立社会保障・人口問題研究所(通称:社人研)の将来推計人口をベースとして、函館本線の長万部―小樽間の沿線である後志地方の人口が2060年には2015年の3分の1になることを前提条件としていた。

 しかし、この推計は、今までの人口変化がこのまま続くとしたもので、新幹線開業のような大きな社会経済環境の変化を考慮していない。道庁は、こうした推計方法を理解しないまま、この結果をそのまま在来線の存廃を決める政策決定の根拠としていたことは、2023年7月31日付記事(北海道新幹線「並行在来線」問題 道庁は将来人口推計値の計算方法を理解せずそのまま流用)でも指摘したとおりだ。

 実際、この人口推計の方法については、2020年1月30日に社人研が主催した「厚生政策セミナー」で当時の人口構造研究部長が具体的な言及を行っており、その記録が厚生労働省のYoutubeチャンネルに残されていると筆者のもとに情報提供が寄せられた。

新幹線開業など社会環境変化は推計結果に盛り込まれていない

2:50~3:42の間で人口推計の方法について言及。2:50から再生されます。

第24回厚生政策セミナー
 人口減少時代における地域政策の諸課題と今後の方向性

日時:2020年1月30日(木)13:00~16:30(開場12:30)
会場:日比谷コンベンションホール
   〒100-0012
  東京都千代田区日比谷公園1番4号
主催:国立社会保障・人口問題研究所

講演者 遠藤久夫(国立社会保障・人口問題研究所 所長) 小池司朗(国立社会保障・人口問題研究所人口構造研究部 部長) 松原宏(東京大学大学院総合文化研究科 教授) 五十嵐智嘉子(一般社団法人北海道総合研究調査会 理事長) 丸山洋平(札幌市立大学デザイン学部 准教授) 長谷川普一(新潟県都市政策部GISセンター) 瀬田史彦(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 准教授) 鈴木透(国立社会保障・人口問題研究所 副所長)

出典:②基調講演 小池司朗 (第24回厚生政策セミナー) 厚生労働省

 動画の中で、社人研の人口構造研究部長は、推計結果については「原則として、直近で観察されている地域別の出生・死亡・人口移動の状況が、今後も継続すると仮定した場合の将来人口である」と明言。つまり、何も手を打たずに現状を放置し続けた場合の推計結果が社人研の推計人口ということになる。

 さらに、「将来的に、鉄道や道路が新しくできたり、あるいは廃止されたり、新しい大規模な施設が立地したり、住宅地が開発されたりなどの社会環境の変化については、この推計では考慮されていない」と付け加えた。

 ここから読み取れることは、鉄道や道路の新規開業、大規模施設や住宅地の開発がなされた場合には、人口は増加傾向に転じることもありうるし、逆に鉄道の廃止などが進めば社人研の推計データよりも速いペースで人口減少が進むということもありうるということだ。

地域を活かすも殺すも政策決定者の意思次第

 道庁は、新幹線が開業するにも関わらずに北海道後志地方の人口が2060年には2015年の3分の1になることを前提として並行在来線の廃止の方針を決定した。

 これを社人研が、「人口推計結果は、何も手を打たずに現状を放置した場合の結果である」こと。「鉄道や道路の開業や廃止、新しい大規模施設の立地や住宅地の開発など将来的な社会環境の変化」によって推計の内容が変わり得ると発言していることを突き合わせると以下のようなことが浮き彫りになる。

 すなわち道庁は、巨額の公共投資がなされた新幹線開業という大きな社会環境変化が訪れるにも関わらずに、こうしたチャンスを地域に活かそうとせず、北海道後志地方の人口を将来的に3分の1に減少することに向けて、現状を放置し続けようとする投げやりな政策姿勢を取っているということだ。

 地方創生をテーマに掲げ、各地域でさまざまな関係者が地域を少しでも盛り上げようと取り組みを行っている中、こうした道庁の政策姿勢は社会から糾弾されるべきではないだろうか。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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