高まる米・イラン緊張とトランプ政権の国際法違反。最悪の結果を回避するために。
■ 高まる緊張
新年早々世界は大変な事態に陥っている。米イランの軍事緊張が高まり、「第三次世界大戦か?」という懸念が世界を覆っている。
国際的な批判を受け、イランからは報復の声が広がる中、米国トランプ政権の無法ぶりが際立っている。
これが現職米国大統領のツイッターかと思うとぞっとする。
このような危険な軍事挑発で戦争の導火線に火をつけるような行為をなぜするのか?
■ そもそもの発端は?
報道では、中東の声として、ソレイマニ司令官を美化するものも目立つ。
しかし、ソレイマニ司令官らイラン革命防衛隊はイラク戦争後のイラクやシリアで極めて残忍な人権侵害に加担してきた事実が報告されている。決して美化されたり、礼賛されるべきではない。
今回の事態の発端として、昨年イラクとイランで始まった反政府デモと、イラン当局の動きがある。
2019年、政治変革を求めるデモが相次いで起きた。香港のデモ等が日本では注目されているが、ここでも若い世代が立ち上がった。ところが、イランでは治安部隊がデモ参加者に残虐な弾圧を続け、多数の死者を出した。
BBCニュースが弾圧についてまとめているが、革命防衛隊に向けられる視線はこのようなもので、イランは一枚岩ではない。
そして、イラクのデモはこのようなものとして始まった。
さかのぼると、2003年のイラク戦争後、米国はイラク統治のためにシーア派を利用しイランの介入を招いた。マリキ政権下では特に宗派間対立があおられ、シーア派民兵によるスンニ派住民殺害が相次ぎ、ISの台頭を招き、イラクは地獄のような戦争に入った。
この反省のもと、現政権は宗派間融和を模索しているが、イランの影響力は増している。アブドルマハディ首相が昨年11月に反政府デモへの対応について責任を取って辞任を表明、ところが親イラン勢力は自らの意向に沿った首相の擁立を掲げて大統領に迫ったようで、イラクのサレハ大統領は12月26日、親イラン派の国会勢力が推す人物を首相に指名することを拒否し、大統領を辞任する用意があると表明していた。
こうしたなか、ソレイマニ司令官は人々の怒りの矛先を米国に向けるようゲームチェンジを模索して画策していたとの報道もある。
■ トランプ政権による国際法違反
このように、イランや革命防衛隊の動きには非常に大きな問題があると指摘できる。しかし、だからと言って米国の軍事行動を正当化することは到底できない。
トランプ政権による殺害指示は明白な国際法違反である。
ポンぺオ国務長官は予想される「差し迫った脅威」から自国民を守るための行動だったとする。
しかし、予想される攻撃の前に先制攻撃するという米国の言い訳は、イラク戦争で持ち出された「先制的自衛権行使」だが、こうした主張をすべて認めれば国連憲章が許容する自衛権の範囲は際限なく恣意的に拡大解釈され、およそすべての戦争が正当化されることとなり、国際秩序は崩壊する。
殺害は国連憲章上正当化される「自衛権行使」に該当しない超法規的殺害であり、イラクの主権侵害にもあたる。
冒頭のトランプ発言だが、
という。
このような武力による威嚇はそもそも、
すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
とする国連憲章2条4項に明白に反している。
安保理常任理事国である超大国アメリカが、このような露骨な武力による威嚇を行い、危険な軍事挑発により平和的な国際秩序を破壊しようとする行為は到底許されない。
特に、「イランおよびイラン文化にとって極めて高位かつ重要な」施設への攻撃を予告しているが、軍事目標でない文化的施設の攻撃は、ジュネーブ条約で明確に禁止された攻撃であり、戦争犯罪に該当する。米国の大統領が戦争犯罪の遂行を予告するとは国際法違反も甚だしく、狂気の沙汰といえる。
■ 第三次大戦に突入しないために
トランプ大統領は、大規模な戦争に発展しかねないこのような軍事挑発、武力による威嚇をこれ以上厳に慎むべきだ。
翻ればイラク戦争後にイラク統治のためにシーア派を利用しイランの介入を招いたのは米国であり、今の事態は中東を土足で踏みにじってきた外交政策のつけといえる。
2003年のイラク戦争後、中東の混乱は続き夥しい人命が奪われた。その反省もなく紛争の導火線に火をつけ地域を深刻な危機にさらす米国の行動は厳しい非難に値する。冒頭で述べた通り、中東情勢は極めて複雑であるが、洗練された思慮深い外交努力を行わず、脊髄反射レベルで、国際法を明確に無視して、西部劇のような感覚で、火に油を注ぐことがいかに危険であるか、重々考えるべきである。
戦争が始まれば、命を奪われるのは圧倒的に若い人たち、イラクとイランで幅広く非暴力の変化を求めて、未来に希望を作ろうとした若者たち、そして罪のない子どもたちである。
そして、ひとたびパンドラの箱が開かれれば、世界規模の第三次大戦にすら発展しかねない。
大統領の暴走で世界秩序が崩壊しかねない今、政権内と議会がブレーキをかけること、国際社会が一致して自制を求めることが必要だ。
日本政府はいまだコメントを出していないようであるが(1月5日午後2時現在)、このような事態にあって大変情けない。
日本は紛争回避のための姿勢を鮮明にすべきであり、軍事行動に抗議し、強く自制を求めるべきだ。
そして、自衛隊員の命を危険にさらし、憲法9条に反して日本が戦争に参加する危険をはらむ中東への自衛隊派遣は中止すべきである。