スーパーの食品「奥から取るのは悪いのかな?」今日食べるあんパンでも明日以降の賞味期限のを取りますか?
2019年4月11日に放映されたテレビ番組で、タレントが、「スーパーの食品を、(賞味期限の新しい)奥から取るのは悪いのかな?」と語ったことが議論になった。
4月15日朝に放映された、テレビ朝日系列「グッド!モーニング」でも、賞味期限が話題になった。筆者が4月14日に受けた取材内容も紹介された。消費者50人に「賞味期限切れ食品を買うか?買わないか?」について、番組取材班が街で尋ねた結果が発表され、50人中、24人が「買う」、26人が「買わない」で、「買わない」派が過半数となった。
賞味期限切れ食品を買わない理由として挙げられたのが「味が悪そう」「おなかを壊しそう」「すぐに消費しないといけない」「お金を出すなら良いものを買いたい」など。
後ろの2つはわかるが、「おなかを壊しそう」というのは、賞味期限のことを「消費期限」と混同・誤解している意見だと思われる。
「消費期限」は、おおむね5日以内の日持ちの食品(弁当・おにぎり・生クリームのケーキなど)に表示される。下のグラフの赤線で示す通り、劣化が早いため、早めに食べた方がいい。
だが「賞味期限」は美味しさの目安。美味しく食べられる期間を企業や分析機関が算出し、それにさらに「安全係数」という1未満の数字を掛けることが多いからだ。国(消費者庁)は0.8以上1未満を推奨しているが、分析機関などは国の推奨より低い0.7〜0.9を勧めている場合もある。つまり、「美味しく食べられる期間」より短めに設定され、印字されている。下のグラフの黄色を見ると、賞味期限(縦の点線)が過ぎても急激に品質が劣化することなく、ゆるやかに下降していくのがわかる。
すぐ食べるなら手前から、何日かかけて食べきるならそれに応じて
タレントの発した疑問「奥から取るのは悪いのかな?」という問いに対し、「いい」「悪い」で答える方がわかりやすいだろう。
だが、いろんな種類の食品があり、買う人がすぐ食べるのかそうでないのかも違う中、いいか悪いか、二者択一の答えでは割り切れない。
答えは、その人や食品によって異なる。
「すぐ食べるなら手前から取る」(奥から取るのは悪い)
「何日かかけて食べきるなら、それに応じた賞味期限のものを取る」(奥から取っても許容される)
ということだろう。
筆者は、賞味期限が安全係数を乗じて2割以上短めになっている背景を知っているので、牛乳などでも、賞味期限接近で割引シールが貼られたものを手前から取る。多少過ぎても気にしない。
賞味期限は美味しさの目安であり、品質が切れる日付ではない。だから、必ずしもそれ以内に食べきらないとダメ、というわけではない。
でも、小さいお子さんや高齢者の方など、免疫力の低い方と一緒に暮らしていて、「やっぱり賞味期限は守りたい」「大人はともかく、子どもには賞味期限内のものを食べさせたい」という場合は、それに応じた期限のものを取ればいいと思う。
たとえば、牛乳1リットルを200ml(ミリリットル)ずつ、5日間かけて飲みきるなら、その分だけ日にちが残っているものを取ればいいだろう。
では、今日食べるあんパンだったらどうだろう?今日食べることがわかっているのに、翌日以降のものを何がなんでも取る、という人もいるが、それはやり過ぎではないか。前述のタレントの質問の答えとしては「NO」ということになる。
約1800名に聞いた結果では9割近くが「奥から取ったことある」と回答
筆者が全国の講演で1,755名対象に、リアルタイムアンケートシステムrespon(レスポン)を使ってアンケートを取ったところ、「スーパーなどの買い物で、商品棚の奥へ手を伸ばして新しい日付のものを取ったことがある」人は1,566名と、ほぼ9割(89%)にのぼった。
食品ロス問題を認識している人ほど商品棚の手前から取る
2019年4月12日、消費者庁が発表した全国男女3,000人を対象にした、消費者の食品ロスの認知度や取り組みに関する調査によれば、スーパーなどの商品棚で、手前に並んだ賞味期限の近いものから手に取る人の割合は、食品ロス問題を知っている人ほど高くなっている。
なぜすぐ食べるものまで後ろから取っちゃいけないのか?
なぜ、すぐ食べる食品は、商品棚の後ろから取ってはいけないのだろう?
主な理由を3つ挙げてみよう。
1、お店の人は「先入れ先出し」して、順番に取って行ってもらえるよう並べている
スーパーやコンビニでは、「先入れ先出し」と言って、日付の近づいたものから順番に出荷するようにしている。裏の倉庫(バックヤード)でもそうだし、商品棚でもそうだ。
せっかく綺麗に並べたのに、消費者が、奥に手を伸ばしてぐちゃぐちゃにしてしまうと、本当に困る。あるコンビニオーナーは、「パンは、3種類の鮮度(消費期限や賞味期限)を絶対に同時に並べないようにしている。なぜなら一番新しいのをお客さんが引っ張り出して取っていってしまうから」と語る。
自分の立場だけでなく、相手の立場、店の立場を考える余裕があれば、「自分が店のオーナーだったら困るだろうな」と察しがつく。
2、売れ残りは自治体の税金を使って家庭ごみと一緒に焼却処分される
コンビニやスーパーで売れ残った食品は、企業側ももちろん廃棄コストを払うが、「事業系一般廃棄物」として、自治体の税金も使われ、家庭ごみと一緒に焼却処分されることが大半だ。そのコストは、東京都世田谷区では1kgあたり57円(2017年度)だという。
参考:
2019年4月発行 東京都世田谷区 事業系一般廃棄物 ガイドブック
自分たちが納めた、安くはない税金が、売れ残り食品の焼却処分に費やされ、自分の首を絞めることになる。
3、処分が多ければ多いほど間接的に食料品価格に上乗せになる
スーパーやコンビニ、百貨店や飲食店は、ボランティアではない。廃棄コストを自費でまかなっていたら、赤字になってしまう。収入を得た中から廃棄コストを負担することになる。廃棄コストの増加は、通常、経営に響く(コンビニ会計で加盟店負担にしているコンビニを除く)。
どこから収入を得るかと言えば、顧客からだろう。
まとめ:すぐ食べるものは無理のない範囲で手前から取ろう
2019年4月12日、農林水産省と環境省は、食品ロスの新たな推計値である平成28年度の値を発表した。
平成27年度の646万トンに比べて3万トン低い643万トン。
内訳を見ると、事業系由来のロスは357万トンから352万トンに減った一方、家庭からのロスは289万トンから291万トンに増えている。
「新しいものを」と躍起になって、店の商品棚の奥から引っ張り出してきて買って、結局、家庭の冷蔵庫や戸棚で古くして捨てているのでは元も子もない。
まとめると、「すぐ食べるものなら、商品棚の手前から取ろう」ということになる。
もちろん、無理のない範囲で。
腹落ち(納得)していない行動は続かない。