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伊豆半島だけでなく東京や横浜でも大災害が発生した狩野川台風

饒村曜気象予報士
がけ崩れ(ペイレスイメージズ/アフロ)

 晴天をもたらしている高気圧が日本の東海上に去り、東シナ海に低気圧が発生して接近・通過しますので、天気は周期的に変化します(図1)。

図1 予想天気図(平成29年9月28日9時の予想、気象庁ホームページより)
図1 予想天気図(平成29年9月28日9時の予想、気象庁ホームページより)

 低気圧が通過するたびに気温が下がり秋本番となってゆきます。

 現在、台風が存在していませんが、例年であれば、まだまだ台風シーズンが続いており、昭和33年には狩野川台風が9月27日0時頃に神奈川県三浦半島に上陸しています。

狩野川台風は東京や横浜でも大災害

 昭和33年9月21日にグアム島付近で発生した台風22号は、発生後から北へ進み続け、24日には中心気圧877hPaを観測するなど、大型で猛烈な台風となりました。台風が北緯30度線を越えたあたりから急速に衰え、26日21時過ぎに静岡県伊豆半島の南端をかすめ、27日0時頃に神奈川県三浦半島に上陸し、1時頃に東京を通過しています。

 台風22号の接近により、日本付近の前線活動が活発になり、静岡県から関東地方、東北地方南部では所により総降水量が700ミリを超える記録的な大雨となりました(図2、図3)。伊豆半島でも狩野川流域では700ミリを超えています(図4)。

図2 狩野川台風通過時の総降水量(昭和33年9月26日~28日、気象庁ホームページより)
図2 狩野川台風通過時の総降水量(昭和33年9月26日~28日、気象庁ホームページより)
図3 地上天気図(昭和33年9月26日9時、気象庁ホームページより)
図3 地上天気図(昭和33年9月26日9時、気象庁ホームページより)
図4 狩野川台風による伊豆半島の総降水量
図4 狩野川台風による伊豆半島の総降水量

 このため、伊豆半島の狩野川が氾濫し、狩野川流域で1000名以上が亡くなったことから、台風22号は「狩野川台風」と命名されました。

 このため、狩野川台風というと伊豆半島で大雨をもたらした台風というイメージがありますが、関東地方でも記録的な大雨で中小河川が氾濫し、2日間も交通網が寸断しています。がけ崩れなどの土砂災害が多発し、低地帯の江東地域で3メートルも浸水したところがあるなど、各地で浸水被害がでています。

 このとき、上野の不忍池など各地の池の水があふれ出し、道路などで逃げ出した魚のつかみ取りができたと言われていますが、筆者も、先輩の予報官から、「気象庁脇の皇居の堀の水があふれ、気象庁構内で鯉がつかみ取りできた」と聞いたことがあります。

 狩野川台風の被害は、東日本を中心とする29都道府県におよび、死者・行方不明者1269名、住家被害4300棟、浸水家屋52万2000棟などです。死者が多かったのは伊豆半島の狩野川流域ですが、首都圏でも記録的な大雨により大きな被害が発生し、浸水家屋のほとんどが首都圏です。

東京と横浜の日降水量の記録は今も狩野川台風

 日本の日降水量の記録を見ると、ほとんどが台風によるものです。日降水量ではなく、1時間降水量や10分間降水量といった短い時間の降水量となると、雷雨や低気圧によって台風以上に強い雨を降らせることがあります。

 しかし、この場合は、ほとんんどが狭い地域で、しかも限られた時間しか降りません。

 大きな被害をもたらす、広い地域に多量の雨となると、やはり台風による雨ということになります。

 東京の日降水量の最高記録は、昭和33 年9 月26 日の371.9ミリで、狩野川台風によるものです。それも、2位の278.3ミリを大きく離しての1位です(表)。また、横浜の日降水量の最高記録は、昭和33 年9 月26 日の287.2ミリですが、これも狩野川台風によるものです。

表 東京と横浜の降水量の記録(気象庁ホームページをもとに筆者作成)
表 東京と横浜の降水量の記録(気象庁ホームページをもとに筆者作成)

 地球温暖化で極端な豪雨が増えたと言われることがありますが、そうであっても、なくても、狩野川台風以降、狩野川台風クラスの大雨が降っていないのは事実です。

 だから、東京と横浜の日降水量の記録は、未だに狩野川台風のときのものです。

東京と横浜では狩野川台風クラスの大雨が降っていない

 狩野川台風による東京や横浜の死傷者の多くは、戦後斜面を削って建てた住宅が密集していた所での崖崩れ、土砂崩れによる被害ですが、これは、その後に増加してきた新しい災害形態です。

 さらに、狩野川台風以降、道路の舗装が進んで降雨から出水までの時間が短くなり、宅地開発が進んで遊水池が減り、崖下に多くの住宅が作られています。

 つまり、狩野川台風時よりも、大雨災害を受けやすくなっていますので、少なくとも、狩野川台風クラスの大雨が降った場合でも大丈夫か、防災対応について、今一度の見直しが必要です。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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