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なぜ感染者ゼロなのに全市民にPCR検査?ハルビン市民が怒っている「本当の」理由

中島恵ジャーナリスト
雪の中、屋外でPCR検査を受ける人々(写真:ロイター/アフロ)

1月22日、中国東北部にある黒竜江省ハルビン(哈爾浜)市は、感染者が1人も確認されていないのにもかかわらず、約1000万人の全市民にPCR検査を実施すると発表。24日から検査を実施しているが、これまで従順に従ってきた市民の間からは、「やりすぎだ」と不満や批判が高まってきている。

市民はなぜ怒っているのか

市政府は全市民にPCR検査を実施する理由として「全国各地で新型コロナのオミクロン株の感染者が報告されていること」や「春節(1月31日から)で人の移動が増えること」などを挙げている。

確かに、2021年末から西安市や天津市、河南省などでオミクロン株の感染者が急増、全国31の省や直轄市などに広がっている。春節を控え、帰省のために省を跨ぐ移動をする人もここ数日で相当増えることが予想される。

そのため、ハルビン市政府の「先手を打った対策」もわからないでもない、という声もあることはある。だが、SNSの声を拾ってみると、市民の不満はPCR検査をして感染者を洗い出すこと自体の是非ではなく、それ以外にある、と感じる。

地方が中央に極端に気を遣う

市民たちが不満や批判をする理由は、ハルビン市だけでなく黒竜江省全体(人口は約3200万人)でも、この1カ月以上、市中感染者は1人も確認されていないということが前提にある。

それなのに、これだけ大規模なPCR検査をする背景には「市民のことを心配してくれているのではなく、市政府が省政府や中央政府に忖度しているからでしょう?」ということがある。

つまり「市民のことなんか、本当はどうでもいいと思っているんだろう?」ということが透けて見えてしまうことと、「自分たちが役人たちの保身(昇進や地位の安定)のために辛い思いをさせられる」という怒りだ。

これまでも報道されているが、ゼロコロナ政策を掲げる中国では、末端の行政に行けば行くほど、コロナ対応に失敗したときの処分は厳しくなる。省よりも市、市よりも県(中国では県より市のほうが行政単位は大きい)というように、小さな地方のほうが、直接住民の管理を任されるため、大きなプレッシャーがかかるのだ。

そのため、団地という最小単位での管理(敷地内への外部の人の出入りや住民の外出)も厳しくなる。

地方政府の担当者にしてみれば「感染者を出したら、自分たちの責任になる。降格やクビになるかもしれない」といった不安や萎縮がある。

そうしたことから、感染者ゼロでもあらかじめPCR検査を実施して「ちゃんと仕事をしている」ことを上の行政単位にアピールしなければならないということだ。

気温マイナス20度の極寒の中

しかし、さまざまな事情を抱えた市民一人ひとりにとっては、たまったものではない。この時期のハルビンは最高気温でもマイナス10度前後、最低気温はマイナス20~25度前後と極寒だ。

日用品の買い出しだけでも大変なのに「こんな寒さの中で、屋外の検査場に何時間も並べというのか?正気の沙汰ではない」「老人や子どもには無理。コロナにかかるより前に、凍え死ぬよ」「なんでここまでする……」などの批判の声がSNSにたくさん書き込まれている。

コロナの感染者が確認されたならともかく、そうではないのに、わざわざここまでやるということに呆れているのだ。

しかし、SNS上には「検査に出かけるしかないよね……」という諦めに似た声も多い。もし地方政府の指示に従わなければ、刑事罰となってしまうからであり、たとえ吹雪だろうと「自分は行かない」という選択肢はないからだ。

SNSにはハルビン市民以外の人々からも多くの意見がある。「感染者が出ていない都市だからといって安心してはいられない。役人はどこも同じ。次は自分が住む町の番かもしれないから」という声も挙がっている。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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