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24時間テレビの心理学:日本の寄付総額は8000億、アメリカは36兆円!?:これからのチャリティー

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
愛は地球を救う?

■「24時間テレビ」37:愛は地球を救う

1978年(昭和53年)に始まった日本テレビ系列の「24時間テレビ」。毎年8月終わりの土日に放送され、いまや夏の風物詩でしょうか。今年は、第37回です。

これまでの36回の「24時間テレビ」に寄せられた寄付金の総額は、338億7,363万6,455円 。毎年日本中から10億円前後の募金が寄せられています。

日本テレビによれば、「募金は、経費を一切差し引かず、全額、被災地支援や福祉、環境保護に活用いたします。」ということです。

■なぜ「関ジャニ∞」24時間の司会?、なぜマラソンランナー城島茂さん(TOKIO)は101キロ走る?、なぜ障害者が出演?

心理学の研究によると、私たちの心は、統計の数字では動きません。統計上の数字が、客観的であり、正しい情報なのですが、それは私たちの心には響かないのです。

実際に困っている個人の名前や顔を知り、その苦難の状況を具体的に見聞きすることで、心が動きます。法律制定を進めたり、署名や寄付に応じようと思うのです。

さらに、障害を持った人が頑張っている姿を見ることで、応援したくなります。だれだって日常生活の中でみんな頑張っているのですが、テレビ局の企画で懸命にダンスしたり、泳いだり、登ったりすることで、その頑張りが私たちの心に届き、寄付やボランティアの行動を引き起こすのです。

また、24時間テレビでは「24時間頑張る司会者」がいます。「24時間頑張って走る芸能人マラソンライナー」がいます。瓶に入った小銭を「頑張って寄付する人」がいます。

その「頑張り」を見ていると、「私も頑張らなくては」と視聴者は感じます。それがジャニーズの有名人だったり、小さな子どもだったりすれば、効果は倍増です。その思いが、募金活動を引き起こします。

■「24時間テレビ」は偽善か

24時間テレビに関わる全ての人が、100パーセント善意だけで行動している、そんなことはないでしょう。ここは天国ではないのですから。子どもじゃあるまいし、そんなことを言う人はいないでしょう。

テレビですから当然演出もあるでしょう。視聴率も気にするでしょう。視聴率が取れるような企画をしたり、人気のある芸能人を出演させたりするでしょう。視聴率が下がり続ければ、番組も継続できないでしょう。スポーンサーも黙ってはいないでしょう。それに、視聴率が低過ぎ、何の盛り上がりもなければ、募金も集まらないでしょう。

では、24時間テレビに関わる人たちみんなが、善を装い、虚栄心や利己心だけで行動している「偽善」のか、そんなこともないでしょう。

私も、個人的に放送局のスタッフや芸能人に会うことがありますが、基本的には、良い人たちですね。

「24時間テレビなんて偽善だ」と言う人たちはいますが、「24時間テレビ」を放送しているからといって「日本テレビは、素晴らしいチャリティ番組を放送しているので他局よりもずっと善い放送局である」と、特にそんなふうに思っている人も、あまりいないのではないでしょうか(特に番組で偽善行為をする意味なんかない?)。

24時間テレビが、日本テレビのイメージアップにつながっていることはあるでしょうが、他局もそれぞれイメージアップは考えるでしょう。

アイスバケツチャレンジも、甲子園の高校野球も、大きくなれば様々な問題も指摘されます。ご指摘ごもっともです。でもそれと同時に、素晴らしい寄付金集め活動であり、輝く青春の一ページであることも、否定できないのではないでしょうか。

完璧でなければだめだとは、私は思いません。

日本テレビ「24時間テレビ」では、今回からこんな工夫もしています。

「24時間テレビチャリティー委員会」は、1978年の放送開始以来、「福祉」「環境」「災害復興」など、公益性の高い支援を全国的に展開してきました。

こうした事業は、すべて「任意団体」として 実施してきましたが、2013年に入って、「より活動の透明性を高め、迅速かつ広範囲な支援」を行うため「公益社団法人」の認定を受けることとし、移行作業を行ってきました。

2013年7月10日に一般社団法人を設立〜2013年12月1日、正式な「認定書」が届き「公益社団法人24時間テレビチャリティー委員会」が発足しました。

出典:24時間テレビチャリティー委員会について

*ボランティア活動とか、宗教団体による社会貢献活動とかって、往々にして実際には活動していない人が「完璧」を求めて批判しているような気がします。実際に活動している人は、色々あることはわかっているけど、でも良いことだから続けようと思ってるような気がします。もちろん、本当に詐欺的に人々をだます違法な行為は別ですが。

批判している人や団体が、実際に多額の寄付をしたり、熱心なボランティア活動をしているのなら、りっぱです。24時間テレビも、最初は不慣れですから福祉関係諸団体といろいろあったとも聞きますが、だんだん学んできたようですね。

■24時間テレビの放送内容:企業の社会的責任

一時期よりは福祉色が薄れたようですが、それでも、福祉関係の話題は多く出ます。義足の少女が富士山を登ったりします。

さて、『CSR(企業の社会的責任):「働きがい」を束ねる経営』(日本経済新聞社)の中には、「企業は本業を通じて貢献すべき」とあります。

メセナ(企業による芸術、文化への支援活動)も、フィランソロピー(企業の社会的な公益活動)も、大変結構なことですが、たとえば自動車会社なら交通事故が減るような自動車を作ることこそが、社会的貢献だということです。

そうすると、テレビ局は、社会貢献になるような番組作りこそが社会貢献だということになります。障害者福祉でいうならば、障害者への偏見を下げ、理解と支援が高まるような番組作りでしょう。

もちろん普段からまじめなドキュメンタリーなども作られていますが、残念ながら夜中の放送が多いでしょうか。でも、「24時間テレビ」なら、ゴールデンタイムに障害や難病をあつかったプログラムが放送できます。

芸能人や有名人が共に活動することは、心理学的に言えば、すばらしい「観察学習」です(人は、誰かが良い行動をとっているのを見るだけでも学ぶことができる)。視聴者への影響は大きいでしょう。

*まあ、でも、自分の会社が本業以外の社会貢献活動、ボランティア活動を行い、自分も参加した社員の皆さんの多くは、仕事とは異なる感動を味わうようですね。

■私たちのチャリティー:日本の年間寄付総額は8000億円、アメリカは36兆円

欧米のチャリティー番組と比較すると、「24時間テレビ」はこんなに不十分だぞという意見があります。ごもっともです。24時間テレビだけではなく、日本全体の寄付活動も、ボランティア活動も不十分ではないでしょうか。日本人が欧米人よりも思いやりがない等とは思いません。さまざまな文化や制度の問題が大きいでしょう。

日本では2010年時点で個人による寄附額は1,847億円、法人による寄附額は6,975億円となっており、 合計で8,822億円が寄附されています。しかし、アメリカ・イギリスなどと比較して寄附金総額は低水準で、 特に、個人寄附の割合が小さくなっています。

出典:寄附金の国際比較:内閣府

内閣府ホームページより
内閣府ホームページより

欧米に学ぶべき点は多く、また日本独自の方法を作り出す必要もあるでしょう。

キリスト教文化の中では、子どもも大人も教会で毎週献金をします。それは、「ご縁がありますよう」にと5円の小銭を入れるお賽銭とは異なり、実際に献金によって教会運営がなされます。

昔見た西部劇でのセリフです。「さあ、ここに私たちの町を作ろう。まず、私たちの学校と病院と教会を作ろう」。古い名作映画「野のユリ」(1963 アメリカ)では、通りすがりの黒人青年が、無償で教会堂作りを手伝います。

日本だって、ボランティアなんて言葉がない時から、「手弁当」という活動がありましたけれどね。京都の大きなお寺の改築だって、みなさんからの寄付ですけどね。

子どもたちが、貯金をして「24時間テレビ」で募金するのは、とても良い経験だと思います。

「24時間テレビ」には改善点も多いでしょう。どんどん批判しましょう。建設的な批判をしましょう。そしてみんなの力で、日本の素晴らしいチャリティー文化を作っていきたいと思います。

・公開時見出しの数字が間違っていました。訂正してお詫び申し上げます。8/31,13:00

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■関連ページ

24時間テレビの心理メカニズム:森三中の大島はなぜ完走を目指すのか?:みんなで助け合うためにでは、心理学的解説とともに、出演者のギャラの問題等も具体的に取り上げました。

アイスバケツチャレンジ:え?! どうして悪いの?:寄付もチャリティーも普通になる日はいつだろうでは、アイスバケツチャレンジは広げるべきではないチェーンメールだとの批判に答えています。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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