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私が体験したテレビのヤラセとガチと演出:「ほこ×たて」番組終了に思う

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■フジテレビ「ほこ×たて」放送終了を決定「信頼を裏切る結果」

フジテレビは1日、出演者からの“やらせ告発”を受け、放送を見合わせていたバラエティー番組「ほこ×たて」(日曜、午後7・00)の放送終了を決定した。~「出演者の方からご指摘頂いた番組の順番や、対戦の運営に関する経緯は、大筋において事実であり不適切な演出があったことが、社内の調査で確認されました」~「視聴者の皆様、真摯にご協力頂いた出演者の皆様の信頼を裏切る結果となってしまいましたことを深く反省し、心からお詫び申し上げます」

出典:フジテレビ「ほこ×たて」放送終了を決定「信頼を裏切る結果」デイリースポーツ Y! 11月1日(金)17時38分

■バラエティー番組

全国放送のバラエティー番組に、何度か出演したことがあります。素人の私から見れば、すごいお金と手間隙がかかっているように見えます。あるバラエティー番組に出たときには、収録前に当地新潟から東京へ2度打ち合わせに行きました。

一度目は、数名にスタッフさんと話をしました。二度めは、大きな会議室に構成作家さんをはじめ大勢のスタッフがいる中で、会議が進められました。

分厚い参考資料と台本が渡されました。本番直前に最終版の台本が渡されますが、収録スタジオには持って入るなと言われました。

報道番組の場合は、台本も、私が持っていきたいと思えば他の資料も持って入れます。「どうぞ先生が思ったままを話してください」などと言ってもらえます。

でも、バラエティーはきついですね。「これができますか」「あれができますか」と結構きつい要望がでます。台本や資料をスタジオに持ち込むと、私は「心理学者」として出演するので、そんなものを持っているとタレントさんからの信頼が得られなくなると言われました。何にも見ないで、ペラペラとしゃべれるのが、「学者」というわけです。

タレントさんたちに、感心したふりをさせるのではなく、本当に感心してもらわなくてはなりません。

■バラエティーの台本

ただ好き勝手にふざけて見えるようなバラエティーも、大変な労力で作られています。台本は、番組によっていろいろですね。大まかな進行がある番組もあります。

最初にお笑い芸人がネタをやり、次にゲストがコメントを言いといった程度の内容ですが、リハーサルでカメラの動きが確認されます。そうしないと、的確にタイミングよく出演者のアップなんか撮れないでしょう。

でも、セリフが決まっているわけではありません。ボケるにしても、どうボケるかは、その芸人さんに任されています。事前にもちネタを用意するかもしれませんが、その場の流れでボケ方を変えたりもするでしょう。

■バラエティーで心理テスト

ゲストに心理テストをするというバラエティーに出演したことがあります。普段は別の企画で進むレギュラー番組ですが、その回だけは心理テストでした。上記のような大まかな流れはあったものの、内容はすべてガチ(ヤラセなし)でした(司会はお笑い二人組み)。

ゲストは俳優さんで、本気で事前に心理テストに答えていました。私は、回答を事前に知らされていましたが、他の出演タレントさんには知らされていません。

「さあ、ゲストのBさんは、何と回答したでしょうか?」と司会者が言って、ぺラッと紙をはがすと、回答が出てきます。出演者のタレントさんたちは、回答を見て、笑ったり、感心したり、首をひねったり。いろいろ面白い突込みを入れます。

その後で、私が心理学的な解説をするという番組でした。

出演者たちの自然な反応が笑いを呼びます。事前に回答を教えていたら、視聴者が見て面白い絵は撮れないでしょう。倫理的な問題というよりも、面白い番組作りのために、ガチでやる部分は多いと思います。

私には、ゲスト以外の出演タレントさんたちの悩みなどのアンケート結果も事前に渡されました。そのアンケート結果は、直接番組で取り上げたわけではありませんが、心理学者が何かコメントを言う際の参考にしてくださいという意味でした。手間隙かけた、丁寧な番組作りでした。

バラエティーは、練り上げた企画と綿密な準備、そして同時にその一瞬一瞬のタレントさんのひらめきからできているような気がします。

■様々な専門家がずらりと並ぶ番組

事前にテーマが知らされて、専門家たちが話題を用意します。その情報をスタッフがまとめます。ただし、スタッフがまとめた通りには、全然進みません。そのとき、そのときです。

タレントさんたちには、どこで誰が何を言うといった台本はないと思います。お笑い芸人さんたちは、実に的確にボケて、ツッコみますね。すごいです。

専門家の中には、長々と小難しい話をする人もいましたが、多くは編集され、カットされます。芸人さんたちのしゃべくりは、ほとんどそのまま使われていましたね。

ちなみに、毒舌を売り物にしている出演者も、初対面の私には礼儀正しく対応してくださいました。番組でうんちくをいっぱい語っている専門家の中には、控え室でも同じようにうんちく語っている人もいました。変わり者に見える人は、演技やネタではなく、本当に変わり者だと思いました。

元気いっぱいのお笑い芸人司会者さんは、収録の合間の休憩時間も、スタジオ脇のソファーに座って、しゃべり続けていました。

■依頼されることも

上記とは別のバラエティー番組です。コメントするときに、できればきつめのコメント、あるいは、できればやさしいコメントなどと、お願いされたことはあります。ちょっといじめてくださいと頼まれることもあります。

そういう番組では、事前の出演交渉段階で、そういう演出意図を理解していただけますかと問われました。そういう番組もありますね。

ただし、コメントを言われたタレントの反応は、ガチでした。

■ボツになった番組コーナー

あるバラエティー番組で、私がある現場に行って、そこでコメントを収録しました。そして、関連の現場にスタッフが行って、別の一般の人たちのインタビューを取りました。この2つで、一つの番組コーナーができるはずでした。

ところが、後日連絡がありました。

「すいません、碓井さんのコメントは良かったのですが、もう一つの収録で、ゴールデンタイムの番組に耐えられるだけの質のものが撮れませんでした。申し訳ないのですが、コーナー自体がボツになりました」。

ここで、「ヤラセ」で番組を作ることもできたと思うのですが、スタッフはそうしなかったわけです。

■番組制作者の余裕

この番組では、まだ余裕があったのでしょう。今回の「ほこ×たて」の対決企画でも、上手くいかなかったのですから、ボツという選択もあったはずです。でも残念ながら、制作会社にその余裕はありませんでした。まじめな出演者が腹を立てるような「演出」、視聴者が裏切られたと感じるような番組を、結果的に作ってしました。

制作会社が悪かったのか、依頼主が悪かったのか、それはまだわかりません。

ちなみに、テレビ局自体に呼ばれたときと、下請け孫請けの制作会社に呼ばれたときでは、泊まるホテルや弁当が違います。使える予算や時間がが違うのでしょうか。

■許される演出、許されないヤラセ

バラエティでも報道やドキュメンタリーでもありますが、パソコンに向かって仕事をしているようなふりをして、その様子を撮ることがあります。いったんテレビ局に入ったのに、「すいません、入るところを撮りたいので、もう一度お願いします」ということもあります。

これは、許される演出です。実際に、私は普段パソコンで仕事をしていますし、そのテレビ局に玄関から入ってきたのですから。

でも、たとえば私が普段ボランティアなんかしていないのに、テレビの収録のためにボランティアしているふりをするとしたら、これはヤラセです。許されません。

■「ほこ×たて」終了に思うこと

落語家や漫才師の言うことに、目くじらを立てる人はいません。バラエティーの中でも、あきらかにおふざけとわかる部分なら、お芝居が入っていても文句は言われません。

でも、バラエティーと報道とドキュメンタリー的なものが、区別されにくくなっています。ニュースにお笑い芸人が出てきますし、バラエティーで、真剣に何かに取り組んだりしています。その中で、許される演出と許されないヤラセの感覚が、ずれてしまうことがあるのかもしれません。

番組の制作費は削られています。みんな時間に追われています。それでも、私の知る限り、テレビスタッフと出演者の皆さんは、少しでも良い番組(視聴率も良いし、みんなに喜んでもらえる番組)を作ろうと、努力されています。

夜中に放送していた「ほこ×たて」は、低予算ながら、アイデアと企画勝負で面白い番組でした。大好きでした。ゴールデンに上がったあとも、視聴率評判共に、良い番組でした。しかし、どこかで無理があったのでしょう。

今回は、あっという間に番組終了になってしまいました。ぜひ、きちんと調査していただきたいと思います。いったい何が起きたのか、何が問題だったのか。

番組を終了させればよいわけではありません。たくさんの熱心なファンがいました。懸命に戦った一般の出演者がいました。問題をきちんと検討し、改善策を出して欲しいと思います。

そしてまた、生まれ変わった「ほこ×たて」を見てみたいと願っています。

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碓井真史:ローカルのラジオ番組2本にレギュラー出演。ローカルのテレビ番組にゲスト出演。ローカルテレビ局の番組審議委員。東京からの報道番組やバラエティー番組にたまに出演。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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