24時間テレビの心理メカニズム:森三中の大島はなぜ完走を目指すのか?:みんなで助け合うために
■「人って誰かの役に立ちたいと思う。すごく素敵な思いですけど、すぐに忘れちゃうんですよね。だから、義足で立って募金箱を持つ」
24時間テレビ36愛は地球を救うドラマスペシャル「今日の日はさようなら」。悪性リンパ腫になってしまった主人公(嵐の大野智さん)と友人になった闘病中の青年(Hey!Say!JUMP山田涼介さん)のセリフです。
彼は、4つの頃から入院し続け、片足を失っています。「生きることに執着しないようにしてきた」と語るように、いつも物静かです。ズボンをはいて普通に立っていれば義足は見えませんが、募金活動をするときは、あえて義足が見えるように立ちます。どうして?と質問されて、彼は静かに答えます。
「人って誰かの役に立ちたいと思う。すごく素敵な思いですけど、すぐに忘れちゃうんですよね。だから、義足で立って募金箱を持つ」。
「けっこう募金あつまるんですよ。僕も誰かの役にたちたいから」。
人は優しい心を持っている。誰かを助けたいと願っている。でも、すぐ忘れる。普段は忘れている。だから、ときどき、思い出してもらえるような、きっかかが必要だと思うのです。その一つが、毎年恒例の日本テレビ系列「24時間テレビ・愛は地球を救う」なのでしょう。
わざと義足を見せるなんて、あざといでしょうか。お涙ちょうだいでしょうか。偽善的でしょうか。
でも、脚本家はあえてこのセリフを言わせているような気がします。それが「24時間テレビ」だと。病気で苦しんでいる人。障害で苦しんでいる人。子ども、高齢者、社会的弱者、格差、戦争。わかりやすくみんなに見てもらう。あなたの助けが必要だと感じてもらうために。
■なぜドラマ?ドキュメント?:人は数字やグラフではでは動かない
社会には様々な問題があります。助け合いが必要です。でも、心理学の研究によると、社会の問題を数字やグラフでで表しても、人間はなかなか動きません。人は、数字やグラフではなく、一人の人の物語を通して動きます。
ある病気や障害を理解してもらうためには、理論や統計ではなく、一人の生の声、一人の人生の物語の方が効果的なのです。だれかが勇気を出して前に出てきてくれる。取材に協力してくれる。ドラマ化される。そうして私たちは理解をします。寄付もしようと思います。
■どうして「少女」? なぜ美男美女? なぜジャニーズや上戸彩 さんやAKB48?
24時間テレビにかぎりませんが、大勢いる人たちの中で、よく若い女性が選ばれます。たとえば、障害者スポーツで活躍していた立木早絵さんは、番組内で津軽海峡縦断リレーやキリマンジャロ登山など様々なチャレンジをしてきました。最初に24時間テレビに出演したのは、15歳の時でした。
魅力的な女性だと思います。応援してくれるファンも増えたことでしょう。一方、こんな演出をあざといと思う人もいるでしょう。視聴率稼ぎだと思う人もいるでしょう。けれど、心理学的に見て、人々の理解を深め支援を集めるためには、彼女のような存在は必要だと考えられます。
福祉の問題ではありませんが、北朝鮮拉致事件も長く一般からは無視されてきました。それが大きな関心をあつめる一つのきっかけになたのは、横田恵さんの存在でしょう。当時中学生だった横田恵さんは学校の帰り道で誘拐されました。
かわいらしい、いたいけな少女「恵ちゃん」は、拉致事件解決のシンボル的存在になりました。けれど、ご両親は娘の実名と顔写真を公表するのをとても悩んだと言います。それでも、救出運動の一助になるならと公表に踏み切りました。
立木早絵さんの著書『夢を見る力 自分を愛して、自分を信じて』の中にも、お母さんの心配が出てきます。最初にテレビに出るときに心配したのは、水泳中の安全だけではなく、人前に顔と名前を出すということでした。有名になるのは、楽しい事だけではありませんから。
私は、がんばって登場してくれる人々を、応援したいと思います。
心理学の援助行動(人助け)に関する研究によれば、若い女性は人から援助を受けやすい存在です。困っている、がんばっている若い女性を登場させることは効果的です。こういう研究や言い方に不快感を持つ人もいると思うのですが、何とか運動を広げたい、支援を集めたいとがんばっている人々がいるということです。
今回のスペシャルドラマの主人公は、男性です。でも演じるのは、ジャニーズのアイドル、嵐の大野智さんです。その方が、視聴率が上がる、注目が集まる、共感してもらえる、支援が広がるからです。同じストーリーでも、主人公がさえない中年では盛り上がらないでしょう。
ジャニーズや上戸彩 さんやAKB48のような有名人が、ボランティア活動や募金活動、障害を持つ方々と交流している姿を見るのは、心理学の「観察学習」理論から見ても、効果的です。「私も参加してみよう」と感じさせます。
■なぜ24時間、どうしてマラソン? 森三中・大島美幸さん
司会者は寝ないでがんばります。子ども達や、障害のある方が、チャレンジしてがんばります。海を泳いだり、山を登ったり。そして、24時間マラソン。みんな、がんばっています。がんばっている姿を見せる演出をしています。
これを、心理学的に考えると…
チャリティー番組として、寄付を集めたいと考えています。社会心理学の研究によれば、人間が人助け行動をとるためには、助けが必要な状況を知ること、そして自分に助ける責任があると感じることが必要です。
まず、ドラマチックな内容で、支援が必要であることを実感してもらいます。次に、がんばっている人々を見せます。がんばる司会者、可能性に挑戦する人々、ボランティアで街に立つ人、そして苦しみながら走る24時間マラソン、森三中の大島美由紀さん。88キログラムだった体重で、88キロメートルの距離を走ります。こうしてがんばっている人々を見たとき、人は自分もがんばらなくては、自分もなにか犠牲を払わなければと感じるのです。
さらに、続々と募金が集まっていると知らされると、人は多くの人と同じように行動したい(同調行動)と感じるので、寄付しようとする気持ちになるわけです。
■ボランティアの心理・チャリティーの精神・番組への批判
ボランティアは、本来、自発性(自ら進んで)、無償性(お金をもらわず)、公共性(独りよがりではなくみんなのために)が、基本です。欧米のチャリティー出演者は、みんな無償なのに、24時間テレビでは仕事としてギャラをもらっている人がいるとの批判もあります。
ボランティアの考えは、近年変化しています。たとえば、学校の生徒がみんなでボランティア活動に参加したりします。これでは自発性がないと批判されることもありますが、自発性は低くても「学習性」のあるボランティアが増えています。ボランティアを通して、参加者が何かを学ぶわけです。
無償ではないボランティアも増えてきました。完全に無償だと、お金と時間に余裕のある人しか参加できないという批判もありました。交通費が出る。若干のお礼がでると言った「有償ボランティア」、さらに「ボラバイト」(ボランティアとバイトの造語)といった言葉も生まれています。無償性はなくても、「非営利性」があればボランティアと考えられます。
独りよがりで迷惑な活動では確かに困りますが、でも参加することで、あまりお役には立てなくても「自己実現性」の高い活動もあります。たしかに、自己満足は困りますが、自己も満足するのは悪いことではないでしょう。
日本では、ボランティア、寄付、チャリティーといった文化はあまりありませんでした。今、少しずつ始まっています。今年、「嵐は24時間テレビでギャラを5000万円もらっている」との報道がありました。その報道に対して、日本テレビが答えています。
24時間テレビ嵐ノーギャラ公表の裏
ただ、日本テレビとしてはあまりコメントしたくなかったようです。それは、全員が無償ではないからです。それでも、週刊紙は「森三中・大島美幸のギャラは1000万円」と報道しましたが、実際は100万円程度のようです。
■「24時間テレビ愛は地球を救う」は偽善番組か
もしも、24時間テレビが偽善だとしたら、これでもう大丈夫です。ネット上で偽善番組だと語っている人がたくさんいるのですから。偽善は偽善とばれたところで、効果を失います。
毎日ボランティアで公園の掃除をしている碓井さんは、何てりっぱな人なんだろうとみんなが思っているとします。ところが、実は碓井は市会議員に立候補しようとしていて、公園清掃も人気取りのための偽善だったとばれたらどうでしょう。選挙は落選です。
偽善と言われることを恐れるのは、偽善者です。偽善者ではないのに偽善だと言われるのは辛いことですが、でも、行動は続けるでしょう。マザーテレサは、誰から批判されても、信念を曲げないでしょう。
さて、実際は動機はいろいろです。地球環境を考え、街のことを考えているのが真実だとして、それでも、先生に言われて海岸清掃に参加することはありますし、このボランティア活動のことを推薦入試の書類に書けると考えたりします。私はそれでも良いと思います。
番組の出演者、スタッフの中には、チャリティ精神のあふれている人もいるでしょう。同時に、番組を続けるためには、高視聴率が必要です。今の日本のシステムでは、コマーシャルが入って、スポンサーから収入を得なければなりません。演出も必要でしょう。そうして、24時間テレビは、36年間続いてきました。毎年10億円前後の寄付が集まってきました。番組を通して福祉を学んだ子ども達も、大勢いるでしょう。
(たしかに以前よりも福祉色は薄れてきましたね。でも一方で、一度は落ちた視聴率も回復しました。)
さて、偽善者や偽善番組をやっつける方法として、下心や不正を暴露する方法もありますが、もう一つ有効な方法があります。それは、清掃も寄付も、みんなでしてしまうことでです。みんなが当たり前のように、ボランティアやチャリティーに協力すれば、偽善的行為をする余地がなくなるでしょう。
■愛は地球を救う!?
愛だけでは地球を救えないでしょう。でも、愛がなければやっぱり地球は救えないでしょう。番組を見る見ないは自由です。募金に協力するもしないも自由です。マスコミは巨大な力を持っていますから、マスコミ批判は必要です。
でも、番組の募金に協力する人も、24時間テレビは本当のチャリティーではないと批判する人も、どちらも、愛を動機としての言動であることを願っています。
いろんな意見の人はいるわけですが、それでもみんなで助け合い、平和な社会になりますように。
→「24時間テレビの心理学2014:日本の寄付総額は8000億、アメリカは36兆円!?:これからのチャリティー」
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「募金は、経費を一切差し引かず、全額、被災地支援や福祉、環境保護に活用いたします。」
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