『電話以上リアル未満』のオンライン会議 「言いたいことぐらいわかるだろ」的おじさんは淘汰される
■これからは「言葉にしないと理解されない時代」
「これからの時代は『ノンバーバル』より『バーバル』の時代です」
これは、ある有名な研修講師から最近聞いた話です。
新型コロナウイルスの影響で、多くの企業がテレワークを導入しています。そのせいで、オンライン会議や、オンライン商談、オンライン研修が一般的になりつつあります。
実際に、この研修講師と会話したのも、オンライン会議ツールを介してでした。
「たしかに、電話以上リアル未満ですものね。言語化する能力が、より求められます」
私がそう返すと、
「友達以上恋人未満、みたいな言い方しますね」
と笑われました。
「だって、そうじゃないですか」
Zoomでお馴染みのオンライン会議ツールを、当社は2~3年も前から使っています。地方にいるクライアント企業との打合せやセッション、研修でずっと活用しています。
ですから、最近になって利用しはじめた方によく質問されるのです。
「Zoomとか、オンライン会議ツールってどうですか?」
と。そのとき、私は必ずこう答えるのです。「電話以上リアル未満です」と。そして必ず、こうも付け加えます。
「電子メールと同じように、これからのビジネスにおいて必須のコミュニケーション手段となります」
■利用者にとって本当に「ラク」!
フェイスブックやツイッターといったSNSは、多くのビジネスパーソンが利用しています。フェイスブックの利用者数(月間のアクティブユーザー)は世界で25億人に迫り、ツイッターは3億人超。
日本でも多くのユーザーがいますし、筆者自身もフェイスブックのメッセンジャーを、メディア関係者や経営者とのコミュニケーションツールとしてよく利用しています。
しかし電子メールと同じように必須のコミュニケーション手段になっているかというと、そうではないでしょう。
LINEも同じです。多くの人が利用していますが、スタンダードにはなっていません。
お客様に「LINEのアカウントを教えてください」と言われ、断っても「え?」とはなりませんが、「電子メールのアドレスを教えてください」と言われ、断ったら「え?」となるでしょう。
ところが、Zoomをはじめとしたオンライン会議ツールは、急速に電子メールと同じポジションへと到達した、と言っていい。
1~2年のあいだに、
「Zoomでオンライン会議やりましょう」
と取引先から言われて、
「あ、当社はオンライン会議とかやらないんで」
と発言したとたんに、
「え?」
と信じられない顔をされるはず。オンライン会議だと便利だという側面もありますが、なんといっても利点は、クールビズと同じように利用者にとって「ラク」だ、という点が挙げられます。
■驚きのコスト削減
オンライン会議ツールは電子メールと異なり、新しくサーバーを導入する必要もありませんし、一般的な通信環境さえ整っていれば、誰でもすぐに利用できるものです。
それこそフェイスブックやツイッターをはじめるのと同じ感覚で、はじめられるのです。
これほど手軽にスタートできるのに、『移動コスト』というビジネスパーソンにとって非常に煩わしいものが削減できます。
打合せをする相手が、すぐ目の前のデスクに座っている部下だけだとか、決まった取引先といつも同じような商談しかしない人や組織にとっては、このような新しいコミュニケーション手段など必要ないでしょう。
しかし日本全国や海外にも拠点のある大企業をはじめ、出張が多いビジネスパーソン、外回りが多い営業にとっては、これほどありがたいツールはありません。
コストというのは「経済的コスト」「時間的コスト」「精神的コスト」の3種類を含んでいます。
全国の拠点から支店長や営業所長を、研修や会議のために本社へ定期的に呼んでいる企業にとっては、このオンライン会議は最高に「ラク」なツールです。
「経済的コスト」を負担する会社にも大きなメリットがありますし、「時間的コスト」「精神的コスト」を強いられる全国の拠点長は、諸手を挙げて歓迎します。
ある企業の旭川の支店長は、
「3ヵ月に1回、東京本社へ会議のために出張していたが、これがなくなるだけでどれだけラクか。子どもが小さいので、家も空けたくないし、オンライン会議は今後も絶対につづけてほしい」
と言っていました。
「コロナショックが終わって、くだらない会議や研修のためにまた出張を強制されるようになったら、会社を辞めようと思う。移動が長いと腰痛持ちにはキツイ」
と言っていたベテラン社員もいます。
だからクールビズを引き合いに出しました。
「わが社は、クールビズ禁止です。どんな暑い夏でも、スーツとネクタイはしっかりと着用してもらいます」
と会社に言われたらどうでしょう? どんなに魅力的な事業をしている会社でも、「なんか古い」「時代錯誤だ」という印象を受けないでしょうか。
これと似ているのです。
「当社はSNSを使ってお客様とコミュニケーションをとるようなことは禁止します」
と言われても、それほど驚かないかもしれませんが、
「当社はテレワークもオンライン会議も禁止です」
と言われたら、「え?」となるのです。
繰り返しますが、オンライン会議ツールを使ったコミュニケーションは、便利であるし、何よりも「ラク」なのです。この「ラク」を、会社も社員も一度覚えてしまったら、もう元に戻ることはできません。
■オンライン会議はなぜ「リアル未満」なのか?
「パソコンの画面越しで会議なんかできるか」
私のクライアント企業の中に、このように言う専務がいました。
「会議というのは、ちゃんと顔を合わせてやるものだ。そうじゃないとうまくいかない」
とこの専務は言い張ったのですが、事業承継した若い社長に押し切られて、その会社の会議はすべてオンライン化しました。
私の会社は400キロ以上離れていますので、オンライン会議ツールでやり取りできれば、会議でも研修でも、お互い無駄な時間や労力をかけることがなくなります。かなり負担を軽減できます。
ただ、オンライン会議ツールを使ってコミュニケーションをする際、気を付けておかなくてはならないことがあります。
それは、先述したとおり「電話以上リアル未満」である、ということです。基本的に音声だけでやり取りする電話以上のコミュニケーションができることは、誰もが理解できるでしょう。
相手の表情もわかりますし、ボディランゲージによって「ノンバーバル」なコミュニケーションも効果的に使えます。画面上で資料を共有できたり、同じサイトを観ながら意見交換もできます。
ある意味、リアルで会うよりも効果が高いこともあります。
しかし「空気で人を動かす」「空気でお客様を動かす」の著者である私は、何年もオンライン会議ツールを使いつづけ、その「場の空気」をうまく利用することは難しいと結論づけています。
リアルの会議であれば、「場の空気」を活用できます。
企業の現場に入って支援する私たちは、この「場の空気」をうまく活用して組織改革を促してきました。
「今度の経営会議で、社長がこのように発表します。なんとしても今期は経営改革を成し遂げないといけません」
私たちコンサルタントが、社長が重要なキーパーソンと指定する常務や本部長に伝えておきます。
「専務や、4人の営業課長は嫌がるでしょうね」
「若い社員たちは改革を歓迎しています」
「先代の社長が息子さんに経営を託したのに、いまだに新社長に従わない連中が社内にいる。会社を変えるのは今しかない」
私たちはこのように、外堀を埋めるよう動きます。そして講演、研修、会議など、あらゆる場を通じて、この会社は変わるんだ、もう新しい社長の体制のもとで経営改革を断行するのだ、という「空気」をつくっていきます。
最初のうちは抵抗していた古参社員も、社内にこのような「空気」が醸成されると、だんだんその空気に飲まれていきます。
中堅の社員たちも新しい体制に慣れていきます。1年もすれば、社員一丸となって改革に取り組もうという風土ができあがっていきます。
最初はふわっとした「空気」だったのが、いずれ「風土」として定着し、そしていずれ組織の「文化」として根付いていきます。
ところがです。
やはりリアルでないと「場の空気」を利用できません。オンライン会議ツールだけでは、使って新しい「空気」をつくりあげることが難しいのです。
いわゆる「同調圧力」を味方につけることができない、ということです。
冒頭の研修講師が言ったとおり「バーバル(言語的)コミュニケーション」が、より重要です。
言葉にしないと、キチンと伝わらない、ということです。
■言語化する能力を鍛えよう!
「口にしなくても、俺が言いたいことぐらいわかるだろ」的なおじさんにとっては、とても生きづらい世の中になりました。
リアルでは、いつも腕を組み、ふんぞりかえって座って、会議出席者を睨みつけるような経営幹部も、オンライン会議では、まったくそのオーラが伝わりません。
しっかりと自分の主張したいことを言語化し、発言した人ばかりが存在を示せてしまいます。「バーバル」の能力を発揮すれば、主導権を握られてしまいます。
社長も、部長も、課長も、関係がありません。
オンライン会議ツールは、とても便利で「ラク」な手段です。しかし、私は「リアル未満」だと考えています。
その場の雰囲気を「察する」ことができないからです。うまく言葉にできない人の気持ちを汲み取ることができない、という点が大きなデメリットです。
とはいえ、この「電話以上リアル未満」のオンライン会議ツールをうまく活用できること、それが、これからのビジネスシーンにおいて重要になってくることは間違いありません。
「どうしてわかんないのかなあ。口にしなくても、俺が言いたいことぐらいわかるだろう」とついつい言ってしまいがちなおじさんたちは、もっと言語化する力を鍛える必要があるでしょう。