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障がいのあった男が遺したセックスの記録を収めた映画で恋人役に。1年を経て、再び最期の恋人役に挑む

水上賢治映画ライター
「月は夜をゆく子のために」に出演する毛利悟巳   筆者撮影

 四肢軟骨無形成症という障がいのあった池田英彦が最期の遺したプライベートなセックスの記録を映画にした「愛について語るときにイケダの語ること」。

 ガンで余命宣告を受け、「今までやれなかったことをやりたい」と、イケダはいわゆる「ハメ撮り」を始めることに。

 この自らの性の記録を主演映画にして遺したいと願った彼の思いが結実して完成した本作は異例の反響を呼び、1年にわたってのロングラン公開となった。

 それに合わせ、撮影・脚本・プロデュースを担当した脚本家の真野勝成、共同プロデューサー・構成・編集を担当した映画監督の佐々木誠、そして出演者の毛利悟巳のインタビューを掲載した。

 その中で、映画を見た方はご存知だと思うが、女優の毛利は本作においてキーパーソン。

 「普通のデートがしたい」というイケダの最後の願いを叶えるためにキャスティングされた彼女は恋人役となり、予想もしない形でイケダの偽らざる本心を引き出すことになる。

 映画の中とはいえ、余命僅かの男性の最後の恋人役は重責で「中途半端な気持ちでは引き受けられない。池田さんのすべてを受け容れる気持ちで臨んだ」と語った毛利だが、偶然なのか必然なのか、劇場公開から1年を経て、「イケダ」を思い起こす作品と役に巡り合った。

 それが10月から始まる舞台「月は夜をゆく子のために」だ。

 Wキャストで主演を務める彼女に訊く。(全三回)

「月は夜をゆく子のために」に出演する毛利悟巳   筆者撮影
「月は夜をゆく子のために」に出演する毛利悟巳   筆者撮影

ジョジーは良妻賢母から娼婦までを求められる

 前回(第一回はこちら)は、主に今回挑む舞台「月は夜をゆく子のために」のストーリーについて訊いた。

 ここからは毛利が演じるジョジーについて訊いていく。

 まずジョジー役について「イケダ」と重なり運命的な出合いを感じながらも、臨むにあたっては、ひとつ危惧していたことがあったという。

「ジョジーは父とケンカが絶えない。でも、最後のところでは父を見捨てることはなくて。

 がさつな父にある種の憎しみを抱きながらも最後の最後では理解を示して支える。

 家庭においては、親想いの健気な善き娘として彼女は存在している。

 また、前回お話しした通り、すでに母親はいない。だから、彼女は家族の家事や炊事を一手に引き受けざるをえないできた。母親としての役割を果たしてきたところが実際にあるし、またそういう役割を求められてきた。そういう意味で良妻賢母のような淑女としての役割も求められている。

 その一方で、真逆の女性としても彼女は存在しているんです。

 ジェンダーギャップがまだまだ色濃く残る時代の片田舎の町において、彼女のような若い女性は格好のターゲットで。

 彼女は町中の男と寝ているとされていて『娼婦』呼ばわりされている。ほんとうは違うのに。

 でも、彼女は否定しないんです。ある意味、そのことを逆手にとって、自分を強くみせる術として、自ら『町中の男と寝ている』と周囲に言いふらす。

 ある種、男社会で対等にやっていく術として利用していくんです。ただ、外からみると彼女は『娼婦』でしかない。

 これらを合わせて、傍から見ると、彼女はひじょうに男性にとって都合のいい女性に映ってしまう。

 すごく激しい気性の持ち主で、こん棒のようなものをもって父とケンカすることもあるんですけど(笑)、なんやかんやで最後は男性の言うことをきいて、求められるままに対応してしまう。

 そうなると、どこか従順な女性に見えてしまう。

 いわば男性に望まれる、好ましい女性像に映る。

 でも、そのようにジョジーが映ってしまったら、正直なところ嫌だなと」

彼女は受け身の人間ではない。男性の言いなりになっているわけではない

 毛利自身はジョジーにまったく違う「意思の強さ」を感じているという。

「ジョジーは確かに男性に求められる女性として存在しているところがある。

 でも、それは表面上のことに過ぎない。そこにも、彼女の意思がきちんとあると、わたしは感じたんです。

 ジョジーという役にアプローチしていってわかったんですけど、彼女はぜんぜん受け身の人間ではない。男性の言いなりになっているわけではない。自分で選択して道を進んでいるところがある。

 さきほどの男社会で対等にやっていく術としてというところからわかるように、ひじょうにクレバーで自分という人間をきちんともっていて能動的に生きている。

 生活はどん底なんですけど、決して悲嘆にくれていない。下を向くことなく、前をしっかりと見て生きている。

 なので、そういう彼女のひとつの生き方がうまく届いてくれたらなと演じながら思っています」

「月は夜をゆく子のために」メインビジュアル
「月は夜をゆく子のために」メインビジュアル

あまり知らない人だからこそ打ち明けられる本心がある

 前回触れたように、ジョジーは富豪の息子、ジムに密かに思いを寄せている。

 そのジムは実は余命僅かで死期をどこか悟っている。ただ、その苦しみや孤独を打ち明けられる存在はいない。

 そんなある日の月夜、ジムは幼なじみのジョジーにだけ自分の本心を打ち明ける。

 ジョジーはジムの思いを受けとめることになる。

「前回もお話ししましたけど、たった一日の話なんですけど、その人にとってかけがえのない、永遠に忘れられない瞬間をとらえたような奥深いストーリーになっている。

 そして、わたしにとっては、80年前近くに書かれた戯曲で、時代も国も違うんですけど、『愛について語るときにイケダの語ること』とつながる物語なんですね。

 『愛について語るときにイケダの語ること』でわたしは池田さんの最期の恋人役を演じて。いまでもなぜあのようなことになったかわからないんですけど、結果として余命宣告されていた池田さんから本音を引き出すことなった。

 引き出したというか、たぶん肉親とか知人だとちょっと言いづらい、打ち明けづらい本音って誰にでもあると思うんです。

 むしろあまり知らない人だからこそ打ち明けられる本心がある。

 わたしと池田さんはあのときが初対面でした。だから、池田さんは思わずポロっと本音が出たと思うんです。

 このジムとジョジーも同じような感じなんです。二人は幼なじみですけど、身分の違いもあって、お互いあえて距離を置いているところがある。

 その中で、ジムはジョジーに自分の本心を打ち明ける。

 『愛について語るときにイケダの語ること』と『月は夜をゆく子のために』はシチュエーションが、ほぼ同じなんです。

 それから死を前にした人間がどう最後を生きるのかということがひとつのテーマになっている。そこも符合する。

 そして、この世を去りゆく人への思いが込められた物語であるところも一緒で。

 今回の舞台の翻訳と演出を担当されている木内さんも『愛について語るときにイケダの語ること』を見てくださって、『重なるところがある』とおっしゃっていました。

 わたしとしては、池田さんとの出会いがなかったら、巡り合わなかった作品であり、ジョジ―役に巡り合うこともなかったのではないかと思っています。

 不思議な縁を感じながら、この舞台に臨んでいます」

(※第三回に続く)

【毛利悟巳「月は夜をゆく子のために」第一回インタビューはこちら】

「月は夜をゆく子のために」ポスタービジュアル
「月は夜をゆく子のために」ポスタービジュアル

<トランスレーション・マターズ上演プロジェクト2022>

「月は夜をゆく子のために」

作/ユージーン・オニール

翻訳・演出/木内宏昌

出演:まりゑ / 毛利悟巳(Wキャスト) / 内藤栄一 / 大城清貴 /

小倉卓/ 大高洋夫

公演日:10月8日(土)〜19(水)

会場:すみだパークシアター倉

【公演スケジュール】

10月 8日(土)18:30(悟巳ジョジー)

10月 9日(日)13:30(悟巳ジョジー)

10月10日(月・祝)13:30(悟巳ジョジー)

10月11日(火)18:30(悟巳ジョジー)

10月12日(水)休演

10月13日(木)18:30(まりゑジョジー)

10月14日(金)18:30(まりゑジョジー)

10月15日(土)13:30(悟巳ジョジー)/18:30(まりゑジョジー)

10月16日(日)18:30(まりゑジョジー)

10月17日(月)18:30(まりゑジョジー)

10月18日(火)13:30(まりゑジョジー)/18:30(悟巳ジョジー)

10月19日(水)13:30(まりゑジョジー)

※開場は、開演の30分前

チケット:一般/6,600 円(前売・当日共)

学生割引券/1,000 円(チケットぴあ前売のみ取扱/枚数限定)

★WEB予約・電話予約 どちらでも受付可★

チケットぴあ https://w.pia.jp/t/translation-moon/

セブンイレブン店頭マルチコピー機(P コード:514-542)

カンフェティ https://www.confetti-web.com/translation-matters

0120-240-540(受付時間 平日10:00~18:00)

通話料無料・オペレーター対応

そのほか詳しくは、公式サイトへ

https://translation-matters.or.jp/production_01_moon.html

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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