障がいのあった男が遺したセックスの記録を収めた映画で恋人役に。それから1年、再び最期の恋人役に
四肢軟骨無形成症という障がいのあった池田英彦が最期の遺したプライベートなセックスの記録を映画にした「愛について語るときにイケダの語ること」。
ガンで余命宣告を受け、「今までやれなかったことをやりたい」と、イケダはいわゆる「ハメ撮り」を始めることに。
この自らの性の記録を主演映画にして遺したいと願った彼の思いが結実して完成した本作は異例の反響を呼び、1年にわたってのロングラン公開となった。
それに合わせ、撮影・脚本・プロデュースを担当した脚本家の真野勝成、共同プロデューサー・構成・編集を担当した映画監督の佐々木誠、そして出演者の毛利悟巳のインタビューを掲載した。
その中で、映画を見た方はご存知だと思うが、女優の毛利は本作においてキーパーソン。
「普通のデートがしたい」というイケダの最後の願いを叶えるためにキャスティングされた彼女は恋人役となり、予想もしない形でイケダの偽らざる本心を引き出すことになる。
映画の中とはいえ、余命僅かの男性の最後の恋人役は重責で「中途半端な気持ちでは引き受けられない。池田さんのすべてを受け容れる気持ちで臨んだ」と語った毛利だが、偶然なのか必然なのか、劇場公開から1年を経て、「イケダ」を思い起こす作品と役に巡り合った。
それが10月から始まる舞台「月は夜をゆく子のために」だ。
Wキャストで主演を務める彼女に訊く。(全三回)
現代を生きるわたしが果たして約80年前の戯曲と向き合えるのか?
今回、毛利が出演する「月は夜をゆく子のために」は、約80年前に劇作家のユージン・オニールが発表した戯曲。
ユージン・オニールはピューリッツァー賞に4回輝き、ノーベル文学賞も受賞している演劇界の偉人で、「アメリカ近代演劇の父」と呼ばれている。
「月は夜をゆく子のために」は彼が最後に執筆した戯曲。実の兄、ジェイムズ・オニール・ジュニアへ捧いだ作品だという。
「この舞台が初演されたのは1947年。しかも、初演時に上映禁止になっている。
わたしが生まれる相当前のことで、近年、頻繁に上演されている戯曲でもない。
ですから、この戯曲のことは知りませんでした。
ユージン・オニールのことも同様で、彼が近代演劇の父と呼ばれるゆえんが、人間はおかしなもので、心で考えていることと裏腹のことを口で思わずいってしまったりする。
たとえば、本心は好きなのに、『大嫌い』と言ってしまう。こういったリアリズム的手法をアメリカに持ち込んだ作家であることを、今回の舞台に取り組むことで知りました。
お話をいただいたときは、現代を生きるわたしが果たしてこの戯曲を共有できるのか、この物語と対峙できるのか、わからなかった。
最初の段階では、不安がなかったかといったら嘘になりますね。
あと、ユージン・オニールの戯曲というのが、けっこう救いがない物語が多いということを自分で調べたりもして前情報としてもっていたんです。希望や夢といったものを安易に示さず、絶望ならば絶望をそのまま描くような作品が多いと。
だから、ひじょうにヘヴィでダークな内容なんだろうなと考えていて、そういう意味で『自分がきちんと向き合えるのか』という不安もありましたね」
人の心に小さな明かりを灯してくれるような温かな感触が残る脚本
ただ、脚本を読んで印象が変わったという。
「実際に台本を読んでみると明るいといいますか。この『月は夜をゆく子のために』もどん底にいる人物ばかりが出てくる(苦笑)。
決して明るい物語とは言い難いんですけど、でも、ひじょうに人間への温かい眼差しが感じられる。なにか人の心に小さな明かりを灯してくれるような温かな感触が残る。
訊くと、ユージン・オニールの中では唯一、希望とまではいきませんけど、救いのある物語であるとのこと。
亡くなったお兄さん、ジェイムズ・オニール・ジュニアへの鎮魂歌(レクイエム)との思いを込めて書かれた戯曲ということで。
確かにとりわけジェイムズ・タイローン・ジュニアには深い愛情が感じられる。
ですから、後ろ向きの物語ではない、ひじょうに人への深い愛が感じられる物語だなという印象を持ちました」
たった一日の話なんですけど、その人にとってかけがえのない、
永遠に忘れられない瞬間をとらえたような奥深い物語
あらすじを少し紹介すると、舞台は、1923年9月、禁酒法時代のアメリカ、コネチカット州。
毛利が演じるジョジーは小作人の娘。母はすでにこの世におらず、偏屈者として知られる父とともに暮らしている。
その暮らしぶりは豊かとはほど遠い。食べるのにギリギリといった状況だ。
そんな彼女には思いを寄せる男性がいる。それは地主で幼なじみでもあるジム・タイローン。
ジムはジョジーとは対照的な家、俳優として一大で財を成し地主となった家の息子で、金銭には不自由なく育ってきた。近々、莫大な遺産が入ってくることにもなっている。
ただ、彼自身の心はボロボロ。孤独から酒におぼれ重度のアルコール中毒に陥っている。
こんな対照的な家に生まれたジョジーとジムのある月夜のたった一夜の物語になる。
「ジョジーは、アイルランドからの移民で、ひじょうに貧しい暮らしの中にいる。
家はボロ屋で、着る服もボロボロ。こんな生活から抜け出したいけど、どうにもならない。
父親のフィル・ホーガンがまたとんでもないがさつで人間で。とても尊敬できる存在ではない。
でも、『クソじじい』と罵りながらも彼女は父親を支える。母を早くに亡くして唯一の肉親だからか父を見捨てることはない。
そんなどん底の中でジョジーにとって憧れの存在がジム。彼女にとって彼のひとつの希望で夢を見せてくれる存在といっていい。
でも、身分が違い過ぎること、自分には手の届かない存在であること、自分が彼の相手にふさわしくないことをジョジーはわかっている。
一方、ジムは裕福な家の生まれで傍から見ると、人もうらやむような立場にいる。
でも、彼には誰にも家族にさえも打ち明けられない苦悩があって、孤独に苦しんでいる。
そして、彼もジョジーと同様に母親を亡くしている。
実はまったく違う境遇ながら、母の不在をはじめいくつか二人には相通じることがあるんですね。
そこから二人の間でなにかが始まる。
たった一日の話なんですけど、その人にとってかけがえのない、永遠に忘れられない瞬間をとらえたような奥深い物語になっていると思います」
(※第二回に続く)
<トランスレーション・マターズ上演プロジェクト2022>
「月は夜をゆく子のために」
作/ユージーン・オニール
翻訳・演出/木内宏昌
出演:まりゑ / 毛利悟巳(Wキャスト) / 内藤栄一 / 大城清貴 /
小倉卓/ 大高洋夫
公演日:10月8日(土)〜19(水)
会場:すみだパークシアター倉
【公演スケジュール】
10月 8日(土)18:30(悟巳ジョジー)
10月 9日(日)13:30(悟巳ジョジー)
10月10日(月・祝)13:30(悟巳ジョジー)
10月11日(火)18:30(悟巳ジョジー)
10月12日(水)休演
10月13日(木)18:30(まりゑジョジー)
10月14日(金)18:30(まりゑジョジー)
10月15日(土)13:30(悟巳ジョジー)/18:30(まりゑジョジー)
10月16日(日)18:30(まりゑジョジー)
10月17日(月)18:30(まりゑジョジー)
10月18日(火)13:30(まりゑジョジー)/18:30(悟巳ジョジー)
10月19日(水)13:30(まりゑジョジー)
※開場は、開演の30分前
チケット:一般/6,600 円(前売・当日共)
学生割引券/1,000 円(チケットぴあ前売のみ取扱/枚数限定)
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