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形勢互角、中盤の佳境 竜王戦七番勝負第3局▲藤井聡太挑戦者-△豊島将之竜王戦、2日目始まる

松本博文将棋ライター
しゃぼんだま(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 10月31日。福島県いわき市「雨情の宿 新つた」において第34期竜王戦七番勝負第3局▲藤井聡太三冠(19歳)-△豊島将之竜王(31歳)戦、2日目の対局が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 本局の立会人を務めるのは屋敷伸之九段。記録係は田中大貴三段です。

屋敷「それでは1日目の指し手を再現いたします」

田中「先手・藤井聡太三冠▲2六歩。後手・豊島将之竜王△8四歩。・・・」

 両者は田中三段の棋譜読み上げに従って、1日目の指し手を並べていきます。

 昨日1日目。藤井挑戦者先手で、戦型は角換わりから互いに早繰り銀となりました。

 途中までよくある進行のようでありながら、観戦者にとっては早い段階から驚きの手の連続でもありました。

 豊島竜王はみずから守りの銀をぶつけ、藤井挑戦者の攻めの銀と交換になります。藤井挑戦者は手にしたばかりの銀を5六、腰掛銀の地点へと打ちます。進んで豊島竜王もまた銀をぶつける「ガッチャン銀」の位置に銀を打ちつけます。

 両者ともに長考の応酬。最高峰の戦いらしい、熱のこもった応酬が1日目から見られました。

 夕刻。藤井挑戦者が2筋で飛車先の歩を交換し、45手目、3筋に飛車を回り込みます。

 本局がおこなわれている「雨情の宿 新つた」は詩人・野口雨情ゆかりの宿。雨情は童謡「シャボン玉」「十五夜お月さん」「赤い靴」「青い眼の人形」「証城寺の狸囃子」などの作詞でも知られています。

 からす なぜなくの

 からすは山に かわいい七つの子があるからよ

 童謡「七つの子」もまた雨情作詞で、いまからちょうど百年前の1921年に発表されました。

 時刻は18時を迎えます。46手目を豊島竜王が封じることが決まってからも、豊島竜王は考え続けました。

 1977年度十段戦七番勝負第7局、中原誠十段-加藤一二三棋王戦。加藤挑戦者は17時30分に封じ手をすることが決まったあとも、こんこんと考え続けます。当時の規定では封じ手がおこなわれずに19時になると夕食休憩。20時に再開され、なおも加藤挑戦者は考え続け、3時間12分の長考の末、21時10分にようやく封じたという記録も残されています。

ともあれ、これに懲りて竜王戦では「夕食時間は1日目封じ手後、2日目は終局後」と規約は改められている。

(山田史生『将棋名勝負の全秘話・全実話』)

 十段戦の後身棋戦である竜王戦では、封じ手がおこなわれるまで何時になっても夕食休憩はありません。

 本局、豊島竜王は1時間14分の長考の末、18時22分、46手目を封じました。2通の封筒を屋敷九段にあずけて1日目終了です。

 明けて本日2日目。

屋敷「それでは封じ手を開封いたします。・・・封じ手は△3三金です」

 屋敷九段の声を聞いたあと、豊島竜王は金を立ち、藤井挑戦者の飛車を追いました。

「それでは対局を再開いたします」

 両対局者は改めて一礼。2日目の対局が始まりました。

 金を上がる手は、藤井挑戦者にとっても想定する候補手の一つだったはず。それでもすぐに次の手を指さず、念を入れて読みます。消費時間は22分、飛車を一つ引いて逃げました。

 豊島竜王は38分で盤上中央に角を放ちます。四方によく利く好点の角。対して藤井二冠は中段の飛車を基点とし、相手陣に手裏剣のように歩を使って攻めていきます。

 竜王戦の方も目が離せない進行ですが、テレビではNHK杯▲深浦康市九段-△藤井戦も始まりました。衆議院議員選挙もあって、観る方にとっても忙しい日曜日かもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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