「舞いあがれ!」の町工場が日曜劇場とは違う理由。女性経営者や女性職人が支えるリアル
“朝ドラ”こと連続テレビ小説「舞いあがれ!」(NHK)が後半戦に入り様変わりした。制作統括・熊野律時チーフプロデューサーは「これまで夢に向かってまっすぐ進んできたヒロイン・舞(福原遥)が、リーマンショック、IWAKURAの危機、お父ちゃんの死、柏木(目黒蓮)との別れ……と厳しい状況下、ここから立ち上がり舞い上がっていく話になっていきます。辛く厳しい展開が続きますが、できるだけ丁寧にここからどう辛いことを乗り越えて前に進んでいくか描いていきたいというところです」と語る。
祥子、めぐみ、舞と女性三代の人生の物語
パイロットを目指していた舞だったが、母めぐみ(永作博美)と共に実家の工場再建に乗り出していくという意外な流れになったが、これには狙いがあった。
「朝ドラのヒロインのお母さんがここまで人生の転換期を迎えることはなかなかないんです。それまでは夫や子供を支える側だっためぐみが、むしろ真ん中に立っていかざるを得ない状況になり、その責任を引き受けることで、大きく変わっていきます。母としての深い愛情をもちながら、経営者としての責任を担っていく人物像は『舞いあがれ!』のなかでも大事に考えてきた要素です。祥子(高畑淳子)も、夫が亡くなった辛さを抱えています。祥子、めぐみ、舞と女性三代が人生の大きな波のなかでどう生きていくかは当初から大事に描いていきたいところでありました」
実際に町工場を取材したことがドラマに生かされているという熊野さん。
「町工場で取材するなかで、女性が活躍している話はいくつもありました。いわゆる“社長の奥さん”と言われていたような方が、夫を亡くし、工場が経営難に陥ったとき奮起した話も実際に伺いました。4、50代になってから人生に大きな変化があるなんて思いもよらなかったけれど、変わらざるを得ない状況が訪れたとき、決断することによって眠っていたポテンシャルが花開き、会社を率いていくほどに変われることもある。それもひとつの夢や希望であり、めぐみさんにそういう女性の生き方を担ってもらっています」
町工場の取材は100社以上。東大阪の工場だけではなく京都、奈良、また東京の町工場への取材も行った。
「町工場の数が次第に減っていくなかで、この20年ほどの間、どうやって生き延びていったのかという話をたくさん聞かせてもらいました。男女関係なく、町工場や中小企業の大変な時期を生き延びてこられた方は皆さん個性的で、すごくエネルギッシュです。なかには、話しはじめたら3時間くらい止まらない方もいて(笑)、新しいことをどんどんやっていこうとする方々のパワーに圧倒されました。皆さんに、ものづくりへの矜持、従業員に対する思い、会社とはひとが集まって動いていく生き物のようなものというイメージなど、いろいろ教えていただき、盛り込みきれないこともたくさんありましたが、できるだけ取材したことを物語に込めたつもりです。浩太もめぐみも舞も、かならずしも正しいわけではなく、まちがった判断もします。でもそれをどう修正していくか、ほんとうに大事なものを向き合って選択していくか、その道筋を丁寧に描いています」
浩太が目指した男女の区別のないものづくりの現場
町工場の社長のみならず、職人のなかにも女性がいるのが「舞いあがれ!」の注目ポイントのひとつである。土屋(二宮星)のような女性職人も取材を通して思いついた。
「女性の職人を雇用している会社もありました。機械の部品づくりは男がやるものという先入観があって、興味があってもなかなか女性が入りづらいところはあるようですが、女性にも入って来てほしいという声も聞いて、そういう要素をドラマにもさりげなく入れたいと思いました。浩太はそういう目線をもった経営者であり、父の代から引き継いだ工場の変化として、浩太の代では男女関係なくものづくりに興味をもつ人たちに参加してもらい、あったかい職場ができあがっていたことを、土屋の存在で感じてほしいと思いました」
町工場の再生物語は決して新しいジャンルではない。民放の日曜劇場などでも人気のジャンルである。だが、女性が経営して、女性がネジ作りに励むことは、女性の社会進出を描いてきた朝ドラらしさを引き継ぎながらこれまでにない題材に挑んでいると感じる。「舞いあがれ!」がこれからどこに向かって飛んでいくか見守っていきたい。
連続テレビ小説「舞いあがれ!」
総合:月~土 午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00 ※土曜は1週間の振り返り
BSプレミアム・BS4K:月~金 7:30〜7:45
出演: 福原遥、横山裕、赤楚衛二、山下美月、長濱ねる、古舘寛治、山口智充、くわばたりえ/永作博美、高畑淳子 ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太