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「甲斐犬」171匹を劣悪環境で飼育した元ブリーダーを逮捕。虐待を防ぐには?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
犬がケージに入っているイメージ写真(写真:イメージマート)

FNN プライムオンラインは、国の天然記念物に指定されている「甲斐犬」を劣悪な環境で飼育するなどした疑いで、元ブリーダーだった男が警視庁に逮捕されたと伝えました。

多頭飼育崩壊が起きている犬の繁殖場は、ゴミ屋敷化しやすい可能性があります。このような環境で犬が繁殖されないよう、どうすればいいのかを考えましょう。

FNN プライムオンライン 天然記念物「甲斐犬」を虐待か 170匹超を劣悪環境で飼育 元ブリーダーの男逮捕

この現場は、八王子市内です。近隣の住民はあまり良くない飼育環境ではないとわかっていたようで、上の動画を見ますと、犬が逃げ出す騒ぎや悪臭があったようです。このため東京都は、60回以上、行政指導などを行い、改善命令を出したものの、尾川容疑者が従わなかったため、今年1月、警視庁に告発しました。

映像を見ると、毛並みが悪いうえに、あばら骨が見えて、やせ細っている犬がたくさんいます。報道によりますと、食事をちゃんともらっていないためか、耳をかじられた子もいる様子です。中には、痩せたり足が曲がったりした犬のほか、3頭が1つのかごで飼育されていたこともあったようです。

犬が好きな人なら、見るに堪えない飼育環境だったことがわかります。栄養バランスが整った食事をもらっている犬は、毛並みもよく肉付きもよくふっくらしています。栄養は、生きていくのに、必要なところである心臓や脳に先に運ばれるので、被毛は最後になりがちです。被毛だけ見てもこの繁殖場は、飼育環境がよくなかったといえます。

多頭飼育崩壊の現場は、ゴミ屋敷になっている可能性が?

環境省 「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」より
環境省 「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」より

犬の繁殖場は、内部を見ることはなかなかできないのですが、近隣住民は、異変に気がつくはずです。多頭飼育崩壊の現場は、ゴミ屋敷になっている可能性があるからです。

・繁殖場の近くを通ると嫌なニオイがする

・犬のふん尿が目につく

・動物の毛が多く散らばっていて飛んでくる

・繁殖場の近くにハエやゴキブリがたくさんいる

・一般の家庭よりゴミが異常に多い

以上のような犬の繁殖場があれば、劣悪な環境で犬が飼育されている可能性が高いです。

なぜ、ゴミ屋敷だと犬の虐待になるのか?

犬を叩くなどは、虐待になるということを理解している人が多いのですが、適切な状態で飼育しないことも虐待になるということはわかっていない人もいます。

これは、ネグレクトという問題になります。

つまり、犬の場合は、新鮮な水や栄養面を考えた食事を与えないや、ふん尿を適切に処置しないことなどが、ネグレクトになり、虐待行為になるのです。

成人の人間なら、虐待行為を受けていると逃げたりすることも可能であるかもしません(マインドコントロールなどされていると、人間も虐待現場から逃げることは難しいですが)。

犬の場合は、ケージに入っているので、逃げることは難しいです。

今回の場合ように、犬の繁殖場で起こっていることは、密室で外からわかりにくいかもしれませんが、多頭飼育崩壊が起きている繁殖場はゴミ屋敷化していることが多いのです。このようなことに気がついたら近隣住民の人が保健所や警察に届けて、犬を救ってほしいと思います。

こうした状況を受けて環境省はおととし、自治体などが対策を講じる際のガイドラインを作成しました。

発生を未然に防ぐため、近隣の住民や民生委員などと連携し、図のチェックシートを活用して、犬が適切な環境に住めるように協力していただきたいです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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