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対サントリー全勝対決はパナソニックに軍配。好守支えた「規律」「黙る」とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
マン・オブ・ザ・マッチはポーコック(写真は昨年)。(写真:アフロスポーツ)

 日本最高峰トップリーグは中断前最後となる第9節を迎え、10月21日、埼玉・熊谷陸上競技場でパナソニックがサントリーとの全勝同士を21―10で制した。

 

 序盤は大外のスペースを首尾よく攻略したサントリーがリードを奪うも、パナソニックは前半終了間際に11-10と逆転。以後はオーストラリア代表のデービッド・ポーコックが要所でターンオーバーを連発するなど、攻守が光った。後半、サントリーは無得点だった。

 パナソニックは試合後、元オーストラリア代表監督のロビー・ディーンズ監督、就任1年目の布巻峻介キャプテンの会見を実施した。

 ポーコックとともにフランカーを務めた布巻は、味方のアクシデントにより前半27分から途中出場。相手ボールの肉弾戦で球出しを遅らせるなどチームの堅守を支えていた。

 以下、会見中の一問一答の一部(編集箇所あり)。

ディーンズ

「今日の結果には喜ばしく思っています。この試合は我々にとってのひとつのキーゲームでした。プレーオフ進出に必要な試合でした。タフな試合でしたし、学ぶことも多かったと思います。天候(雨)も厳しい試合の条件となりましたが、それを含め選手はよくやってくれました」

布巻

「まずはこういう天候のなか、試合前からたくさんの人に来ていただいて、バスでここへ来る時にも(窓から)見えて、嬉しかったです(公式で8953人)。そんななか、サントリーさんとタフな試合ができた。(戦前から)楽しもうと言っていましたが、僕らのしたいような楽しいゲームができたと思います」

――「学ぶこと」とは。

ディーンズ

「前半はタイトなゲームになってしまった(11-10とわずか1点リード)。それは自分たちでそういうゲームを引き起こしてしまった。後半、ゲームマネージメントをして修正できたのは学びだと思います。ここまで、こうした厳しい試合は経験できていなかったので、経験できたのは大きい。練習ではなかなか経験できないことなので」

 その後の取材によれば、インサイドセンターに入った松田力也が「前半は外に振る中プレッシャーを受けていたので、そこを修正した」といった内容の話をしていた。球を大きく回した先で相手の防御に苦しんだとあって、接点周辺での攻撃をやや増やしたイメージか。

――布巻キャプテンのベンチスタートの意図。

ディーンズ

「チーム状況によります。選手をどう休ませるか、すべてのことを勘案してやっています。現状、峻はベンチからスタートしていますが、後半から出ていいリーダーシップを付け加えてくれているという素晴らしい役割をしてくれている。

 また、同じポジションの先発選手(デービッド・ポーコック)が素晴らしいという部分もある。それは今日も、見せてくれた。

(笑みを浮かべ)さらにもうひとつ、峻はフレッシュさを保ったまま日本代表に送り出したいとも思っています。来週、私のチームをボコボコにしてほしいと思っています!(10月28日、福岡で世界選抜を指揮し日本代表にあたるJAPAN XVと対戦)」

――その布巻キャプテンを、この日は早い段階で出場させました。

ディーンズ

「もともと決めていた戦略的交代ではなく、いくつかの打ち身、怪我の状況などがあって、そのなかで代えました。非常にいい仕事をしてくれたと思っています」

――布巻選手ご自身は、交代出場時に何を意識しましたか。

布巻

「前半30分くらいでしたかね。あぁ、もう入るのか、早いな、という感じです。意識したことは…。ゲームの序盤にいなかったので、自分から身体を当てに行って早くゲームに慣れようとは思いました。いつもどおりやる、と」

――会見冒頭では、「楽しもうと言っていて…」と仰られていましたが。

布巻

「ロビーさんも言いましたけど、練習じゃ経験できないようなプレッシャーがある環境で、僕らがどういうプレーができるかというチャレンジに対してのワクワク感、というか…。どうアタックが、どうディフェンスが通じるだろう、というワクワク感を楽しもう、と」

――試合中、ゴールキッカーがスタンドオフのベリック・バーンズ選手からインサイドセンターの松田選手に代わりましたが。

ディーンズ

「戦術的な意味合いではなく、前半途中にバーンズ選手の足に打ち身がありました。そこで本人からキッカーを代わりたいと申し出ました。うちに何人もいいキッカーがいたことが幸いしたと思います。松田は、こういうキックが大切になる(僅差の)試合のなかよく蹴ってくれた。(笑みを浮かべ)一番キックの練習をしていない方だと思うのですが、よくやってくれました!」

―― きょう、最も嬉しかったことは。

ディーンズ

「色んな要素がありますが、自分たちの成長を確信できた試合だったことです。きょうは結果いかんにかかわらず、自分たちにとっての負けはない(得るもののある)試合だったと思っています。コーチの目線で話すと、もちろん我々は勝ちたかたったわけですが、負けてもたくさん学ぶことがあるとは思っていました。勝って、たくさんのことを学べたのがよかったです。色々なテストもできました。サントリーさんが、我々のディシジョンメイキング(状況判断)に関し、良くも悪くも色々なものを出させてくれました。そこから学ぶことが多かった」

 確かにサントリーは、パナソニック防御網の攻略に多彩な準備を施しているように映った。例えば前半25分には、敵陣ゴール前右の接点からさらに右へ展開。囮となった選手の後方から2人のランナーを走らせ、最後はタッチライン際のスペースをウイングの松井千士が駆け抜けた(スコアは8-10とサントリーが2点リード)。

 ディーンズ監督の言う「サントリーさんが…良くも悪くも色々なものを出させてくれた」とは、サントリーがよき作戦を遂行したことで自軍の反省点が浮き彫りできたという意味かもしれない。

――後半ラスト5分。自陣ゴール前でサントリーのモールを起点とした猛攻を耐えていましたが。

布巻

「サントリーがモール(立ったボール保持者が起点となる接点。塊となって押せる)を組んできていた。そこはフォワードとして負けたくないところだったので、まずフォワードは、フォワード勝負にフォーカスしていました。ラック(倒れたボール保持者が起点となる接点。ボールは地面に置かれる)になればチームディフェンスに戻れる。それに関しては余裕を持ってできていた」

 この「ラックになればチームディデンスに戻れる」との発言は、パナソニックの組織防御への自負から生まれたものだろう。布巻は続ける。

「まずはディシプリン。規律を保った状態でディフェンスをし続けることがひとつのポイントです。そのなかで、もちろん自陣22メートル以内に入って熱くなる気持ちがあるんですけど、それとは別に、常に味方とつながり続けることを意識できたと思います」

――反則数はパナソニックが「6」でサントリーが「8」とほぼ変わらなかったですが、自陣深い位置で吹かれた笛の数はやや違った印象もありました。レフリーとの対話、ペナルティーマネージメントについては何を意識しましたか。

布巻

「基本的には黙っていました。何も言わない。それに尽きると思います。きょうは、そのマネジメントがいいと思いました。試合前のレフリーチェックの時も、特に何も言いませんでした。きょうはレフリーを信じる日だ、と」

 試合中、サントリー陣営でも「サントリー、ジャッジに何も言うな!」という声が飛び交ったが、パナソニック陣営ではそうした注意喚起さえ必要としなかったのだろう。パナソニックには海外経験者が多く、国内のレフリングへの提言も少なくない。それでもこの日、布巻キャプテンの指針は「黙る」だった。ここにも妙味があったか。

――サントリーの再戦があった場合は。

布巻

「もっとバチバチで。今日は雨だったしグラウンドを狭く使っちゃいましたけど、もっと大きく動かして、お互いが観ていて楽しいと思える試合ができたら」

ディーンズ

「準決勝、決勝へ進出して、そこで2試合、しっかりとやりたい、その時の会見でいろいろと話します」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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