木村拓哉はなぜ「何をやってもキムタク」なのか、主演映画の監督「エグさも共感へと引き上げられる凄味」
2023年に入って、バラエティ番組などに多数出演している俳優・木村拓哉。それぞれ「50歳を迎えた木村拓哉の考え」を引き出しながら、これまでの功績を振り返る番組内容が多かった。それらを見聞きしてあらためて感じたのは「木村拓哉は自分をどのように見せようとしてきたか」ということである。
木村拓哉は1996年2月、「“カッコイイ”も“ダサイ”も自分のなかにあるんだよね。周りが見たらダサイことでも、本人に使命感や責任感があったら、それはカッコイイ。そいつの本気がカッコイイんだよ」(書籍『キムタクバイブル 木村拓哉のキーワードを読み解く!』(1997年/本の森出版センター)より)と発言している。
1990年代、茶髪、ロン毛、ネルシャツ、ジーンズのアメカジ&サーファー系のファッションを流行させ、さらにテレビにも同様の格好で出演。アイドルが古着姿でテレビ画面に映るのは当時としては異例の出来事。木村拓哉はその当時から、自分独自の見せ方や世界観を築いていた。
主演ドラマ『CHANGE』(2008年)における「相手と自分は違うんだということに気づく。同じ人間だと思っているから、ちょっと否定されただけでムカついたり、誰かが一人別行動をとったら、『なんだあいつ』ってそこから喧嘩やいじめが始まったりする。でも同じ人間なんていない。みんな、考え方も事情も違う人間」という台詞は、そんな木村拓哉が口にしていたからこそ、より実感を持って視聴者に届いていたのではないか。
木村拓哉が「正直、嫌だった」と明かした『SMAP×SMAP』
木村拓哉の「番組出演ラッシュ」のなかで特に印象的だったのが、1月22日、29日の2週にわたって放送されたバラエティ番組『日曜日の初耳学』(TBS系)である。
木村拓哉は、のちのジャニーズグループが番組内でコントなども積極的におこなうきっかけとなった『SMAP×SMAP』(1996年から2016年/フジテレビ系)について、「正直、嫌だなと思っていました」と明かした。その理由は、木村拓哉の代表的ドラマ『ロングバケーション』(1996年/フジテレビ系)の存在。木村拓哉は「『ロンバケ』の第1話と『スマスマ』の第1回の放送日が一緒だった。(夜)9時からやっている(『ロンバケ』の)世界観が、3分後にはまったく違う世界観になる。俺はどうすれば良いんだろうって」と、「見え方の違い」に頭を悩ませたという。その切り替えには「時間がかかった」とも語っていた。
『SMAP×SMAP』で挑戦していたコントについても、「自分なりにどういう風にすればおもしろいのか考えて。ピンクの着ぐるみもホスト(のキャラクター)も自分で考えた。何をしたらおもしろくなるのか考えていた」と番組内容や自分の見せ方も試行錯誤していたのだという。
木村拓哉の「番組出演ラッシュ」を盛り上げた、明石家さんま
木村拓哉の「番組出演ラッシュ」をさらに盛り上げたのが、明石家さんまの存在だ。木村拓哉は、明石家さんまが司会を担当する数々の番組に出演。ふたりの間柄だからこそ聞くことができるトークばかりだった。
たとえば1月11日放送『超ホンマでっか!?TV 木村拓哉レストラン&根に持つ芸人SP』(フジテレビ系)では、出演者のために料理を作る木村の姿を見ながら、明石家さんまは「自慢じゃないけど僕は何回か作ってもらった。料理をしている間、あいつはペチャクチャと喋らない。それがまた『素敵』とか言うて」と普段の様子を口にし、さらに『SMAP×SMAP』の料理コーナー「ビストロSMAP」へ出演した際について「俺はいつも中居とトークをつないでいた。そのトークもほとんどバッサリ切られた」と元SMAPの中居正広の名前を出して回想。SNSでは、思いがけない木村拓哉と中居正広の「共演」に喜ぶファンの声が相次いだ。
『日曜日の初耳学』の1月22日放送回では、木村拓哉が、当初「キムタク」という愛称を好んでいなかったエピソードを披露。そのことを明石家さんまと話していたとき、「なんでや」というたった一言の返事で悩みが「解決してしまった」と振り返った。そのとき「“おしゃべり怪獣”に出会って」と明石家さんまの名前をはっきり出さずに証言したところが、いかにも木村拓哉らしい言い回しだった。これも木村拓哉による、明石家さんまに対する信頼の強さをあらわした「見せ方」だったように思える。
大友啓史監督「『スター・木村拓哉』であろうとし続ける覚悟」
1月27日公開の主演映画『レジェンド&バタフライ』でメガホンをとった大友啓史監督は、劇中で織田信長役をつとめた木村拓哉について「『第六天の魔王』にならないと国を治められないと決断した信長と、『スター・木村拓哉』であろうとし続ける木村さんの覚悟は、僕にはどこか重なるところがあるように思います。木村さんには、自分のなかに明確なルールやポリシー、美意識がある。ベースにあるのは、媚びないこと、そして自分に嘘はつかないということだと僕は思いますね。一方でサービスをすることが本当に好きな方だから、やっぱり自然とそれがあふれてくるんですよね」と分析。
出演した各テレビ番組を観ていても、さまざまな質問に対して「いや、そうではない」と否定するようなことも少なくなかった。しかしそのあときっちりと「なぜそうではないのか」を細かに説明し、すべてにちゃんと「オチ」をつけていた。いずれも見事なトーク展開ばかりだった。それも「媚びなさ」と「サービス精神」の両立からくるもののように筆者は感じた。
大友啓史監督はそういった点について「『自分が言いたいこと言うのは当たり前じゃん』という感覚と、『そうは言っても人を不快にしてはいけない。やっぱり人を喜ばせるのが好きだし』という感覚のバランスや勘どころが、木村さんは優れているのではないでしょうか」と付け加える。
「そういうさじ加減って、本当に難しいんですよね。映画作りもまさにそうなのですが、鑑賞者を不快な気持ちにするのか、快にするかは、描き方や台詞の微妙なニュアンス、音楽や映像の作り方でどうとでも変化します。今回の信長という人物に関しても、我々と同じような弱さをみせる人間味のある信長と、まさに第六天の魔王としてのエグい信長と、そのバランスが重要で。例えば『本能寺の変』の信長が、闘いの後半で一瞬垣間見せる姿はその象徴です。信長が見せるある行動で、敵陣がフッと怯えて、一瞬時間が止まったようになる。その演出には木村さんの意見も取り入れているのですが、それはまさに人間信長が第六天の魔王として見せた最後の大見得、エグさに繋がる表現なんですよね。めちゃくちゃおもしろくて刺激的」
さらに大友監督は「その一方で、一歩間違えるとエグいという表現への、的外れでネガティブな評価に圧倒的に傾いてしまう可能性もありました。なので、そこに至る信長の濃姫(綾瀬はるか)への思いが勝っていること、それをすでに観客が十分に体感しているということが何よりも大切なのであって。今回の表現はそのエグさが許容されるどころかむしろ、多くの人の共感レベルを引きあげることに繋がっている。それはまさに、『俳優・木村拓哉』の凄味とか美意識、分厚さがベースにあってこそだと思うんですね」と木村拓哉を評する。
『レジェンド&バタフライ』は「何をやってもキムタク」なのか
そうやって演じる役についても深く考え、経験やポリシーもまじえ、「唯一無二」を築き続けてきた木村拓哉。さまざまなキャラクターに扮しても「何をやってもキムタク」との声があがることも少なくないが、それはその個の強さからくるものだろう。好意的にそう言われることもあれば、皮肉的な意味が込められることもある。
2019年1月2日放送のバラエティ番組『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』(TBS系)に出演したとき、「何をやってもキムタクって言われる。しょうがないよね」とコメントしていた。「何をやってもキムタク」という言葉を私たちはどのようにとらえるべきなのか。また、単なるイメージで「何をやってもキムタク」という風に見ている人が多いのではないか。
大友啓史監督は「そう言う人には『この映画を観てください』と問いたい。もちろん『何をやってもキムタク』で生きるシーンとか役もあるでしょう。だって、スターってそういうもんですから。ドラマ『探偵物語』(1979年から1980年)の松田優作さんはまさにそうだったし、僕らもそういう松田優作さんが観たかったですからね。何をやっても松田優作、何をやっても高倉健。そういう映画スターがむしろ少なすぎる時代だと思います。だから一概に良し悪しは言えないけど、もしネガティブな意味で『何をやってもキムタク』と言う人がいるとしたら、本当にこの映画を観ていただきたいです。『俳優・木村拓哉』とがっつりお付き合いした自分としては、そういうイメージを覆したいという思いも少なからずあったのでね」ととても力強い言葉を届けてくれた。
バラエティ番組でも、映画でも、ドラマでも、そこにいれば圧倒的な存在感を放つ木村拓哉。まさに「生きる伝説」と化しているのではないだろうか。