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「新・ガザからの報告」(34)2024年12月14日ー前編・停戦交渉の光に求める避難民たちー

土井敏邦ジャーナリスト
(テント村の夕焼け/撮影・ガザ住民)

【新たな交渉に期待するガザ住民】

 先週は、多くの最新情報がありました。政治、軍事、人道に関する最新情報です。まず政治から始めましょう。

 最近、エジプトとアメリカのバイデン政権を通じてハマスとイスラエル間で集中的な交渉が行われています。彼らは年内に停戦と人質交換を実現させようとしています。イスラエルもハマスも、自分たちは前進していると断言しています。

 ガザ地区のほとんどの人びとは、停戦と人質交換について、「今回こそ何らかの合意に達するだろう」「今回こそ停戦の試みが成功するだろう」と感じています。イスラエルとハマスの双方が「人質解放の合意に向けて大きく前進している」とメディアを通じて表明しているため、ほとんどの人びとは楽観視しているのです。

 少数派は、依然として悲観的で絶望的ですが、大多数の人びとは、「今度こそこの戦争に解決策が見出され、この戦いに終止符が打たれる。少なくとも数週間の一時停戦が実現するだろう」と大きな期待を寄せています。もしそうなれば、人びとは一息ついて、援助を受けたり、休んだりすることができるでしょう。

 イスラエル側、パレスチナ側の双方のメディア情報によると、おそらく1月初旬には、停戦が現実のものとなるだろうと予測しています。人びとは今後2週間の間に、停戦合意の宣言を目撃することになると期待しています。これが政治情勢の最新情報です。

(Q・これまで交渉は何度も失敗してきた。なぜ今回は、成功すると楽観的なのですか?何か特別な理由があるのですか?)

 私は悲観的です。戦争終結の手続きはすぐに起こらないと予想しています。多くの月日、おそらく1年か、1年以上必要でしょう。これは私の意見です。

 なぜなら、停戦には多くの段階があるからです。そして状況は複雑です。イスラエルとヒズボラの停戦と、イスラエルとハマスの停戦を比較することはできません。

 まずレバノンでは、イスラエル人の人質は1人もいません。しかし、ガザ地区では100人もの人質を捕らえています。そして状況は依然として非常に複雑です。ですから、たとえ明日停戦合意が成立したとしても、停戦そのもの、つまり戦争の終結には、複雑な状況だから、あまりにも多くの時間がかかると私は思います。

 しかし、人びとは、今回は交渉に長い時間がかかったため、ほとんどの人々が楽観的です。「双方とも停戦実現に向けて長い時間をかけ、長い距離を歩んでいる。だから今回は停戦が成功するかもしれない」と人々は楽観視しているのです。人びとは理性ではなく、感情で考えています。雨でテントが沈んでいく。雨の水の中で人びとは感情でものごとを考えてしまいます。人びとは非常に苦しんでいます。あまりにも苦しんでいるからこそ、今回、人びとは楽観的なのだと私は思います。

 今回の交渉は当初から対立し拒否するのではなく、高レベルな段階まで続いています。私は、今後数日のうちに、すべてが明らかになると思います。だからこそ人びとは結果を待っています。交渉の最新情報を1時間ごとのニュースで追っています。

【ハマスは住民の苦難を考慮していない】

(Q・雨のためにテントが沈んでしまっているとあなたは報告してくれましたね。国外のハマス指導者たちは、このようなガザ地区の人びとの苦しみについて知っているのでしょうか。ガザの民衆の苦しみを国外の指導者たちが理解していると思いますか?民衆がこれほど苦しんでいることに気づいていると思いますか?)

 私はそうは思いません。ハマスの指導者たちは、ガザの人びとの苦しみをまったく考慮に入れていません。人びとの苦しみにまったく注意を払っていません。なぜなら、彼らはこの戦争を継続させることを主張しているからです。彼らは最初から戦争を止めようとはしていませんでした。もし彼らが人びとの苦しみを気にかけているのであれば、この戦争を止める機会は、ずっと前からあったはずです。彼らは人々の状況を気にしていないと思います。人々の苦しみなど気にも留めていないのです。

【孤立無援となったハマス】

 ご存じのように、北部の戦線では、ヒズボラはイスラエルと停戦に達しました。ヒズボラはもはやイスラエルにロケット弾を発射していません。彼らはイスラエルとの停戦を厳格に順守しています。

 レバノンの隣にはシリアがあります。シリアで今起こっていることは、アサド政権が倒され、アサドはもはや権力の座にありません。

 アサドは中東、アラブ諸国におけるイランの主要な“代理人”でした。アサド政権はイランの最も著名な同盟国、あるいは代理人です。そして彼らはあらゆる面でハマスを支援していました。

 今、ハマスは単独で戦っています。ハマスはイスラエルとの戦いにおいて孤立無援の状態です。今やハマスはヒズボラからもシリア政権からも支援を受けていません。ですから、この点は非常に重要だと思います。ハマスは孤立無援の状態であり、イスラエルとの戦いにおいて孤立無援の状態にあるということを考慮しなければなりません。

  一つ例外があります。イエメンのフーシ派です。彼らは、時折ロケット弾や無人機をイスラエルに向けて飛ばしています。しかし、これはイスラエルと戦うための効果的な方法ではありません。フーシ派は非常に遠い地域から、ごくわずかな数のロケットを発射していますが、そのほとんどはイスラエルの防衛システムによって迎撃されています。

 つまり、ハマスはどのような形であれ、イスラエルとの戦いにおいて孤立しているのです。これは非常に重要な問題です。

(イスラエル軍の空爆でさらに建物が破壊された/撮影・ガザ住民)
(イスラエル軍の空爆でさらに建物が破壊された/撮影・ガザ住民)

【ハマスに対するはトランプ次期大統領の圧力】

 もう一つの重要な問題として、トランプ次期大統領の脅威も考慮に入れなければなりません。トランプ次期大統領はハマスを脅しています。「私が大統領としてホワイトハウスに入ったら、ハマスに対して非常厳しく、非常に冷徹な方法で対処するだろう。もしホワイトハウスに私が入るまで人質を確保し続けるなら、ハマスを叩き潰すだろう。私は冷徹な方法で対処するだろう」とトランプ氏は数週間前からハマスを脅迫しています。

 これらは非常に重要な問題です。ハマスは、その地域における同盟国や支援者つまりヒズボラやアサド政権などを失い、さらにトランプの脅威にもさらされているのです。

 この2つの問題がハマスに非常に大きな圧力をかけています。

 さらに非常に重要な問題を話さなければなりません。 

 ハマスの指導者たちはすでにカタールを離れています。カタールは彼らに国を出るよう要請し、彼らは数週間前に実際カタールを去りました。今、ハマスの指導者たちは、地理的にバラバラになっています。トルコ、アルジェリア、モーリタニア、その他の国々に離れ離れになっていますが、その大半は、今トルコに滞在しています。彼らはレバノンにもシリアにも戻ることができません。レバノンに戻れば暗殺されるでしょう。シリアに戻れば、新しい政権に歓迎されることはありません。

【最近のガザ内の動き】

 さて2番目です。軍事的な最新情報です。まず、今日(12月14日)の朝、イスラエル軍はジャバリア難民キャンプ最南端、ジャバリアとガザ市の境界地区に住む住民に退去を命じました。その地域から避難し、ガザ市内の中心部にあるシェルターに避難するよう求めています。つまり、イスラエル軍は今後、数日のうちに、これらの地点、つまり、ジャバリア難民キャンプの南端、ジャバリアとガザ市北部の間の地域に地上侵攻を拡大するつもりです。この最新情報は、本日、今朝に入ってから発表されました。

 昨日(12月13日)と一昨日には、重要な出来事がありました。

 ガザの戦闘グループがイスラエルに対して発射したロケット弾の数が増加しています。これらのロケット弾は、多くの戦闘グループによって発射されています。ハマス、イスラム聖戦、PFLP(パレスチナ解放人民戦線)、その他小規模な軍事グループです。

 ここ数日、ガザからイスラエルに向けて、非常に多くのロケット弾が発射されています。これほど多くのロケット弾が発射されたのは、ここ数ヵ月の間では初めてのことです。これほど頻繁にロケット弾が発射されたことはこれまでありませんでした。先週だけでも10から12発のロケット弾が発射されたと思います。この平均値は、これまでの数ヵ月間と比較すると非常に高い数です。この数ヵ月間では、1週間に1発のロケット弾が発射されるかどうかという程度でした。全くロケットが飛んでこない週もありました。ですから、先週はイスラエルに対するロケット発射の割合が非常に高かったのです。

 人びとは、ハマスが今回は停戦に前向きに取り組む兆しだと捉えています。なぜなら、ハマスは、ロケット弾を飛ばしながら、「降伏せずイスラエルと戦い続けている」という英雄的なイメージでこの戦争を終えたいのです。ですから、これは人びとにとって、今回ハマスは停戦に真剣かつ前向きに取り組むだろうというもう1つの兆候です。

【イスラエル空軍による郵便局の爆撃】

 また重要なことがあります。

 2日前にヌセイラート難民キャンプで起こった虐殺について話さなければなりません。イスラエル空軍が、ヌセイラート難民キャンプの郵便局の建物を空爆しました。この空爆は非常に強力で破壊的でした。郵便局の建物は完全に破壊され、郵便局の建物に隣接している周辺の3~4棟の建物も破壊されました。それらは完全に破壊されたのです。この空爆で、71人が死亡しました。

 イスラエルはこの攻撃を正当化し、ハマスが地下部屋を建設していたと発表しました。郵便局の建物の地下または地下に部屋があり、ここはイスラエル軍から指名手配されている何人かのハマス戦闘員のための場所だというのです。このミサイル攻撃は非常に強力で、瓦礫の下に埋もれて今も回収されていない遺体もあります。おそらくあと100人ほど犠牲者が増えるでしょう。

【小麦粉の配布】

(Q・政治面、軍事面、そしてもう一つは何ですか?)

 3つ目は人道的な状況です。先週も多くの人道的状況の最新情報が寄せられました。

 まず小麦粉の問題です。国際機関によって多くの小麦粉が供給されるようになりました。それによって小麦粉の危機は徐々に解決されつつあります。市場には大量の小麦粉が出回り始めました。住民は小麦粉を手に入れられるようになり、ほとんどの人たちが入手できるようになりました。

 WFP(世界食糧計画)が緊急配給を行っており、各家庭に25キロ入りの小麦粉袋を1袋ずつ配っています。緊急・非常用配給品として配布されているのです。WFPによるこの措置により、パレスチナ人家族のパン不足は緩和されました。

(水浸しになったテント村/撮影・ガザ住民)
(水浸しになったテント村/撮影・ガザ住民)

【呪わしい雨】

 今日だけは空に太陽が少し見えましたが、ここ数日はほとんど毎日寒い日が続き、ほとんど雨で、風が強く、寒風が吹いていたので、テントで暮らす人びとの苦しみは想像を絶するものでした。人びとの状況はますます悪化しています。

 人びとは叫び声をあげ、神にこう懇願しています。

 「どうかこの雨を止めてください。私たちのテントは水に沈みそうです。テントの中で横になることもできませんし、眠ることもできません。子どもたちを眠らせることもできません。服を乾かすこともできません。毛布を乾かすこともできません。私たちは濡れています。沈みそうです。どうか神様、この雨を止めてください。雨の雲を他の地域に持ち去ってください。私たちはその雨雲を必要ありません」と。(続く)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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