<2016参院選>改憲「3分の2」カギ握る大阪選挙区の情勢を独自調査
来る7月10日(日曜日)に投開票が行われる2016年参議院議員通常選挙。この3年に1度の選挙に合わせて、今回、筆者が代表を務める報道ベンチャーのJX通信社では、公示前から公示後まもない先週末まで3度に渡り注目選挙区の情勢調査を行った。
今回、本稿では中でも「改憲勢力3分の2」到達のカギを握る、注目の大阪選挙区の情勢を紹介する。
※注:JX通信社は共同通信グループなどと資本関係があるが、今回の調査は自社調査サービス(公開準備中)の企画として単独で行ったものであり、他社とのデータの交換や提供などは一切行っていない。
今回の情勢調査のポイントは、主に以下の3点にまとめられる。
・維新2議席にリーチ。「改憲勢力で全4議席確保」可能性高まる
・争点は「経済」と「社会保障」。「改憲」は3番手
・政権不支持層の受け皿になりきれていない共産、民進候補
維新2人擁立も堅調「当選ライン」大幅上昇か
選挙の情勢を読み解くためには、ある程度経時的にトレンドを追い、候補や政党の支持動向が「上向き」なのか「下向き」なのかを判断する必要がある。このため、今回は冒頭の調査概要表の通り、公示前の6月11・12日、翌週末の18・19日、そして公示後最初の週末となった25・26日の3度に渡って調査を実施した。
この結果得られたデータに誤差の考慮や定性的情報を加味して作成したのが、上の「トレンド図」だ。
新聞報道の慣行に倣い詳細な数値の公表は差し控えるが、情勢としては浅田均氏(おおさか維新の会)、松川るい氏(自民党)が先行し、石川博崇氏(公明党)も堅調だ。そして5月末に擁立が決まったばかりの高木佳保里氏(おおさか維新の会・2人目)が知名度不足を挽回し急速に追い上げている。それを渡部結氏(共産党)、尾立源幸氏(民進党)が追っている状況だ。
実は3年前の前回参院選では、維新(当時「日本維新の会」)は東徹氏1人だけの擁立にとどめ、結果同氏が105万票の得票でトップ当選している。今回は、橋下徹氏引退という「逆風」下にも関わらず強気の2人擁立を決めたことで、一部では共倒れの可能性も指摘された。
しかし、現下の情勢では、維新は自民と匹敵ないしはそれを上回る支持を得ており、候補別の支持動向を踏まえても共倒れとなる可能性は限りなく低い。結果、首位当選の「トップライン」は下がる一方で、最下位当選に必要な得票数(当選ライン)が逆に上昇すると予想される。
ちなみに、前回は共産の辰已孝太郎氏が46万票で4位当選を果たしている。今回は、前回並みの投票率(52.72%)ないしはそれを下回る40%台後半の投票率となると仮定した場合でも、40万票台〜50万票ほどの得票では当選ラインに届かない可能性が高い。
では、一体今後情勢はどのように変化し、誰が勝ち残っていくのか。
政権不支持層をも取りきれない共産・民進 ―政権支持・不支持別の投票意向
重要なポイントの1つとなるのが、政権支持層・不支持層それぞれの動向だ。
6月25・26日時点の調査では、大阪府内での安倍政権の支持率は43.1%、対する不支持率は27.2%だ。また、どちらとも言えないと回答した有権者も29.7%に上る。
このうち、政権を支持する層からは、松川(自民)、浅田(維新)、石川(公明)各氏がほぼ横並びで支持を得ており、高木氏(維新)がそれに次ぐ水準で支持を得ている。一方、政権不支持層からは、渡部氏(共産)が最も支持を集めており、尾立氏(民進)がそれに次ぐ支持を得ている。だが加えて、実はこの政権不支持層からは維新の候補2人も、合計で尾立氏に匹敵する支持を得ているのだ。
更に象徴的なのが政権「支持」でも「不支持」でもない層だ。この層には態度未定者が多く、投票に行く意向もわりあい低いが、既に態度を決めている有権者のうち実に7割が維新2候補を支持している。
いわゆる「民・共」の枠組みが政権不支持層の受け皿になりきれていない点はある程度全国的な傾向として見られるが、大阪ではその「政権不支持層の受け皿」としての役割を一定程度を維新が引き受けている状態なのだ。
ではなぜ、このようなことが起こるのか。争点別の有権者の動向から検証してみたい。
主要争点は経済と社会保障― 争点別の投票意向
今回、民進・共産両党を中心とする「野党共闘」の枠組みで最も強調されている争点は「憲法改正」だ。3度の調査の結果、大阪でもこの憲法改正を最重視する争点に上げる有権者の割合は経時的に増えている。上図は6月25日・26日の第3回調査における「有権者が最重視する争点」の主要5項目を示したものだ。改憲は第1回・2回と比べてやや割合を増し、16.1%の有権者が最重視するものとして挙げた。これはつまり、改憲が「主要な争点」として重視され始めている兆候とも言える。
とはいえ、それより圧倒的に多くの有権者が関心を寄せ続ける争点は別にある。それは、「景気・雇用」(27.6%)、そして「福祉・医療」(20.0%)の2項目だ。言い換えれば、「経済と社会保障こそが有権者の最大の関心事」ということになる。
25・26日時点で「景気・雇用」「福祉・医療」そして「財政再建」の項目ではそれぞれいずれも4割台もの態度未定者がいる。なかでも絶対数としては、「景気・雇用」つまり経済を争点とみなす有権者の数が最も多い。その経済を重視する有権者層においては、松川氏(自民)が最多の支持を集めている。石川氏(公明)も含めた与党の計約3割に対して、維新の2候補も2割台で追いかけており、双方にとって「最も伸びしろがある」と言える争点だ。一方、渡部氏(共産)、尾立氏(民進)はこの分野では存在感が薄い。
また、「福祉・医療」を重視する層の中では石川氏(公明)に最多の支持が集まっている。これは、公明党支持層そのものが他党よりやや高齢の傾向を示していることも影響していそうだ。松川氏(自民)は石川氏に比べやや支持が薄い。ただし、自・公を合計すると維新2候補の合計と拮抗している。なお、共産は福祉政策を重点的に訴えるが維新2候補に及ばず、尾立氏(民進)も十分食い込めていない。それだけに、この経済、社会保障に関する争点設定は今後両候補が「4議席目」を争うための重要なポイントになるだろう。
一方、「憲法改正」を争点として最重視する有権者から最も支持を集めているのは渡部氏(共産)だ。ついで尾立氏(民進)が追いかけている。この争点を重視する有権者のなかでは、自・公・維の各候補への支持を全て足し合わせても渡部・尾立両氏には及ばない。ここがまさに、野党が「憲法」を主要争点に上げたい理由でもある。ただ、この争点は態度未定者が最も少なく、約3割に留まっている。大半の有権者の態度が固まっている分伸びしろが少なく、割合でも絶対数でも圧倒的に大きい「経済」に匹敵する争点化は至難だ。
そして、上位5項目の争点の中で「子育て・教育」は態度未定者が最も多い政策分野だ。その規模は過半に上り、他の争点と比べても非常に多い。但し、傾向として重視する有権者全体の年代が若く、昨年の大阪ダブル選の調査結果なども踏まえると「態度未定者の多さ≒選挙に行かない人の多さの裏返し」といった側面もありそうだ。若年層の投票意向や投票率の低さといった課題は昨年の大阪都構想の住民投票においても指摘された点であり、選挙全体の課題としても挙げられる。
まとめると、共産・民進両党は、今回の選挙で主要な争点となっている経済、社会保障の分野において有権者に浸透できていない一方で、維新2候補は与党と拮抗する水準まで浸透しているのだ。
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選挙戦は中盤に差し掛かっている。現時点での支持動向を踏まえれば、投票率が前回並みかそれに近い水準なら維新2議席、自民1議席、公明1議席(順不同)で4議席が埋まる可能性が高いといえる情勢だ。この傾向は、主要報道各社の序盤情勢の報道でもある程度共通している(右図)。「野党共闘」でこの情勢を組み替えられるのか、それとも「身を切る改革」の実績とドブ板戦術で維新が2議席を取り切るのか。結果次第では今回の選挙を象徴する選挙区となる可能性もあり、今後の展開に注目したい。