すべての上司に教えてあげたい、部下たちの「驚愕の真実」
「ダム」になる上司たち
私は現場に入りこむコンサルタントです。企業の目標を達成させるための支援活動をしています。理論もお伝えしますが、それだけで結果が出ないことも知っています。
私が対峙するのは、企業の課長、部長と呼ばれる役職の方々がほとんど。その際、とても困るのが、それら「上司」たちの反応です。現場へ通達する前に、「そう言われましても……」と言って上司たちが「ストップ」をかけてくるのです。
その反応を区分すると、以下の3つとなります。
● 有効性への疑問
● リスクに対する過剰反応
● 部下への責任転換
「有効性への疑問」は、「そのやり方で本当にうまくいくんでしょうか?」というもの。一緒に議論して合意形成したにもかかわらず、実行段階になると、途端にこう言い始める人がいます。
「リスクに対する過剰反応」は、「もし、そのようなことをして、現場がパニックになったらどうしましょう?」というもの。常識的に考えてパニックになどなるはずもないのに、いざやろうとすると怖気づく人がいます。
「部下への責任転換」は、まだましです。「そうはいっても、なかなか部下が言うことを聞いてくれないんです」というもの。正直な上司の感想です。しかし、実際に投げかけてみないことにはわかりません。
ハッキリしていることは、そのようなことを言う上司を差し置いて、彼らの「部下」に私がストレートに通達すると、ほとんどのケースで、「わかりました」「とりあえず、やりましょう」「それで結果が出るかわかりませんが、まずはやってみないとわからないので」というような前向きの反応が返ってくることです。もちろん、先述した上司と同じような言い方をする部下たちもいます。しかし少数です。
多くの企業で上司が「ダム」になっています。経営者や私たちのようなコンサルタントの考え、計画が部下たちへと正しく届きません。
上司が「ダム」になる理由は1つしかない
上司が「ダム」になる理由は1つしかありません。いろいろなことを言いながら、部下を恐れているのです。部下に新しい行動をしてもらうことに躊躇しているのです。「とりあえず、どのような反応をするか、部下に言うだけ言ってみたらいいじゃないですか」と私は言うのですが、それでも反論してきます。
「今の子は、言い方を間違えると萎縮しますからね」
「言っても聞かないんですよ。いったい何を考えて仕事をしているのか……」
「最近の子は主体性がない。仕事に危機感がないんです」
などと「すり替え」の言い訳をしながら、結局いつになったら部下に話をするのか明言しません。
「ゴチャゴチャ言ってないで、部下の方々を集めてください。そして新しい方針と行動計画を伝えてください」私がこう言っても、「いや、それよりも一人ひとりと面談してみますよ。部下たちが何を考えているのか、それをまず知るのが先決だと思うので」と言って聞きません。「部下が言うこと聞かない」と言いながら、この上司たちも言うことを聞かないのです。この構図は同じです。
このように、やたらと「部下が何を考えているのか」知りたがる上司がいます。そして部下と「1対1」の面談をセッティングしようとします。
「面談」や「コーチング」はほとんど期待ハズレに終わる
面談では、「君はどうしていつも私の言うことを聞かないんだ?」などとストレートに質問しません。上司が部下を恐れているからです。まず相手の立場に立ち、もし職場への不満があれば相談に乗ろう。ぜひ私に言ってくれたまえ、という態度をとります。こういう上司の頭には以下のプロセスが描かれているからでしょう。
1)部下が主体的に行動してくれない
2)主体的に行動しない「理由」があるに違いない
3)部下は職場に「不満」を覚えているのではないか
4)上司が相談に乗って、その「不満」を解決する
5)そうすることで部下は上司に信頼を寄せる
6)部下は上司の言うことを聞いて主体的に動いてくれる
そのため、面談のときは、まず「職場に対する不満」を中心に聞き出そうと、次のようにヒアリングを開始します。
「最近どう? 仕事に対して何か気付きとか不満とか、あるかな?」
こう聞かれて、「はい。実はあるのです」と部下が答えるなら、問題はありません。親身になって相談に乗ればよいでしょう。しかし、そのような返答がかえってくることはおそらくありません。
「いえ。別にありませんが」
こう返されると、上司は不満です。ですから「本当に何もないの?」と質問を繰り返したくなります。本当は不満があるんだろ。隠さなくてもいいんだよ。怒ったりしないから何でも話してくれよ。という態度になっていきます。しかし、
「いえ、本当にありません」
と、部下は答えるでしょう。しかし上司は引き下がれません。なぜなら、部下はいつも主体的に動いてくれない。問題意識が足りない。約束したことを守らない。言っても聞かない。言い訳が多すぎる……。なぜそのような不誠実な態度になるのか? そこには必ず「理由」があるからだと上司が思い込んでいるからです。どうすれば意欲的に仕事をしてくれるのか。どうやったらモチベーションがアップするのか。どうしても知りたい。教えてくれ、と叫びたい気持ちになっているのです。
ここで、「それじゃあ、どうして君はもっと主体的に行動してくれないんだ。職場に不満がないなら、もっと当事者意識をもって仕事をして欲しいんだよ」と上司がハッキリ言えたらまだマシです。しかし部下を恐れる上司は、もっと歪曲的な表現をして質問を重ねます。なぜなら「部下は自分の内面のことを正しく認識していないだけなのかもしれない」と想像するからです。ここまで来ると、妄想です。
「それじゃあ、ちょっと別の角度から質問をするけど、君は何をしているときに一番ヤリガイを感じるかな?」
こう質問されて、
「私はお客様から感謝されたときに、一番ヤリガイを覚えます」
「これまでできなかったことができたとき、私はヤリガイを感じます」
などと答えてくれるといいのですが、そのような理想は叶えられません。
「さあ、どうでしょう……」
「考えたこともありません」
「だいたいヤリガイって、何ですか?」
という返答が戻ってくるだけです。全然期待した答えが返ってこないので、さらに部下の内面を掘り起こそうとします。
「君はどんなことをしていると楽しいと思うの?」
「それじゃあ、この会社でどんなことがやりたくて入ったの?」
しかし、このようなコーチングまがいな質問を繰り返しても、相手の口から期待される答えは出てきません。
「うーん、ちょっと……。あんまり考えたことありませんが」
といった、煮え切らないような返事しか出てこないのです。どう頑張っても、
「そうか! そういう理由があったのか! だから君は仕事に身が入らなかったのか。そうか、そうか……。でも安心してくれたまえ。私が解決してあげるから」
などと言えるようなことはありません。ヒドイ場合は質問を繰り返すことで相手を混乱させます。
「何をやってるときが楽しいのか……」
「そもそもどうしてこの会社に入ったんだろう……」
「人生において、私は何を実現させたいんだろう……」
と、部下たちは頭を悩ませるようになるかもしれません。
上司の悩みが部下に伝染しているだけです。考えすぎの上司が、部下を考えすぎに、させているだけなのです。
部下たちに関する「驚愕の真実」
散々遠回りして書いてきましたが、ここで私の考えを書きます。
ほとんどの部下は何も考えていません。
なぜ、あの部下は主体的に仕事に取り掛からないのか?「何となく」です。
なぜ、あの部下は自主性を重んじてバリバリ働くのか? それも「何となく」です。
何となく「やる」のです。そして、何となく「やらない」のです。そこに、いちいち理由などありません。行動するから行動するのであって、行動しないから行動しないのです。もちろん何らかの「理由」を答える人もいるでしょう。しかし、それは質問したから答えたのです。質問したからその「理由」が生まれてしまったのです。
「最近の若い子は何を考えているのかわからない」
という上司がたくさんいます。しかし、本当にそうでしょうか。それでは私が上司たちに質問しましょう。あなたは若いとき、何を考えていましたか? どんなことにヤリガイを見つけていましたか。どうして主体的に働いていたのですか? そう質問されてもほとんどの人が困るはずです。
明確に答えられる人もいるでしょうが、それは自主的に行動してきた過去があるからです。だから「理由」を後付けで見出すことができるのです。つまりほとんどの場合、「理由」「動機」が先にあって行動するのではなく、行動するから「理由」や「動機」を見つけられるのです。
上司はヘタなコーチングなどしようとせず、ティーチングをしましょう。
「来月から、こういう方針でいく。新しい行動計画に沿って実践してくれたまえ。できない理由などないから、まず行動しよう」
どう伝えたらいいのかと、「伝え方」で悩む必要もありません。ストレートに言えばいいだけです。それでも部下が動かないケースは多分にあります。現状を現状のまま維持したいという心理欲求「現状維持バイアス」がかかっているだけです。理由はそれだけ。
「前も言ったとおり、新しい行動計画に沿って実践してくれ」
同じことを繰り返し言えばいいのです。感情的になる必要もありません。なぜすぐに動かないんだと考え込む必要もないのです。淡々と繰り返しましょう。「難しく考えず、まずは行動しよう」という「空気」を作るのです。それが上司の役割なのです。