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【全日本ロード/鈴鹿8耐】中須賀&ヤマハ完勝!見えてきた夏の8耐の戦況。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)

4月23日(土)24日(日)に鈴鹿サーキットで開催された「全日本ロードレース選手権・JSB1000」の開幕戦「鈴鹿200km」はチャンピオンの中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)がレースウィークを通じて圧倒的な速さを見せつけて優勝を飾った。「今年は全戦ポールポジション、全戦全勝が目標」という中須賀がまずは王座防衛、自身7度目の最高峰クラスチャンピオンに向けて開幕ダッシュを決めた。

JSB1000開幕戦の表彰台【写真:MOBILITYLAND】
JSB1000開幕戦の表彰台【写真:MOBILITYLAND】

速すぎる、強すぎる中須賀&ヤマハ

予選では唯一の2分5秒台をマークするなど強烈な速さを今季も見せつけるヤマハYZF-R1と中須賀克行。今年もそのアドバンテージは健在だ。すでに6度の最高峰クラス王者に輝いている中須賀のライダーとしての風格はもちろん、今年はチームにも「ファクトリー」(ワークス体制)を名乗ることになった昨年のような戸惑いは感じられない。チームクルーのそれぞれの動き、仕事の進め方に落ち着きが感じられ、決勝レース中に義務付けられたピットインでもフルサービスを大きなタイムロスをすることなく遂行し、「鈴鹿8耐」への準備はOKといった印象。

YAMAHA FACTORYのピット作業【写真:MOBILITYLAND】
YAMAHA FACTORYのピット作業【写真:MOBILITYLAND】

昨年の鈴鹿8耐のルマン式スタートではエンジンがなかなかかからないトラブルに見舞われたが、その部分の課題も改善を行い、スタートの出だしはやや遅れたものの、すぐにトップ集団に追いついた。前半のペースは無理することなく、津田、柳川らとバトルを展開。ひとたび前に出ると周回遅れを巧みにかわしてリードを築いていった。周回遅れのマシンを半周で4台ほどかわしながらも2分7秒台をマークした速さは驚愕だった。

ヤマハ陣営としては「鈴鹿8耐」への参戦は発表しているものの、ライダーラインナップは発表していない。開幕戦のこの結果が現役MotoGPライダーら世界選手権を戦うトップライダー招集への後押しになることは確実だ。

新型投入のカワサキは柳川が3位

ヤマハの対抗馬として期待が高まっていたカワサキのニューマシン「ZX-10R」はスーパーバイク世界選手権で見せつける強烈な速さは成りを潜めたものの、ベテランの柳川明(Team GREEN)がレースでトップ争いを展開して3位表彰台を獲得した。柳川はカワサキのライダーとなってからキャリア20年以上のベテラン。近年は電子制御の開発が進み、若手の渡辺一樹に押され気味の時もあったが、今季は新型マシンに見事アジャストした印象で、カワサキファンの期待を裏切ることなく表彰台フィニッシュを達成した。渡辺一樹は苦戦して8位完走という結果に終わったが、決勝レース中に柳川、渡辺ともに2分7秒台をマーク。7秒台に入ったのはトップ争いを展開したヤマハの中須賀とヨシムラスズキの津田、そしてカワサキの柳川、渡辺だけだった。

柳川明(Team GREEN)
柳川明(Team GREEN)

ただ、カワサキZX-10Rの新型の本当のポテンシャルが見えてくるのはこれから。レースウィークのテスト機会だった木曜日の走行が雨となり、ドライでの充分な走り込みができず、土曜日の公式予選もフルアタックというよりは決勝に向けたセッティング出しに時間を費やした。高いポテンシャルを証明しているスーパーバイク世界選手権はピレリのワンメイクタイヤのレースであり、レギュレーションも異なる。本国、日本でのレースと言えども異なる環境では新型・生みの苦しみが垣間見えた。次戦、ツインリンクもてぎ戦はどこまでヤマハとの差を詰めてくるか注目だ。

大健闘のヨシムラ、津田が2位表彰台!

新世代バイクが登場する中で、現行モデルでの戦いとなっているのがスズキ勢。すでにイベント会場にも展示されている新型GSX-R1000のデビューが待ち遠しいといった状況だが、「ヨシムラスズキシェルアドバンス」はその進化の手綱を緩めはしない。マシンの中身の部分で可能な限りの開発を行い、ライダーのやる気を増幅させるパッケージで開幕戦に挑んできた。

津田拓也(ヨシムラスズキシェルアドバンス)
津田拓也(ヨシムラスズキシェルアドバンス)

ライダーの津田拓也は走り出しから好調そのもの。予選では2分7秒台をマークして2番手だったものの、決勝レースではアグレッシブなブレーキングでトップに立つなどビッグバトルをいくつも展開した。これまで予選は好調、決勝では順位を落とすというレースも多かった津田拓也だが、昨年の開幕戦で優勝して以来、随所に垣間見せる速さと備わってきた強さは「ヨシムラ」にとって今後期待値の高いものとなる。レースは残り5周で赤旗により終了となったが、2位表彰台という結果は鈴鹿8耐、そして全日本ロードレースのシリーズを考えても大きな意味を持つ結果といえる。

加賀山就臣(Team KAGAYAMA)【写真:MOBILITYLAND】
加賀山就臣(Team KAGAYAMA)【写真:MOBILITYLAND】

また、3年連続で鈴鹿8耐の表彰台に立っている「Team KAGAYAMA」は予選で加賀山就臣が転倒を喫し、12番手となったものの、加賀山はスタートでポジションアップ。それ以降も安定したラップを刻み、さらにピットクルーが素早いピット作業で送り出して6位フィニッシュ。チーム全体の総合力を証明したレースだった。今年の鈴鹿8耐はどういう体制を敷くのか発表が楽しみでもあり、要注目の強豪といえる。

苦戦のホンダ勢。新パッケージの熟成に期待

スズキと同じく現行モデルを維持した状態のホンダ勢は苦戦を強いられた開幕戦となった。ファクトリーマシンを使用する「MuSaShi RT HARC PRO」「F.C.C. TSR Telulu」の2チームは開幕戦に向けてパッケージを変更。見た目で分かるところで言えば、サスペンションがオーリンズ製になっていた。

ホンダの高橋巧と渡辺一馬
ホンダの高橋巧と渡辺一馬

マイケル・ファンデルマークとニッキー・ヘイデンを起用し、カワサキについで表彰台を幾度も獲得しているスーパーバイク世界選手権でもオーリンズのサスペンションが使用されていることからも、この変更は鈴鹿8耐で世界選手権を戦うライダーとともに勝利を狙うためのパッケージ変更とも読める。ただ、3月の鈴鹿でのファン感謝デーの時にこの変更は見られなかったため、新しいパッケージは開幕戦のウィークに入ってようやく確認できた。そんな中、木曜日の走行が雨になったことで期待したデータ取集の時間も限られることに。「MuSaShi RT HARC PRO」の高橋巧が予選3番手を獲得したものの、決勝は8位。「F.C.C. TSR Telulu」の渡辺一馬はスタートで大きく出遅れながらも順位を挽回し、9位でフィニッシュした。

TOHO Racingの山口辰也【写真:MOBILITYLAND】
TOHO Racingの山口辰也【写真:MOBILITYLAND】

ホンダCBR1000RRを使用するプライベーターでは「TOHO Racing」の山口辰也が序盤のトップ争いにも絡む大活躍。独自のスタイルで挑むプライベーターとして、昨年はサスペンションをKYB製に、そして今季はブレーキをブレンボ製に変更してきた。レースでは経験豊富なベテラン山口が新パッケージのデビュー戦でも果敢に攻めた走りを展開。ホンダ勢最上位の6位を獲得したことは「TOHO Racing」の戦闘力が大きく進化した証と言える。

また、忘れてはならないのはプライベートチーム「au&Telulu Kohara RT」の秋吉耕佑の存在。昨年から同チームに移籍し、小原監督と共に納得できるパッケージ作りに時間を費やしてきた秋吉。今季のピットでも長時間に渡って小原監督と共にデータを見ながらディスカッションをする姿が見られる。マシンの状態はかなり良い方向に来ているようで、装着するダンロップタイヤもポテンシャルが向上している印象。レースではスタートの出遅れ、ピット作業のミスが響いて12位と振るわなかったものの、速さは着実に進化しているので、鈴鹿8耐では今年も目が離せない伏兵となり得るチームだ。

連覇、そして王座奪還を狙う各メーカー陣営の戦いはこれから夏の「鈴鹿8耐」に向けて激化していく。テストの機会が少なかった開幕戦で柳川、加賀山、秋吉、山口らのベテランライダー達が強さを見せた部分も注目ポイント。それぞれの陣営がそれぞれの事情を抱える中、ベテランたちの経験が大きな戦力となる耐久レース「鈴鹿8耐」は今年も予想以上の激戦になるだろう。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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