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北朝鮮軍No.1は依然「動静不明」! 病気か、失脚か、それとも?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金正恩総書記の左側が朴正天次帥、右側が失脚した前任者の李炳哲次帥(労働新聞から)

 朝鮮労働党最高幹部の一人で、軍事部門を統括している朴正天(パク・ジョンチョン)書記(党軍事委員会副委員長=次帥)が2月1日に行われた旧正月慶祝公演に姿を現して以来、ぷっつり消息を絶っている。

 この間、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が出席した2月16日の金正日(キム・ジョンイル)前総書記生誕80周年中央報告大会を欠席し、3月24日の新型大陸間弾道ミサイル「火星17型」の発射にも立ち会っていなかった。ちなみに前任者の李炳哲(リ・ビョンチョル)書記は2017年の北朝鮮初の大陸間弾道ミサイル「火星15型」の発射時には金総書記と共に立ち会っていた。

 同じ政治局常務委員である崔龍海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長、趙甬元(チョ・ヨンウォン)党組織担当書記、金徳訓(キム・ドククン)総理の3人が揃って出席した4月15日の金日成(キム・イルソン)主席生誕110周年祝賀群衆パレードにも朴書記の姿はなく、絶対に欠かしてはならない錦繍山太陽宮殿参拝にも現れなかった。

 群衆パレード及び宮殿参拝には朴書記同様に動静が不明だった軍No.2の権英鎮(クォン・ヨンジン)軍総政治局長(次帥)とNo.3の林光日(リム・グァンイル)軍総参謀長(大将)の姿があっただけに朴書記の不在は際立って見えた。

 朴書記が表舞台から姿を消して今日(21日)で80日経つが、金正恩体制になって軍のトップが長期にわたって動静不明となったのは過去に例がない。

 昨年6月に今のポストに就いて以来、金総書記が行くところ、常に行動を共にしていた朴書記の身に何があったのだろうか?朴書記が表に出て来れない理由としては△健康を害している△失脚している△軍事パレードの準備に追われている△あるいは特別な任務にあたっているの4つしか考えられない。

その1.健康を害して、療養中の可能性

 年齢不詳だが、朴書記は70歳前後に見える。旧正月慶祝公演を放映した朝鮮中央テレビの映像をチェックする限り、健康上の異変は感じられない。しっかりした足取りで入場し、着席していた。但し、この後に健康に問題が生じたのかもしれない。仮に、そうだとするならば、過去のケースからして現場復帰する可能性は低い。このまま表舞台から消え去るかもしれない。

その2.軍事パレードの準備に追われている可能性

 北朝鮮は朝鮮人民革命軍創建90周年の25日に軍事パレードを予定している。米韓合同軍事演習中に行われることやウクライナで起きている事態を意識し、最大規模で行われる模様で早くから準備に取り組んでいた。

 軍事パレードの総責任者は他ならぬ朴書記である。当日の閲兵式はおそらく朴書記が林総参謀長から「整列が整った」との報告を受け、雛壇にいる最高司令官の金総書記に「只今より、閲兵を始めます」と宣言し、スタートすることになっている。

 従って、陣頭指揮を執っているため一連の行事を欠席せざるを得なかったとみられなくもないが、練習場の美林飛行場は平壌近郊にある。また、いかに多忙だからといって平壌市内で行われる重要な国家イベントに軍のトップが欠席する理由とはならない。

その3.失脚した可能性

 朴書記は韓国の徐旭(ソ・ウク)国防部長官が4月1日に「北朝鮮のミサイル発射兆候が明確ならば先制打撃する」との趣旨の発言をしたその翌日に金総書記の実妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長と共に批判の談話を出し、健在ぶりを誇示していた。しかし、軍の対南談話ならば、カウンターパートナーの李永吉(リ・ヨンギル)国防相か、林総参謀長の名義で出すのが通例である。あえて朴書記の名で談話を出させた意図が不明だ。

 朴書記は昨年6月に軍が関与した「重大事件」に連座し、一時、粛清の憂き目にあったことがある。結局のこの事件では「党の決定と国家的な最重大課題の遂行を怠った」として前任者の李炳哲次帥だけが責任を取らされ、更迭されることとなったが、まだその尾を引いている可能性も考えられなくもない。軍序列では3位だった国防相の李大将が4月10日に次帥に昇級し、錦繍山太陽宮殿参拝でも群集パレードでも軍のトップに躍り出ていたこと、また朴書記の動静が不明になった時点から入れ替わって金総書記の異母姉とみられる「謎の女性」が登場したことと関係があるかもしれない。

その4.特別な任務に従事している可能性

 ロシアのウクライナ侵攻ではロシアを支持している北朝鮮はウクライナのレズニコフ国防相が、またNATO(北大西洋条約機構)のバウアー軍事委員長が韓国に兵器の支援を要請していることについて不思議なことに何の批判もせず、沈黙を守っている。言い換えれば、北朝鮮もロシアへの軍事支援を検討しているからなのかもしれない。

(参考資料:ウクライナは韓国に、ロシアは北朝鮮に軍事支援を要請!?)

 朴書記は軍需担当である。ウクライナのメディアがイスラエルに亡命中のロシア最大石油企業ユコスの元最高経営責任者(CEO)レオニード・ネブズリン氏の話として伝えた「ロシアのショイグ国防相が訪朝した」との情報が事実でないとしても仮にロシアから軍事支援を要請されているならば、軍需担当の朴書記が対応することになる。

(参考資料:ロシアの国防相が訪朝し、軍事支援を要請!? 北朝鮮軍NO.1の不可解な動静)

 金総書記がロシアを兄弟国、あるいは同盟とみなしているならば、プーチン政権の「孤立」を決して座視することはない。

今月24日は金総書記の訪露3周年にあたる。仮に朴書記がロシアへの軍事支援の対応に追われているならば、この日を機に北朝鮮が密かにロシアに軍事支援を開始する可能性もゼロではない。

 どちらにせよ、25日の軍事パレードは登場する新型兵器や金総書記の演説と並んで朴書記の動向も注目される。

(参考資料:北朝鮮はロシアに軍事支援をする? しない? その有無を検証する!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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