持ち帰り残業がさらに増加! 止まらない教員の過酷労働の実態とは?
未だ改善しない教員の過重労働が明らかに
教員の過重労働やそれによる教育業界の人手不足は社会問題となっている。教員の休職や退職には歯止めがかからず、教職の不人気なども広がり、社会全体の教育の質の低下につながっている。
例えば、公立教員の採用倍率は、2000年度の13.3倍から2021年度には3.9倍まで低下している。この20年で公立教員の採用倍率は、実に1/3以下にまで激減している。
また、文部科学省によれば、全国的な教員不足も深刻化し、2021年に文部科学省が発表した調査では、2021年度の始業日時点で、全国1,897の学校で2,558人の教員が不足していることが明らかになった。担任や教科を担当する教員が不在のため自習が続くなど、教育が成り立たない学校も出てきているほどだ。
そのような状況の中、文科省が公立教員の労働実態について、2016年以来の調査結果を発表した(教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(速報値)について)。
しかし、その結果は、これだけ教員の働き方改革が社会問題となっているにも関わらず、未だ「過労死ライン」を超えている教員が中学校で36.6%、小学校で14.2%と高い数値であることがわかった。平日でみると、わずか1日30分の労働時間が削減されたにすぎない。
別の文部科学省の調査では、精神疾患の教員は継続して毎年5,000人にも及んでおり、教育現場の過重労働が是正されていないことは明らかだ。
さらに、教員の過重労働へ拍車をかけているものの1つとして挙げられている「給特法」(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)も継続されている。
同法に基づき、公立学校の教員には残業代が支払われない代わりに、給料月額の4%が「教職調整額」として支給されている。教職調整額は月8時間の残業代が目安とされているが、今回の調査では、改めてそれをはるかに超えて残業をしている教員の実態が浮き彫りになり、法律の矛盾が鮮明となっている。
今後、国は今回の調査結果を踏まえ、教員の労働環境や給特法の方向性について議論を開始する予定だ。本記事では、調査結果と今後の教員の労働環境の行方について考えていきたい。
国のガイドライン超過が中学校で77・1%、小学校は64・5%
今回の調査は、文科省が昨年8月と同10~11月、全国の公立小中学校約1200校でフルタイムで働く教員を対象に行い、約3万5000人が回答した。2016年以来6年ぶりに行われたもので、4月28日、速報値を発表した形だ。
調査結果から見えてきたことは、前回調査と比較し1日当たりの平均勤務時間でみると、平日は中学教諭は11時間1分(前回比31分減)、小学教諭は10時間45分(前回比30分減)、土日は中学教諭が2時間18分(同1時間4分減)、小学教諭が36分(同31分減)と労働時間が短縮している実態である。
ただし、全体としては前回調査よりも減少傾向にあるとはいえ、平日は30分程度の減少幅であることなど、まだまだ不十分と言わざるを得ないだろう。また、自宅などで仕事をする「持ち帰り時間」は、平日で中学教諭が20分から32分に、小学教諭は29分から37分にむしろ増えている。
業務量は変わらないにも関わらず、「働き方改革」の名の下に学内から追い出され、自宅で業務をしているという声は教員たちからよく聞かれる。可視化されづらい持ち帰り残業については、調査結果が全てを反映していない可能性がある。
一方で、今回の調査では、週50時間以上働いた教員は中学校で77・1%、小学校は64・5%となった。法律が定める公立教員の正規の勤務時間は週38時間45分であるため、週50時間以上働くと、残業が週11時間15分以上となる。この働き方が1カ月続いた場合、残業時間は「月45時間」に達する。
「月45時間」の残業は、文科省が教員の働き方改革のために2019年に出した「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」に定める残業時間の上限時間を指す。文科省は、これを目標に残業の抑制を進めようとしてきたが、大部分の教員が月45時間に収まっておらず、現状大きな課題があることが明らかとなった形だ。
さらに、勤務時間が週60時間以上で、月当たりの残業が厚労省の定める「過労死ライン」(月80時間残業)に到達する教員は、前回調査では中学校で57・7%、小学校で33・4%に及んでいたところ、中学校で36・6%、小学校で14・2%となった。確かに、いずれも20ポイント程度は改善したが、未だ中学校教員の3人に1人がいつ倒れてもおかしくない過労死基準で働いており、これはやはり異常だと言わざるを得ないだろう。
文科省が進めていた教員の働き方改革の検証
今回の調査では、これまで文科省が進めてきた教員の働き方改革についても一定程度検証できるところがある。
まずは、教員の長時間労働の要因として挙げられる「部活動」についてだ。部活動について、文科省は、2018年3月に、1日の活動時間は長くとも平日では2時間程度、学校の休日は3時間程度にするなどの活動時間の上限規制を定めた「部活ガイドライン」が策定した。また、2023年度から3年間かけて国は「土日の部活動」を地域のスポーツクラブなどへ地域移行しようとしている。
中学校で顧問を担当している教員に1週間に平均で何日活動をしているか尋ねたところ、5日が最も多く56.1%、6日が6.4%、7日が0.3%となっており、66.8%の教員が週5日以上部活を指導していることがわかった。文科省により活動の上限規制を定める「部活ガイドライン」ができたことなどで、活動日は前回調査に比べて減ってはいるが、相変わらず、今なお半数以上の教員は部活を週5日以上行っているのである。
元々、部活動は学習指導要領上も任意の活動であり、本来生徒も教員も「やってもやらなくても良い」活動だ。負担の大きい部活ではなく、授業や生徒へのケアなど、「教員本来の仕事」に集中したいという教員も多い。文科省も、部活の地域移行を進めようとしているが、現状ではあまり進んでおらず、さらなる外部指導員の増加や速やかな地域移行による「部活の外部化」によって、労働時間を抑制することが必要になるだろう。
また、もう一つ、教員の働き方改革として打ち出されていたのが、「変形労働時間制」の導入だ。2019年1月に文科省は、教員の働き方改革に関する答申を発表した。そこに明記されたものが、「一年単位の変形労働時間制」の導入であった。この新制度は、夏休みなどの長期休業期間を「閑散期」とみなして教員たちはそこでまとめて休み、その分を学期中の「繁忙期」に付け替え平均化しようと導入された。
参考:「「休日のまとめ取り」のための1年単位の変形労働時間制
しかし、今回の調査でわかったことは、実際には学校現場には繁閑がなく、夏休みに「休日のまとめ取り」などできていない実態である。具体的には、以下のように、長期休業期間とされる8月も、中学校教員は8:26、小学校教員は8:04もの時間、平日は学校で働いている。8月でもフルタイムで働き教員は休めておらず、変形労働時間制の効果は疑わしいことが看取できる。
なお、変形労働時間制は、2021年4月から適用可能となっており、今回の調査の対象期間中、すでにこれが導入された学校もあるが、導入は各自治体の教育委員会の判断となっており、導入した学校はわずかであるが、今後の導入が広く検討されている。
過重労働に拍車をかける「給特法」の矛盾が鮮明に
冒頭に触れたように、公立教員は、どれだけ残業をしても月給の4%が「教職調整額」として支給される代わりに原則、残業代が支払われない。このような「定額働かせ放題」の状況が、教員の過重労働を招いている。
1971年に制定された給特法は、66年当時の教員の平均残業時間が月約8時間だったことを基に作られている。同法は、校外実習、学校行事、職員会議、災害対応の「4項目」以外の残業は「自発的行為」と位置づけているため、授業準備や部活動など、現在多くの教員が行なっている残業の大部分は労働時間として認めらず、残業代は支払われない。しかし、今回の調査でも多くの教員が月45時間以上の残業をしていることが明らかとなり、その矛盾は明らかだ。
そのような「給特法」の問題に関しては、最近でも2018年9月、埼玉県の公立小学校で働く教員が残業代を支払うよう求める裁判を起こしていたが、今年3月に最高裁判所が上告を棄却し、教員の敗訴が決まった。それに先立つ2022年8月の高裁判決では、教員は自主的・自律的な労働者で、労働基準法になじまないなどとされ、請求が退けられていた。
一方で、労働法が適用される私立学校では、近年、私立学校で働く教員たちが行う授業準備や部活動などについて、「自発的行為」ではなく労働時間として認め残業代を支払うように、労基署が是正勧告を出す事例が増えてきている。
同じ教員であるにも関わらず、「給特法」が適用されない私立教員は、時間外での業務が労働時間として認められ残業代が支払われる一方で、公立教員にはそれがなされない。あまりにも不合理な状況ではないだろうか。
参考:労基署“部活は労働時間” 残業代未払いの私立校に是正勧告
教員が仲間と声をあげて改善に動き出している
今回の調査を経て、今後、具体的な審議が文科省で進められることになる。教員の過酷な労働環境は、2014年頃から教員たちがSNS等で声を上げ始め、オンライン署名や記者会見も行い社会の注目を集めるようになった。
そのような取り組みは世論と国を動かし、すでにみたように、「教員の働き方改革」を進めてきたのである。さらに、昨年からは、公立教員たちが過重労働の原因となっている部活問題改善に特化した個人加盟型労働組合を全国で結成するなどの動きが出てきている。
担い手は、部活問題を改善し労働時間を抑制することで授業等の「教員本来の業務」に集中し、教育の質を高めたいと望む若手教員たちだ。
また、私学でも、部活の時間を労働時間として認めさせ残業代の支払いを勝ち取ったり、学内の教員全員の部活顧問就任が任意となる約束を結ぶなどの労働組合の取り組みも出てきている。
参考:「部活動」は自由な選択へ! 「教育の質」を高める新しいルールとは?
教員の労働環境改善は、生徒にとってもより良い教育環境を作ることにつながることだ。教員たちの職場環境改善に向けた取り組みに、社会の注目が集まることを期待したい。
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