経団連に「GAFA」が加盟!変化は起こせるのか?
実は国民生活に深くかかわる存在
2019年7月1日、 フェイスブック日本法人は、経団連(日本経済団体連合会)に入会したと発表した。これでグーグル、アップル、アマゾンに次いでフェイスブックも加入することになり、いわゆる「GAFA」と呼ばれる国際的なIT大手企業の日本法人すべてが、経団連に加入したことになる。
フェイスブックは、経団連への加盟理由を「加盟企業との連携を密にして、日本経済や社会の更なる成長に貢献していきたい」というコメントを発表している。経団連といえば、トヨタ自動車やパナソニックと言った製造業を中心とする重厚長大型の大手企業によって構成される業界団体だが、製造業とは最もかけ離れたGAFAの加盟を認めたことで、経団連そのものが変化を遂げつつあるかもしれない。
しかしその一方で、本来中立的な立場でいるべきはずの団体が、自民党や政権との関係が深く、政治献金などの面で偏った存在になっているのではないかと指摘されており、とりわけ安倍政権の大企業優先という姿勢にすり寄っているのではないかという批判を受けてきた。
そこで、そもそも経団連とは何か。どんなシステムで、その活動内容とは何か……。既存の日本経済の根幹を揺るがすパワーを持つGAFAは、日本企業にとっては天敵とも言える存在。そんなGAFAを取り込むには、それ相応の理由があるはずだ。政治のみならず、我々日本国民の生活に大きな影響力を持つ「経団連」とは何かを考えてみたい。
経団連とは何か?
経団連とは、日本を代表する企業1431社(2019年5月30日現在)、そして製造業やサービス業など主要な業種別全国団体から構成されている業界団体だ。経団連のホームページによると、その使命は「総合経済団体として、企業と企業を支える個人や地域の活力を引き出し、日本経済の自立的な発展と国民生活の向上に寄与することにあります」と書かれている。
そのため経済界が直面する内外の広範な重要課題について、経済界の意見を取りまとめ、着実迅速に実現するように(政府に対して)働きかけ、同時に政治や行政、労働組合、市民を含む幅広い関係者と対話を進めている、とホームページには書かれている。
経団連といえば、会長や副会長に名を連ねるのは現会長が在籍する日立製作所など製造業が多く、日本を代表する大企業ばかりである。デジタル社会を迎えて日本の製造業は衰退の一途をたどっていると言われるが、その一方で経団連は相変わらず製造業中心の業界団体と言える。要するに、製造業を中心とする大企業を代表して日本経済全体の課題や意見を取りまとめて、政府に働きかけている組織・団体と言っていいだろう。
当然のことながら、大企業の代表団体であるから中立を守らなければいけないと考えるのだが、最近は自民党の政策を高く評価し、自民党への政治献金を暗に会員企業に呼びかけており、安倍政権と財界のパイプ役になっているのも事実だ。パイプ役というよりも、政治の方向性を政府に働きかける圧力団体とも言える。
野党の中には、自民党と公明党の両党を「経団連の言うことばかり聞いている」と批判するところも多いが、実際に総務省が公開している政治資金収支報告書などによれば、自民党の政治資金団体「国民政治協会」への企業からの献金が、安倍政権発足以来急激に増え続けている。その背景には自民党を高く評価し続ける経団連の存在が大きく影響していると考えるのが自然だ。
かつて「リクルート事件」をきっかけとして、政治と企業の癒着の土壌となる政治献金をなくす方向に進んだことがある。その結果として生まれたのが「政党助成金制度」だが、「経団連が暗に推奨する自民党への政治献金は、政党助成金制度との整合性が取れない」とする指摘もある。
経団連がどれだけ政治に関心があるかと言えば、経団連のホームページの中のポリシー(提言・報告書)の中に、毎月「当面の課題に関する考え方」という題名の報告書が出されている。現在の国内外の課題について経団連がどう考えて、どんな方向に行くのが正しいのか--その指針をこのポリシーで示しているのだ。
これを読むと、ほぼ安倍政権の進む道と合致している。
安倍首相が、年金問題の解決方法として大企業や富裕層に対する課税を強化して、年金不足問題を解決しようという共産党の提案に対して「馬鹿げた政策だ」と、一刀両断したのも政権を支えている経団連やその会員企業からの政治献金があることを考えると、当然の答弁と言えるかもしれない。
もともと安倍政権と経団連の関係は、第2次安倍政権が誕生した2012年当時、アベノミクスを経団連の当時の会長が「無鉄砲」と批判したことから一時的に冷たい関係になったと言われる。その後、安倍政権との関係修復を経団連がはかり、それ以後経団連の安倍政権へのすり寄りが目立つと批判されてきた。
その一方で、経団連そのものに対する批判も高まっていた。日経新聞が経団連会長の人事を指摘したのもその一つだ。これまでの経団連会長を分析すると「全員男性」「全員日本人」「最も若くて62歳」「全員がサラリーマン経営者」「転職経験ゼロ」といった「同質集団」であると批判したのだ。そうした批判にもかかわらず、現在も同様の体制を貫いている。
日本経済が「失われた30年」に苦しんでいるのも、古いシステムを守ろうとする経団連に原因がある、という声は高い。日本経済がIT革命に乗り遅れ、時代遅れに陥っていながら旧態依然とした終身雇用制や年功序列、新卒一括採用、稟議書決裁といった時代遅れなシステムを継続しているのは、経団連という組織が変化を妨げているのではないか。そんな指摘が相次いだ。
そんな経団連の体質に嫌気が差して、楽天をはじめとするIT業者は早々に経団連を脱退してしまっている。ソフトバンクは現在も加入しているものの、孫会長自身は経団連と一定の距離を置いている。
入会要件を緩和、ITやベンチャー企業の参加を促す
そんな経団連に「GAFA」が揃って加盟した背景には、経団連自身の加入要件の変更がある。会員企業の純資産額の条件を2018年11月5日付けで、これまでの10億円から1億円に引き下げたからだ。経団連と言えば、製造業中心の重厚長大型企業というイメージが強い。ここにきて、やっと10億円から1億円に引き下げたわけだ。
背景には、経済がデジタル化を迎え「第4次産業革命」と言われる時代の変化がある。政府が進めているデジタル技術で社会の課題を解決する「ソサエティ(Society)5.0」や、国連が進める「SDGs(持続可能な開発目標)」と言った課題に対応するためには、デジタル社会の推進役であるGAFAに、門戸を開かざるを得なかったともいえる。もっとも、そのタイミングはかなり遅れた感があるが、重厚長大型の企業ばかりで運営していたのでは、さすがに限界があると判断したのかもしれない。
18年11月に純資産1億円以上の企業にまで門戸を広げたことで、翌12月にはネット通販大手のアマゾンジャパンやフリーマーケットアプリのメルカリなど、大手IT企業が加盟をはたしている。そして、この7月にはGAFA最後のフェイスブック日本法人も経団連に加入したわけだ。
ちなみに、Society 5.0というのは、日本政府が提唱する未来社会への考え方(コンセプト)で、2016年度から2020年度の5年間で、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによって、経済発展と社会的課題の解決を両立させるキャッチフレーズだ。
前述した経団連のホームページ内の「当面の課題に関する考え方(2019年6月)」の中でも、Society 5.0を実現させ、国連の掲げるSDGsの達成に経団連を挙げて検討し実行していくとしている。SDGsは2015年9月に国連で開催されたサミットの中で決められた国際社会共通の目標のことだ。
そもそも、これまで自民党政権が推進してきた様々な改革は、概ね大企業優先の方向性が貫かれている。小泉政権時代に実現させた派遣社員の大幅な規制緩和は、当時コスト削減に取り組む大企業のニーズにこたえたものであり、実際に非正規社員を爆発的に増やすことに繋がった。
安倍政権になって以後も、無制限の残業を容認する「裁量労働制」を導入し、さらに裁量労働制の拡大につながる「働き方改革」を推進している。これらもすべて、コスト削減、生産性向上に取り組む大企業の意向に沿うものと言える。
2018年10月16日、経団連は「主要政党の政策評価 2018」の中で「GDP600兆円経済に向けて-Society 5.0を推進する」と題した2018年度事業方針を公表している。その中で「主要政党の政策評価」を行っており、様々な項目で与党を評価している。いくつか代表的なポイントを列記すると--。
・Society 5.0の実現(実現のために新たなフラッグシップ・プロジェクトの実施)
・SDGsへの企業の取組の推進(SDGsのさらなる周知と達成)
・働き方改革(働き方改革関連法の改正)
・女性活躍とダイバーシティの推進(女性活躍推進に向けた環境整備)
・若者社員・高齢社員の活躍推進と介護離職予防の取組の推進
・外国人材の受け入れ(新たな在留資格の創設、留学生の国内での就職促進)
・法人税改革(法人実効税率の29.74%から25%程度への引き下げ)
・国家的イベントの成功(2020年の東京五輪、パラリンピック開催の準備、2025年の国際博覧会)
この政策評価を見ると分かるが、「経団連事業方針の項目」が自民党の政策そのものであり、取り組みや実績を評価し、さらに「課題」まで明記している。
一方で、日本の最低賃金の水準は先進国中最低レベルだが、実質賃金が低下しているのにもかかわらず最低賃金を一向に上げられないといった項目はスルーしており、経済界が望んでいないことを示している。現在の日本の政治は、経団連がリードしている、と指摘されるのもあながちオーバーではない。
ちなみに、経団連のパワーはメディアにも大きな影響を与えている。たとえば、政権批判など経団連の意向にそぐわない内容のテレビ番組やメディアに対しては、何らかのプレッシャーをかける力を持っていると考えられる。しかも、日本には「忖度」と呼ばれる強烈な言論封鎖の習慣が残る。
要するに経団連の力は強大であり、政権と二人三脚で日本をコントロールしている存在といっていいのかもしれない。
経団連が「GAFA」に門戸を広げた理由とは?
さて、そんな経団連がGAFAに門戸を広げた背景には、日本の製造業の地滑り的な停滞がある。日本の労働生産性の低さは先進国では有名だが、旧態依然とした重厚長大型産業の変革が叫ばれている。
日本のIT技術開発が現在のように遅れてしまった背景には、日本の製造業の敗北があると言っていいだろう。 SONY がウォークマンを発売し、 任天堂がゲームで世界を席巻してすでに30年が過ぎている。
その後、日本の製造業は国内でスマホを作る企業はなくなり、シャープや東芝と言った製造業メーカーは、台湾などの企業に買収され、モノづくりのリーダーとしての存在は中国や韓国、米国に取って代わられた。その一方で、自動車産業や部品メーカーなどは相変わらず世界のトップレベルを走っている。
しかしながら、いまなおトップレベルにある日本のモノづくりの技術は大きな岐路に立たされている。トヨタ自動車は「勝ち負けではなく、死ぬか生きるかの戦いだ」として、電気自動車や自動運転技術の新時代に立ち向かおうとしている。
通信業界でも、次世代通信の「5G」は先を走る中国には遠く及ばないレベルであり、日本の開発スピードはあまりにも遅い。
経団連が2018年になって方針を転換したのも、実はあまりに遅いと言わざるを得ない。ここ20年近くの間、経団連は自分たちの殻に閉じこもり、政治と深い密接な関わりを持って日本をミスリードしてきた張本人と言えるかもしれない。
GAFAの加入はメディアでもほとんど取り上げられなかったが、その背景にはあまりにも遅すぎた行動に誰も興味を示さなかったとも言える。 Society 5.0に力を入れる姿は、政府と一体になっている姿を見せてはいるが、今や世界はもっと先を進んでるような気がする。
問題は、加入したGAFA側の狙いだが、日本でビジネスを展開しているからには政府に近づく必要がある。まして、ビジネスの一部に法的にグレイな部分があるような企業は、できれば経団連を通じて、政府とのパイプを作っておきたい。日本で上げた収益が、きちんと日本で課税されていないなど、外資系企業には数多くの問題がある。
グーグルは、米国で2012年に連邦取引委員会で罰金2250万ドルの支払いで和解しており、最近になって英国でも43億ドルの損害賠償を請求されている(裁判では却下)。フェイスブックも、連邦取引委員会で個人情報を巡る約50億ドルの支払いで和解したと報道されている。アップルやアマゾンも同様の訴訟を抱えており、日本でのトラブルも今後想定される。GAFAとしても経団連に加入しておく意味があるということだ。
日本は過去の歴史を見ると、どんな環境下でも生き抜くことができるたくましさがある。その反面で、新しいことに臆病となり、最終的には外部からの刺激によってしか変化できない。失われた20年とも30年とも言われる日本経済の低迷から抜け出す方法のひとつとして、GAFAが経団連の黒船になることを祈りたい。