ネコ「パルボウイルス」適切なワクチン接種が重要
都内のネコ・カフェでネコのパルボウイルス感染が発生したとし、これがネット上で騒動になっている。結論からいえば、適切なワクチン接種でほぼ防げるウイルスだ。パルボウイルスとは何か、感染を広めないためにどうすべきか、専門家とネコ・カフェ店長に話を聞いた。
パルボウイルスとは
ネコ好きは多いが、気軽にネコと触れあい癒やされる空間としてネコ・カフェが人気だ。そんなネコ・カフェのTwitterから、ネコ・パルボウイルス感染が都内で発生したとし、予防のために店間の「はしご」を禁止にするネコ・カフェも出るなどネット上で大きな話題になっている。
このパルボウイルス(Parvovirus)は、多種多様なウイルスの総称だ。哺乳類などの脊椎動物だけではく、ヒトデなどの無脊椎動物にも感染する種類がいる。
ウイルスのサイズが小さいため、最初に発見されたのは1960年代だ。その後、ヒトやイヌ、キツネなどの種類が1970年代に発見された。ヒトが感染した場合、いわゆるリンゴのような頬になる伝染性紅斑の原因にもなる。
かなり変異しやすいウイルスでもあり、ウイルスの遺伝子を調べたところ、ネコやアライグマ、キツネ、ミンクなどのパルボウイルス(Canine parvovirus、CPV)が変異し、イヌのパルボウイルス(CPV Type-2)になり、その後さらに変異して1970年代の終わり頃にイヌ・パルボウイルス(CPV Type-2a)になり、1984年からはネコ・パルボウイルス(CPV Type-2b)に変異したことがわかったという(※1)。
ネコ・パルボウイルスに感染すると、免疫系が損なわれるネコ汎白血球減少症(Feline panleukopenia virus、FPV)などの病気になる。発熱や嘔吐、下痢、血便、食欲不振といった症状が出て栄養失調になり、免疫不全で死ぬことも少なくない。
筆者のかかりつけ獣医師に話を聞いたところ、ネコ・パルボウイルスの感染例は特に都市部で減ってきているという。ワクチン接種していない野良ネコが都市部で姿を消しているのが理由だ。だが、地方の野良ネコ繁殖地などでは、まだウイルスを持ったネコがいるらしい。
獣医師によれば、パルボウイルスは、適切なワクチン接種により予防できるという。免疫力が極端に落ちている状態だったり、子ネコや高齢ネコを除き、ほぼ100%予防できるのだ。
だが、パルボウイルスは、アルコールや熱湯による消毒でも除去できず、日常環境でたやすく死なないほどタフで、数ヶ月以上は生存し続ける。ウイルスの多くは外気に触れたり乾燥したりすると死滅するが、パルボウイルスの場合、漂白剤(5〜6%の次亜塩素酸ナトリウム)で10分以上、除菌しなければ消毒しきれないようだ。
ネコからヒトへというように違う種類の生物には感染しないが、ウイルスが生き残っていた場合、感染したネコの体液や糞便、ウイルスを持ったノミやダニによって運ばれる危険性も高い。パルボウイルスは感染力が強いといわれるゆえんだ。
完全室内飼いでもワクチン接種
前述したように、パルボウイルスは数年単位で変異しやすいため、ワクチンで抗体ができず、効果がなくなっている恐れもある。獣医師が立てたプログラムに従い、適切な時期に変異ウイルスに対してアップデートされたワクチンを定期的に接種することが重要だ。
完全室内飼いだからといって安心し、ワクチン接種を怠ると、飼い主がウイルスを運び入れるなどして大事な飼いネコに感染し、さらに感染を拡大させるかもしれないと獣医師は警告する。
Twitterを発信した「猫カフェきゃりこ」(新宿と吉祥寺)の店長、福井隆文さんに話を聞いたところ、これまでネコ・カフェでのパルボウイルス発症はほとんどなく、過去に2回ほど保護ネコの店舗で出た程度だったので驚いているという。
福井さんのネコ・カフェのネコたちは全て適切なワクチン接種済みで、ネコ・パルボウイルスは適切なワクチンを接種していれば感染を防ぐことができる。これはネコに限らず、イヌやフェレットでも同じだ。
福井さんは、ネコ・カフェの過度な「はしご」をしなければ今までどおりネコと触れ合って欲しいという一方、感染を広げないためにもネコの飼育者は自分のネコにきちんとワクチン接種をして欲しいと訴えた。
※1:Uwe Truyen, et al., "Evolution of Canine Parvovirus Involved Loss and Gain of Feline Host Range." Virology, Vol.215, 186-189, 1996