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突然の逮捕 暗号資産での特殊詐欺 犯罪収益75万で有罪判決 罰金・追徴金700万円 男性の後悔

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:中尾由里子/アフロ)

「マネーロンダリングに巻き込まれました。変じゃないかと思うこともあっても続けてしまったことがいけませんでした」

田尻さん(仮名・30代男性)は自らの脇の甘さを後悔しています。

特殊詐欺グループのマネーロンダリングにかかわったとして、田尻さんは昨年5月に逮捕されて、裁判所から懲役3年(執行猶予5年)の有罪判決を受けました。一連の行為のなかで田尻さんが得た犯罪収益金は75万円ほどですが、罰金は200万円で追徴金も合わせると700万円を超える金額を払うことになりました。

昨今の闇バイトもそうですが、普通に社会生活をしている人が、犯罪行為につながると意識しないままに、詐欺グループに操られて手足となってしまうケースが後をたちません。しかも、こうした人たちは捕まる存在で、わずかなお金を手にしたとしても、最終的に「逮捕」という大きな代償を払うことになります。

田尻さんの自宅に突然、警察がやってきて逮捕状が読み上げられ「何のことかわからないまま逮捕された」と話します。このケースを通じて、どのようにして犯罪グループは私たちに近づいてくるのか。そして、どうすれば身を守れるのかを考えるきっかけにして頂ければと思います。

「時計の代金をビットコイン(BTC)で支払いたい」がきっかけ

田尻さんは、時計の買取り・販売を手掛ける会社を経営していました。

10年来の親友である嶋田さん(仮名)を通じて、3年ほど前に大和田(仮名・40代の男性)を紹介されます。

「大和田は、香港にお店を持っていて、古物商をやっている男でした。彼からは『アクセサリー(ネックレスなど)を売ってくれませんか?』といわれました。もちろん親友の紹介なので、取引を始めます。実際にロレックスの腕時計などの注文があって、その商品を香港などに輸出して、2年以上の取引をしました」

1年ほど取引きが続いた頃のことです。大和田は「時計の代金をビットコイン(BTC)で支払いたいのですが」と尋ねてきます。

「海外のお客さんがビットコインで時計の代金の支払をしたりすることもあり、暗号資産交換業者に会社の口座をもっていましたので、承諾しました」(田尻さん)

2回目の取引時に、注文を突然キャンセル

最初のビットコインでの取引では、600万円分の腕時計などを売りました。

ところが2回目の取引きの時に、次のようなことが起きたといいます。

「腕時計の注文があり、ビットコインで500万円分の振り込みがありました。そして商品を送ろうとしたら、直前になって注文をキャンセルされたんです。すでに、会社の口座にはビットコインで送られてきており、その時点ですぐに取引所から出金して、自分たちの銀行口座に現金を入れてる状態です。キャンセルが入ったので、仕方なく現金の形で返すしかありませんでした」

この状況を詐欺グループは好機と捉えたのかもしれません。その後、嶋田さんを通じて「大和田さんが、ビットコインをすぐに円にしてほしいようなんだ」という話を持ち掛けられます。

田尻さんは最初、気が進まない旨を伝えていましたが、嶋田さんからは「急ぎの要件で、困っているようなので対応してくれないか」とさらにいわれます。これまでの大和田との取引も良好で、しかも嶋田さんは親しい友人であったので、承諾してしまいました。

「ここで断ればよかったかもしれない。ここがポイントだった」と田尻さんは、後悔をにじませて振り返ります。

ビットコインを円に換えた現金を手渡しする

暗号資産などを円に交換するには、金融庁に登録は必要なはずです。田尻さんもこの点が気になって、金融庁に確認を取ったそうで、その際「売買の手数料で利益を得る行為をしなければ大丈夫」という話をされます。

「その頃、1ビットコインが500万円くらいでした。その後は、送ってきた金額が1ビットになった段階で、500万円ほどを現金化していました」

お金の受け渡しの方法を尋ねると「大和田自身か、その部下が現金を会社に取りに来た」といいます。

手渡しとなるとお金の足がつきません。詐欺グループがよく使う手立てです。振り込みではなく、毎回、お金の手渡しをさせる。これも犯罪行為につながるかもしれないと気づく点になるかもしれません。

逮捕状を読み上げられるも、何のことがわからないまま逮捕

しばらくこの取引を続けていましたが、23年5月のことです。自宅に突然、警察がやってきました。そして「詐欺の電話をかけて、被害者からお金をだまし取ったよね」と逮捕状を見せられ、読み上げられました。

「何のことかわからないまま、逮捕されました。その後、証拠が出揃って説明を受けてから、ようやく詐欺の手口に巻き込まれていたのかを知りました」(田尻さん)

田尻さんはどのような手口で集められた犯罪収益金を、マネーロンダリングすることになったのでしょうか。それは今、中高年の被害が多発している、NTTの関連会社をかたって、お金をだまし取る詐欺の手口によるものでした。
2021年に札幌市在住の60代男性が計1億6600万円の架空請求詐欺に遭うなど被害者が数多くおり、高額な被害になるケースが続出しています。

こうした犯罪収益金とは気づかないままに、田尻さんは詐欺グループに操られるように、9回にわたりビットコインを円に換えて、犯罪行為に手を染めてしまっていたのです。

詐欺グループはあの手この手で私たちに近づいてきますので、より注意が必要です。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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