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Jリーグよりも先を行く!?韓国のKリーグで 2017年から導入されたVARの現状と課題とは

金明昱スポーツライター
韓国で開催された2017年のサッカーU-20W杯でも導入されたVAR(写真:田村翔/アフロスポーツ)

 アジアで最初にVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が導入されたのは、韓国のKリーグである。

 しかも2017年7月(第18節)からKリーグ1(1部)、18年からKリーグ2(2部)で導入されたというのを、どれくらいの日本のサッカーファンが知っているだろうか。

 Jリーグでは今月、村井満チェアマンが2021年にJ1全クラブでVARを全面導入すると言及したばかり。

 そのきっかけとなったのが、J1リーグ第12節の浦和レッズ対湘南ベルマーレの試合で起きた誤審によるもの(前半31分の杉岡大暉のシュートがサイドネットを揺らしたが、ノーゴールの判定)なのは記憶に新しい。

 ただ、導入には時間がかかる。FIFAの手続きに沿ったトレーニングを経る必要があり、審判員の養成や設備面などで入念に準備を進めなければ、逆に試合の進行に支障が出ることも予想できる。

 とはいえ、何事も始めてみなければ、分からないことも多い。そうした部分において、17年に韓国のKリーグでVARが導入されたというニュースを聞いたときは、「少し早すぎではないか?」とかなり驚いたものだった。

2017年7月にVARを導入

 しかし、韓国でなぜこれほど早くVARが導入されたのか。

 17年6月に韓国プロサッカー連盟がメディア関係者に説明会を行っているが、当時のニュース記事を見るとこう書かれている。

 総合ニュースサイト「NEWSIS」(2017年6月19日付)は「韓国プロサッカー連盟は2018年からの導入を予定していたが、誤審による抗議や不満の声が高まり、前倒しで実施することが決まった」と伝えている。

 また、導入された当時の設備投資や状況についてはこうだ。

「KリーグではVAR導入のために、車両3台を改造し、システムを構築。車両1台につき、2億ウォン(約2000万円)を投資した。また車両内には、計12個のカメラアングルを確認できるモニターを設置。VARは26人のレフェリーが担当し、理論教育4回と実技トレーニング2回などを修了している」

 それなりの準備をしてきたというのが、韓国プロサッカー連盟の説明だったが、スタートしてからここまで一定の評価は得つつも、試行錯誤が続いている。

18年Kリーグ1部で79回のVAR判定

 現在の韓国内には、VAR導入を急いだことによるメリットとデメリットがあるようだ。

 メリットは、明らかな誤審を正しい判定に導きだせるようになったこと。

「韓国日報」は「VARの中間評価」と見出しを打ち、判定の詳細について報じている。

「17年のKリーグでは127試合中、66回のVAR判定があり、43回判定が変更された(2.95試合当たり1回の判定変更)。18年は410試合(「Kリーグ1」228試合、「Kリーグ2」182試合)で、施行されたVAR判定の回数は計151回(「Kリーグ1」79回、「Kリーグ2」72回)で、4.3試合当たり1回の判定変更があった」と報じている。

 つまり、年を重ねるごとにVAR判定が安定的に運営されたことを強調し、「レフェリーの決定的な誤審を見つける効果のほか、誤審に対する抗議が減り、試合がスムーズに進行されるようになった」と説明している。

 ただ、一方で知人のサッカー担当記者に話を聞くと、こんな話をしていた。

「しっかりと準備できずに、勇み足でVARを導入してしまったので失敗も多い。レフェリーのレベルに問題を抱えていたり、VARを使っても誤審を見逃したりする試合もあります」

 慣れたころが一番危ないとはこのことだろうか。

 素早く導入したまではいいが、その弊害として、判定に関する専門的な知識が不足していたり、ノウハウの共有がなされていないという指摘もある。

オフサイドによる得点がVARでも覆らず

 VAR判定になっても、誤審のまま試合が進行したケースもある。

 最近では、4月14日に行われた第7節、FCソウル対江原FCとの試合。FCソウルの先制点が、明らかなオフサイドによる得点だったにもかかわらず、VARで確認したあとにそのままゴールと認められた。

 このレフェリーは連盟から処分を受けたそうだが、VARの運営とKリーグのレフェリーに対する信頼が揺らいでいるのもまた事実である。

 こうした指摘を受け、韓国プロサッカー連盟は今月22日にこう説明している。

「審判に持続的な教育を施すことが最優先。様々なシーンにおける事例を審判団と共有したあと、反省点を明確にする。その上で判定に一貫性を持たせることが我々の方針です」

 Kリーグで導入されて3年目を迎えたVARだが、いい面もあれば、改善しなければならない問題も多い。

「そういう意味では日本がじっくりと時間をかけて、審判員を養成したり、設備投資して2021年に導入するのは、いいことだと思います。そのほうがうまくいくのではないでしょうか」(前出の韓国人記者)

 しかし、Jリーグ各クラブのサポーターにとっては2021年まで、勝敗に関わる“誤審”があった場合のストレスが解消されない。

 そう考えると、日本でも「もう少し早くVARを導入してもらいたい」と思う気持ちも分からなくないが、果たして……。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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