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日本代表年内活動見合わせ会見ほぼ全文。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
日本大会中のジョセフ。田村優を労う。(写真:アフロ)

 昨秋のワールドカップ日本大会で初の8強入りを果たした日本代表が、2020年度の活動を一切おこなわないこととなった。9月14日、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチと日本ラグビー協会の岩渕健輔専務理事がオンライン会見で明かした。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で6、7、11月のテストマッチ中止を余儀なくされた。改めて招かれた今秋のエイトネーションズも、準備状況の観点から参加を辞退した。水面下で候補選手がハードトレーニングも、お披露目を前に一時解散となった。2023年のフランス大会に向けたリスタートは切れずにいる。

 会見では、今回の決断に至った経緯などが説明された。

 以下、共同会見時の一問一答(編集箇所あり)

岩渕

「(試合をおこなえなくなった)理由はさまざまありますが、どのような形で検討しジョセフヘッドコーチとどのような形で議論してきたかをお話しします。

 まずワールドカップが終わって最初のテストマッチは6、7月。トップリーグは3月で中止せざるを得なくなり、テストマッチに向けてもどうするのか、ジョセフヘッドコーチとも週に1度はコミュニケーションを取ってきました。

 結局、6、7月のテストマッチは全世界的に中止となりましたが、秋に向けて何とか試合ができないか、前向きに何とかやろうと取り組んできました。そのなかで色々な形でのゲームを考えました。我々が遠征に行く形、相手に日本に来てもらう形。さまざま考えました。

 そこで一番大事だったのは――。日本代表はワールドカップであのような結果を出したチームですので、ティア1と呼ばれる南半球のラグビーチャンピオンシップのチーム、シックスネーションズ(欧州6か国)のチームとどう試合を組むか、組めたらそこに向かってどうトレーニングをするかを毎週のように話してきました。

 これらのチームと試合をするにあたり、最低限の準備がどうしても必要だと思っています。コロナ禍の状況。ワールドカップ前におこなったような万全に万全を期した準備をするのは非常に難しい状況ですが、テストマッチを戦うにあたり、必要な準備を絶対にしなきゃいけない、と、相談をしてきました。我々の選手たちは、3月以降、なかなかゲームができなかった。そんななか、代表チームでどのようなトレーニングをするかについて、何度も何度も話し合ってきた。

 国内でトレーニングをする方法、あるいは海外へ行ってトレーニングをする方法。ここについても色んなオプションを考えてきました。何とかギリギリまで状況が変わるのを待ちながら考えたのですが、想定した状況を作り出すことはできなかった。選手がトップの国々と戦うのにあたり、十分な準備をしたうえでプレーしてもらう必要がある。このようなことから、この秋の代表活動については中止という結論を出しました。今後については代表の国際試合そのものはなかなか行えないのですが、ここに至るまで選手もスタッフも前向きにいろんな形で代表チームの試合を考えてくれました。ワールドカップを通し、その前からも応援していただいている方もいるので、日本のラグビーが前に進む姿をお見せできるようにやっていきたいと思っています」

ジョセフ

「今年、ラグビーの試合ができないのは残念。選手の気持ちが第一ですが、彼らもこの状況下でコンディションを整えるよう皆さんの知らないところで努力していましたし、いつでも合宿に入れる準備をしてきたので、それを考えると残念。もうひとつは、ファンの皆様の思い。これからラグビーの道が継続していくことを楽しみにしておられた方も多かったように思います。

 岩渕専務理事が仰っていたように、エイトネーションズに関しては、我々コーチの観点からも――過去数年のシックスネーションズを観たうえで――日本代表の選手が必要とする経験を積むにあたって、非常によいものだと思っていた。参加できないのは残念。ただ一方、今年に関してポジティブな点があった。ワールドカップ前後でスケジュールがタイトだった選手が、ひと息ブレイクをする時間ができたことです。リーチ マイケルは手術をして、リカバリーに時間を費やしています。

 まとめで申し上げると、選手のウェルフェア、安全を考えた今回の決断は正しかった。新型コロナウイルスが拡大したことでラグビーだけでなく様々なスポーツにおいても判断、決断が求められるなか、正しい決断をした。次の2023年のワールドカップフランス大会へ向け、時間はまだまだたっぷりある。強くなった日本代表をお見せできるようにしたい。来季のトップリーグを皮切りに日本のラグビーが進むことを楽しみにしています」

――来季以降の強化計画は。

ジョセフ

「コロナ禍で様々なことが変わり、スケジュール、プランニングは難しい。6、7月の来年にあるとしても、相手がどこか、そもそも本当にあるのかが見えない状況。いま、ワールドラグビーや各国のラグビー協会が定期的に議論をして、誰がどことできるのかを話している。

 先のことをもうひとつ話すと、夏から秋にかけての次のテストマッチに向け、キャンプを重ね、秋のテストマッチに臨んでいくことを思い描いている。その意味では選手が経験してきたようなスケジュールと似てくる。秋の機会は今年ない分、重要視し、活用しなければならない」

――試合はしたいが、準備期間は必要で今回の決断に至ったようです。意思決定までの過程で現場からはどんな要望を出してきたか。

ジョセフ

「エイトネーションズのような大会は素晴らしい機会だったと思っています。長い目で考えた時あのような質の高いチーム、質の高い大会、スタジアムでプレーするのがこれから求められる経験になってくる。そうした機会は今年に限らず模索し、世界のベストチームたちと戦う必要があると認識しています。それが叶わなかったのは残念ではあると言いましたが、フラストレーションは感じていません。コロナウイルスは誰も予想していなかったし、これからどうなるかもわからない。これはコーチにとってのニューノーマル、慣れなければいけないことだと思っている。

 今後はコロナの状況が少しでも良くなることを願う。おかげさまでこの前のワールドカップを通し、日本協会がティア1の協会といい関係を築けている。『是非、日本とやりたい』とも言ってくれている。そこから、次のことを見出していければ。

 いい機会なのでコロナ禍でどんなことがあったかを話します。トップリーグがキャンセルになったなか、50人程度の選手を選び、トップリーグが終わってからのS&Cプログラムを提供し、コーチングチームと連絡を取り、フィットネステストに向けて万全の準備をしてもらっていました。万全の準備をして、それぞれの選手が自分たちのコンディショニングに責任を持ってフィットするよう持っていく。そこから集合し、テストマッチに向けた準備をしてワールドカップ後最初の活動へ…。そうして『チームの状況はこうだ』とシンボリックになるテストマッチができればと思い描いていました。

 ただ、私のコーチングチーム皆が感じていますが、選手、コーチともワールドカップが終わってからモチベーションが高かった。(イングランド大会翌年の)『2016年にはワールドカップの直後は心持ちが難しい』という話もあったと思いますが、今回はプレーヤーたちが一生懸命、取り組んでくれていた。それが見られたのはポジティブな材料でした」

――各種競技が動き始めているなか、ラグビーの試合ができなくなったことへの問題意識。

岩渕

「問題意識はとても強く持っています。8強入りしたワールドカップの後、代表チームが6、7月、もしくは11月にゲームができることを我々は望んでいました。それをファンの皆さんに届けたいとも思っていました。そのため2~3月から毎週のようにジョセフヘッドコーチと連絡を取った。何ができるのか、いつまでに結論を出さなきゃいけないのか、結果をどう立てるのか…。スタッフ陣にも前向きに取り組んでもらって、話をしてきました。

 遠征に行く、あるいはチームを招いて国際試合をする、北半球だけではなく南半球への機会もうかがう…対戦国の状況もあるなか、考えられるオプションをギリギリまで探しました。つい先日まで調整に調整を重ねたんですが、シックスネーションズレベル、もしくはラグビーチャンピオンシップレベルの試合をするにあたって必要最低限の準備ができないのが今回の結論に至った理由です。当然、代表チームが活動的ないことは、2023年に向けた貴重な強化機会がなくなることを意味する。そこでどうしていくか。また、サポートしていただいている皆さんにどう我々の活動をお見せできるのか。それが大切だと、ラグビー協会も十二分に意識しています。

 代表チームが何らかの活動をおこなうのがファンの方にとって一番だと思いますが、それ以外の方法で応援していただいている方々に何かできるのか。この秋も含め、考えていきたい。いまもそういった調整はし続けています」

――2023年に向けた戦力をどう探すか。

ジョセフ

「新しい戦力を探す一方で、経験値がある選手の存在も重要。トンプソン ルーク選手がいい例です(2015年に代表引退も、2017年に一時復帰して2019年にはワールドカップ出場)。経験を持った選手は――コロナがあろうとなかろうと――一度ブレイクを与え、フレッシュな状態で戻ってもらおうと考えていました。例えば堀江翔太選手。彼はワールドカップを3回経験したベストプレーヤー。彼のような選手がワールドカップを戦ううえでも、準備の上でも大切になる。(若手とシニア選手の)両方をチェックしなくてはならないので、トップリーグを注意深く見ていきたい。

 いま、ラグビーが全くない状況なので、断定的でない情報を言うのは難しい。ただ、次に選ぶ選手の半分くらいが新しい選手であってもいい。そうでないと、選手層に厚みが出ない。経験者と新しい選手のバランス(を考えたい)。スコッド全体のなか、30~40人のうち経験を持った選手がどのくらいいるかを見ていきながら、2023年には『怪我した選手が出た場合に代わりがいる』という状態を作っていなければいけないと思っています」

――コロナ禍は、試合の開催に向けてどのようなハードルになったのか。他国との違いは。

岩渕

「いくつか要因があります。先ほどジョセフからも話がありましたように、選手がここに前向きにトレーニングに取り組んでくれました。スタッフも遠隔、あるいは近くで、前向きに代表チームの活動に取り組んでくれていた。国内トレーニングの環境を整えること、あるいは海外でトレーニングすること。その両方のパターンを考えました。そのトレーニング環境を整えられなかったのが(試合ができなかった)一番の理由です。皆がいつ一緒になれるかというタイミングの問題もありました。例えば11月に試合をすると考えると、相手国の問題があるので、決断自体はある一定の所で下さなければいけなかった。そこまでの間に、十分な環境を整えられなかった。これが理由になります」

――今後の予定は。

岩渕

「ジョセフのコメントもあったように、色んな話をしています。国際試合については現状そもそも予定されていた今年6、7、11月のテストマッチが全て中止になっています。このなくなったテストマッチを来年以降振り分けるか、組み直すか。これをワールドラグビーの皆さん、各国協会の皆さんと話を進めています。ジョセフも前向きに取り組んでくれて『来年、活躍して勇気を届けるんだ』という言葉ももらっています。2人で話しているのは、『来年、わくわくする試合を組んで、観ていただき、ワールドカップの頃の思いを持ってもらいたい。選手もスタッフもそう望んでいる』という言葉をもらっている。日本協会としては、皆さんが観たいゲームを組み、そこで代表チームが活躍する流れを作りたいです」

――ニュージーランドでスーパーラグビーアオテアロアがおこなわれた。日本代表もニュージーランドで試合を…という提案はあったか。

ジョセフ

「ニュージーランドはそのような状況。国内でのスーパーラグビーをおこなう判断でアオテアロアが始まった。これ自体はポジティブだったが、国際試合ができないから始まった側面もある。やってみればラグビーのクオリティも高かったし素晴らしい大会だったが、最終節のところでコロナが国内で出てしまい、試合がキャンセルになることがあった。国内でも外出自粛が出てしまった。これが、ニューノーマルなんだな、準備や予測が難しいんだなと見受けられました。

 日本では3月から全くラグビーができないのが、ニュージーランドとは異なる点でした。イングランド、スコットランドなどに行って試合をするフィットネスがあるかどうかという点で、とてもとても難しかった。ベストな準備をしないと戦えない相手だと思いますので。

 ニュージーランドと試合をする、試合がしないという話し合いがあったかどうか。ありました(ただ、具体的には進まなかった)。ラグビーチャンピオンシップの開催がすでに決定されていた。日本代表はもちろん試合がしたいですし、集合して試合をしたいです。それと同じくらい選手の安全を確保したい気持ちもあります」

――エイトネーションズの断念を受け、ワールドラグビーや各国協会との関係性に変化はあるか。

岩渕

「色んな話をしてきました、北半球だけでなく、南半球のチームとのゲーム、日本に来てもらって試合をするという全ての選択肢のもと話をしてきました、それぞれのエリアでの話は基本的にすべて前向きな形で進みました。しかしこのような状況なので『ここの段階まで決められないと大会そのものに影響が出る』というデッドラインを他国、エリアと話をしてきました。その意味で11月に向けては、まだ9月なのでまだ2か月もあるというお考えもあるかと思いますが、対戦する国々の状況もあるので早めの判断をする必要があった。試合ができる、できないの話に関しては、どこの国、エリアも――ジョセフからも言葉があったように――『コントロールできないもの。今後の関係には影響は出ない』という話をしながら、進めてきました」

――来年の予定について。ブリティッシュ&アイリッシュライオンズとの対戦も噂されているが。

岩渕

「秋の活動ができないこともあり、何とか来年以降、代表チームが前向きに慣れるゲーム、応援してくれる皆さんがワクワクするゲームを組まなきゃいけない。来年には『なんだ、そんなことができるのか』と喜んでいただけるような準備をしています。もう少しいいニュースをお待ちいただきたいと思います」

 話を総合すると、「強豪国との対戦を求める一方、そのマッチメイクに必要な腰を据えた強化が不可能だったために年内活動の中止という決断を下した」という流れ。その過程ではジョセフの母国であるニュージーランドなど複数国とのコミュニケーションがあったとのことだ。

 今後については、岩渕専務理事は別な場所で「ワールドカップを思い出してもらえる環境を作りたい」と言及。具体的な施策は明かせないとしたが、「テストマッチの期間」には何らかのアクションがあるかもしれない。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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