【テニス】受け継がれる意思を映像に残すため——。西岡良仁主催のジュニア大会に集ったテレビマンたち
始まりは、「今こそ見せよう!仲間の絆、スポーツの力」をキャッチコピーに掲げた、ABCテレビの番組企画だったという。
「コロナ禍で、スポンサードや活躍の場を失った選手たちのために、クラウドファンディングを用いて選手を応援しようと思ったんです」。
番組プロデューサーの平沢克祥氏が、企画意図を打ち明ける。
番組名は、「スポーツに還元する」の意味を込めて、『Re:スポーツ』。全12話のシリーズで、各話で12人のアスリートが、各々のクラファン・プロジェクトを発表するという構成だ。
この番組の第1回目に選ばれたアスリートが、西岡良仁。彼が望んだプロジェクトは、「ジュニアのために、賞金大会を作る」ことである。
その意思の結実が、去る12月11・12日に開催された、16歳以下のジュニア大会“Yoshi’s Cup”。西岡が選出した8名の選手が一堂に会する同大会の最大の特色は、ジュニア対象では異例の賞金設定だ。
「優勝者には100万円。僕が、将来性や環境面等を考慮し選んだ“西岡賞”の選手には、50万円。使い方は指定しませんが、自分への投資にして欲しい」
それが、目に見える形の西岡からのサポートだった。
『Re:スポーツ』に登場した12人のアスリートは、いずれも自身が従事する競技に貢献する企画を発案。そのなかでも最大の規模となったのが、西岡のプロジェクトだったという。しかも西岡本人が、大会の枠組み作りから運営まで、直接関わり音頭を取る。忙しい試合と遠征の合間を縫い、番組スタッフともリモートで幾度もミーティングを重ねてきた。
それらのプロセスを経るなかで、「西岡さんの理念や言葉が、私たちにもダイレクトに伝わってきた」と平沢氏は言う。
とりわけ決定的だったのが、番組制作スタッフが過去のアーカイブから見つけた、ある映像だった。
それは14年前。当時小学6年生の西岡が、“修造チャレンジ・トップジュニアキャンプ”に参加したときのもの——。
まだ幼い西岡が、松岡修造に「怖がってテニスするなよ!」と怒鳴られ涙を浮かべる。
合宿中のセミナーで、松岡が放つ「この年代で大切なことは、チャレンジしているかということ」の言葉を、胸に刻むようにメモを取る。
それらの映像を見た時に、番組スタッフたちの脳裏に、西岡が再三口にしてきた「若手のために機会を与えたい」の大義が、像を結びリアルに立ち上がった。
「西岡さんご本人が修造チャレンジで得た経験を、ジュニアたちに伝えたいと願っている。僕らも、『世界で戦うには、こういう機会が必要なんだな』と、修造チャレンジの映像を見ることで共有できたんです」。
平沢氏は、そう述懐した。
1990年代に世界への扉をこじ開けた松岡の想いが西岡らに受け継がれ、そして今、西岡が次代を担うジュニア選手に、自分の経験を伝えようとしている。
世界に挑むアスリートの系譜が映像に記録されたことにより、本来は無形な“想い”が可視化され、目の前に現れたのだ。その事実に、テレビマンとして心が動かぬはずがない。
西岡が、今大会の模様をYouTubeでライブ配信したいと思った時、ABCの番組クルーは「ほぼ仕事度外視」で、協力を願い出たという。
「西岡さんの活動には、“大義”があるじゃないですか。その大義に乗る感じで、餅は餅屋で、YouTubeの撮影に協力させて頂きました」。
かくして試合当日には、複数のテレビカメラがコートサイドに入り、中継を担当した。仮設の“放送席”には、テニスが好きで知られる上田剛彦アナウンサーが駆け付けて、実況するという豪華布陣。ちなみに解説者は、Yoshi‘s Cup開催地の三重県の高校に通っていた、プロテニスプレーヤーの島袋将である。
今回、Yoshi’s Cupに集った8人のジュニア選手たちは、西岡の薫陶を胸に、いずれ世界に羽ばたいていくだろう。もしかしたらそのうちの誰かが、西岡がそうしたように、自身が受け取った意思を後進に伝えるかもしれない。
思えば今大会のキャッチコピーは、「世界に挑むテニス界のDNAを、次世代に」だ。
今大会で西岡が示した意義は映像に焼き付き、DNAが複製されるように幾度も再生されながら、未来へと伝わっていくだろう。
※『Re:スポーツ』の西岡のプロジェクトを伝える回は2021年1月11日に放送済み。その模様は番組公式Youtubeで視聴可能。
https://www.asahi.co.jp/re_sports/