自死、遺された人々のために:三浦春馬さん報道と心の傷と癒し
■三浦春馬さん自殺報道
人気俳優だった三浦春馬さん(享年30)。まだ若く、誠実で健康的で爽やかな、みんなに愛される人でした(私も一度だけ大学の文化祭でお会いしました)。その三浦春馬さんの死亡報道。遺書が残され、「自殺と見られる」と報道されました(2020.7.18)。
<三浦春馬さん死亡報道と私たちの役割:衝撃を受けている人々のために>
多くの国民がショックを受け、ファンの中には、本当に心を痛め、学校や仕事を休んだ人もいると聞きます。
■三浦春馬さんの密葬
7月20日、三浦春馬さんの密葬が執り行われました。親族と身近な事務所関係者だけが参列し、静かに執り行われたようです。芸能界の友人たちも参列しませんでした。落ち着いた雰囲気の中でお別れができたのは、身近な人々にとっては良いことだったでしょう。
ただファンの中には、報道を受けて「え、もう葬儀が終わってしまったの!?」と、戸惑いの声を上げている人もいました。
報道によると、後日、仕事関係者やファンに向けたお別れの会が開かれるようです。
■死別の悲しみと葬儀の意味
死別は辛いものです。葬儀は寂しく悲しいものです。けれども、葬儀は癒しでもあります。親しい人たちが集まり、故人について語り合い、共に涙を流します。
悲しみは、深く悲しむことでしか解決しません(深い悲しみの向こうに:喪失体験の心理学:三浦春馬さん自殺報道を受けて:Yahooニュース有料)
火葬も納骨も悲しいですが、でもその一つひとつのセレモニーを通して私たちは現実を受け入れ、少しずつ癒されていきます。
だから今回、ファンの人たちは、すでに密葬を終えたという報道を聞いて、少なからぬショックを受けた人もいたわけです。それは、芸能界の友人たちも同様だったかもしれません。
通常なら、密葬を行うにしても、密葬の予定が事前に知らせれたりもすることでしょう。
■自死遺族の悲しみ、残された人々の苦悩
自死の苦しみは、自死の事実だけで終わらず、その後の葬儀にも続きます。病死であれば、多くの場合、いつ病気がわかり、どのように闘病してきたといった話を遺族はするものです。そんな会話をしながら涙を流し、その涙が癒しへとつながります。
ところが自死の場合は、遺書があったとしても、結局は原因はよくわかりません。死因が伏せられることもあります。病死のように経過を切々と語ることで癒しにつながることもありません。
自死遺族は、病死や事故死のようには悲しむことすらできないのかと、私も自死の葬儀に出て感じることもあります。
今回の三浦春馬さんの場合は、親近者だけでなく、友人たちも、ファンの皆様も心の持って行きようがない思いでしょう。
幸いなことに、三浦春馬さんを責めるような報道は見かけませんが、それでも自殺の原因を探るような報道は、次々と出ています。親族から見れば、多くの雑音が聞こえます。
今回は、密葬の予定すら事前に発表せず、事故報告にすることが、適切だったでしょう。
それでも、ファンも、友人たちも、苦しんでいます。
自殺は、心理学的には孤独感と絶望感がもとになると考えます。自殺は、多くの場合一人で死んでいきます。だからこそ、身近にいて愛していた友人や家族は、深く悲しみ苦しむのです。
神木隆之介、東出昌大…「春馬ショック」から立ち直れない人々(東スポ)
三浦翔平「君の死を受け入れるのはまだ時間かかる」(日刊スポーツ)
ソニン「『本当なの』を毎日繰り返してる」急死の三浦春馬さんと「キンキーブーツ」で共演(スポーツ報知)
■責められる人々
自死遺族、関係者など、とても傷つている人々が、しばしば周囲からひどく責められます。時には、最もそばにいて、最も慰められるべき人が責められることもあります。
今回は、三吉彩花さんに対する心ない発言があったことが報道されています。
<三浦春馬さんと熱愛が報じられた三吉彩花さんへ誹謗中傷が殺到 本人は「整理できていない」〈週刊朝日〉 7/24>
ネットで誹謗中傷している人の中には、ただ面白がっている人もいるかもしれません。芸能界の出来事でなくても、非常に無責任にそばにいた人を責めてしまう人々もいます。けれど、それだけではないとも思います。
人気芸能人の突然の自死は、ファンの人たちも、まるで親友や親せき、時には家族や恋人が亡くなったような強いショックを受けます。
人は、とても傷ついた時には、問題を誰かのせいにしたくなるのです。
そばにいた人、話していた人、一緒に仕事をしていた人、その人が原因ではないか、その人なら止められたのではないかと、感じてしまうのです。
近くにいた人は、他人から責められなくても、そんな思いで自分を責めているのですが。
自殺による葬儀が、修羅場になってしまうこともあります。若い夫が自殺したときなど、両親がやってきて、妻から遺骨を奪い去るようなことまで起きます。親からしてみれば、「私の息子に何をした!」と感じているのでしょう(悲劇とトラブル事例の数々:自死遺族の苦しみ、遺された人々の苦しみの癒しのために:ヤフーニュース有料)。
みんなが傷つき、傷ついた人同士が、さらに互いに傷つけあう悲劇が生まれます。
■癒しのために:求められるべき私たちの態度
以前、アメリカでオバマ大統領の就任式にも登場した有名牧師の息子が、うつ病で自殺したことがあります。この牧師は、各国語に翻訳されたベストセラー本を何冊も出している牧師です。
<大統領就任式に登場した牧師の息子が自殺:自死遺族へのアメリカ社会の成熟した態度「泣く者と共に泣く」>
キリスト教は一般に自殺を認めません。心理学や精神医学的な自殺予防の観点から見ても、自殺は止められるし、止めるべき死です。
息子の自殺は、有名な牧師家庭に起きたスキャンダラスな出来事とも言えるでしょう。この牧師に落胆する人もいるでしょうし、これを機に、牧師を失脚させようとする人がいても不思議はありません。
しかし、そんなことは起きませんでした。
葬儀では、友人でもある牧師が語ります。
「希望が遠くにあるとき第一に必要なことは、泣くことだ。ダビデ(古代イスラエルの王)は兵士らとともに、泣く力もなくなるほどに泣いている。その後で、主によって力を得ている。次に、互いに許しあうことだ。そして、過去にとどまらず、希望を持って未来を見つめることだ」
友人からだけではなく、アメリカ中から慰めの便りが届きました。
牧師は語っています。
「妻と私は、みなさんの愛と祈りと心からのことばに、圧倒されています。みなさん全員が、私たちの壊れた心を包んでくれています」。
アメリカには様々な問題がありますが、しかしアメリカ社会の成熟ぶりを見せられた思いがします。
どんな時も、傷ついた人を守るのが、私たちの役割です。
三浦春馬さんという有名芸能人の自死に際して、私たちは何を考え、どう行動するのか。自殺は残念な死であり、予防活動は必要です。しかし、起きてしまった時には、その事実を受け入れ、癒しが行われることが必要です。
身近な人の突然の自死に深く傷つくのは、一般の人々も、芸能界の人々も同じです。立場の違いを超え、共に癒しあい、許しあいたいと思います。そして長い時間のあとで、私たちは新たな希望を見つけていくのでしょう。
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*なぜあの人は先に逝ってしまったのか。人はますます苦しくなる原因探しをします。でも心の癒しのためには、心から納得できるあなたなりの「ストーリー」を紡ぎ出す必要があります(人はなぜ死を選ぶのか:故三浦春馬さんを偲んで:ヤフーニュース個人有料)。
*9/14補足
三浦春馬さんのショックが冷めやらぬ中、女優の芦名星さんの自殺が報じられました。