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カネロvsGGG再戦締結。笑ったゴロフキン。カネロはいくら稼ぐ?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
いよいよリマッチが決まった両雄。予想は今回もゴロフキン有利(写真:GBP)

仕切り直しは9月15日ラスベガス

 一時交渉が難航し決裂寸前といわれたミドル級の頂上決戦、ゲンナジー“GGG”ゴロフキン(カザフスタン)vsサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)の再戦が9月15日、1年前の第1戦と同じラスベガスのT-モバイルアリーナで挙行される。後から振り返るとビッグマッチを成立させる役者はこの2人しかいない印象。もし締結しない場合、両者の対戦相手に挙がった選手たちは実力はともかく、交渉テーブルにつくにはプロモーション的にまだ時期尚早と言わざるを得ない。

 当初5月5日、同アリーナで組まれた再戦はカネロの違反薬物クレンブテロール摂取、それに伴うネバダ州アスレチック・コミッションのサスペンド処分(6ヵ月)というスキャンダルを経て仕切り直しとなった。薬物発覚から計算してカネロの処分が解除されるのは8月中旬。お互い破格のファイトマネーを得るダンスパートナーは他に存在しないだけに折衝は比較的スムーズに運ぶと推測された。

 ところが統一王者(WBA“スーパー”&WBC)ゴロフキンが報酬配分で50-50を要求。これに対しカネロのプロモーター、オスカー・デラホーヤ氏(ゴールデンボーイ・プロモーションズ=GBP)は「マネーを生み出しているのはカネロだ」と吹聴してはばからない。「Aサイド(主役)はこちらだ」と強調する。ちなみに昨年9月の初戦は70-30でカネロ。GBPはメイン・プロモーターの優位をフルに活用して挑戦者ながらカネロに倍以上の報酬を与えた。

 だからいきなりゴロフキン側から折半を求められても素直にオーケーすることはできなかった。5月の試合がキャンセルされる前の比率は65-35でカネロ。再交渉は60-40でスタートした。そして最終的に57.5%(カネロ)-42.5%(ゴロフキン)でようやく手打ちとなった。

幻のジェイコブス戦

 交渉が行き詰まった6月初旬、GBPはゴロフキンに代わる相手としてダニエル・ジェイコブス(米=前WBA“レギュラー”王者)が有力だと伝えた。一部の著名メディアもこれを扱い、締結寸前とも伝えた。報酬配分は80-20でカネロ。昨年3月、拮抗した内容ながらジェイコブスを下したGGGに敬意を表したパーセンテージといえるか?

 だが騒いだのは報じたメディアだけだった。米国ヤフースポーツのケビン・アイオール記者は「GBPのオファーは即座に却下された」と記し、「人によればディスカッションする価値もないものだった」と核心を突く。

 これが真実に違いない。

 80-20でもパイが大きければジェイコブスの実入りも膨らむ。しかしカネロvsGGG第1戦で140万件をマークしたPPV(ペイパービュー)購買数はアイオール記者によれば「相手がジェイコブスだとせいぜい40万件程度。うまく行って50万件というところ」だという。

 仮に40万件とすると、GGG戦の3分の1以下の数字。あの一戦のカネロの推定報酬は5000万ドル(約55億円=1ドル110円として計算。以下同じ)。この割合で計算すると約16億円に落ち込む。ジェイコブスは約4億円になる。1試合で1億円稼ぐのもすごいことだが、カネロにとり実力者ジェイコブスは「ハイリスク・ローリターン」以外の何ものでもない。ジェイコブスにとっても「人気者のカネロが相手ならもっと稼げる」と信じて疑わないだろう。

昨年ゴロフキンと熱戦を繰り広げたジェイコブス(写真:GBP)
昨年ゴロフキンと熱戦を繰り広げたジェイコブス(写真:GBP)

ゴロフキンは17億円アップ

 ゴロフキン陣営もカネロ再戦が流れることを想定して8月25日、WBOミドル級王者ビリー・ジョー・サンダース(英)との統一戦を画策していた。サンダースは6月に予定された防衛戦をまたも負傷を理由にキャンセル。これは条件のいいゴロフキン戦を視野に入れた行動とも取れる。それはともかく両者は対戦に合意した。スポンサーも集まり、ロサンゼルスのザ・フォーラムでゴングが鳴る運びだった。

 交渉がもつれた最中、保持するベルトの一つIBF王座を剥奪される憂き目に遭ったゴロフキンだが、最後まで粘り強く対処したことが功を奏した。「45%以下では応じられない」と主張したGGGは報酬の分配で不利なように見える。不本意ながらGBPの要求にしぶしぶ応じたように思われる。だが42.5%は万々歳の数字、金額なのである。

 第1戦で140万件だったPPV購買は今回、カネロ・スキャンダルで両者に緊張が走ったこともあり、よりファンの関心を呼び、160から170万件に伸びることが確実と報じられる。第1戦のゴロフキンのファイトマネーは2000万ドル(約22億円)と公表されている。カネロの報酬を合計すると2人で約77億円になる。

 仮に第2戦のPPV購買数が165万件とすると、単純に17.9%増。両者のファイトマネーの合計は8253万ドル(約90億7830万円)に達する。これをカネロ57.5%、GGG42.5%に分けると、カネロは約52億円、GGGは約39億円。もちろんこれらは推定額に過ぎないが、ゴロフキンは第1戦に比べておよそ17億円も多くゲットできることになる。大笑いしたのは言うまでもない。ミドル級の帝王と呼ばれて久しい男はこの再戦でやっと実力に見合った報酬を手にできるのだ。

7月初旬からカリフォルニア州ビッグベアでキャンプインするGGG(写真:Boxing Scene)
7月初旬からカリフォルニア州ビッグベアでキャンプインするGGG(写真:Boxing Scene)

カネロは減収?

 逆にカネロはこの計算で初戦に比べ約3億円も減額。GBPは押し切られた様子もうかがえる。しかしメキシコのスターもキャリア最高額を得ると伝えられる。どうしてか?

 デラホーヤ氏の右腕、実際に交渉を担当したエリック・ゴメスGBP社長はテレビ番組で「オスカーがポケットマネーから捻出した」というようなことを話している。進行役からツッコまれたゴメス氏は言葉を濁したので真偽は定かでない。だがいくらドーピング問題で汚点を残したとはいえ、初戦より少ない額でカネロがサインするはずはない。デラホーヤ氏がどんなマジックを使うのかも興味深い。

 それにしても“マネー”フロイド・メイウェザーがマニー・パッキアオ、UFC王者コナー・マクレガー戦で稼いだ常軌を逸する数字と比べると少ないが、億単位が2ケタになるところがカネロvsGGGのリッチさを際立たせる。初戦のゲート収入は歴代ボクシング興行の3位。これも特筆される。

 それでも収入の中軸はPPV収益。ゴロフキンの大幅増収はそれなくして実現しない。今後、村田諒太(帝拳=WBAミドル級“レギュラー”王者)が本場でビッグマッチを成立させる場合、このPPV購買数をどう上昇させるかが重要な条件になると思う。現在の村田と同じ地位に君臨したジェイコブスでも前述のように厳しいものがある。ゴロフキンにしてもPPVイベントでなければ、収入は10分の1あるいは20分の1まで減ってしまう。同じ晴れ舞台に立つのなら、村田もぜひビッグマネーを追求してもらいたいと期待するのだが……。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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