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トーニャ・ハーディング、ダンスコンテスト番組で決戦進出決定。感動のドラマは続く

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
サーシャ・ファーバー(右)と組み決戦まで勝ち残ったハーディング(写真/abc)

 トーニャ・ハーディング伝記映画の“続編”がまだまだ展開している。いや、アメリカ時間14日の「Dancing with the Stars」で語られた彼女のストーリーは、むしろスピンオフと呼んだほうがいいかもしれない。

「Dancing with the Stars」は、セレブがプロのダンサーとコンビを組んでほかのコンビと競い合うリアリティ番組。現在放映中のシーズンはアスリートだけに絞っており、最近のオリンピックで国民的スタートなったアダム・リッポンや長洲未来、クリス・マッザーなどが出演している。

 そんな中、フィギュアスケート界を追放されてずいぶん経ち、年齢的にもほかのコンテスタントより上のハーディングにも声がかかったのは、映画「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」で、彼女に再び焦点が当たったからだというのは、言うまでもない。かつて笑いの対象とされ、その後は忘れられていた40代の彼女が旬のアスリートたちと戦うとあれば、コンテスト番組にドラマの要素が加わるというものだ。

 実際、2週間前の第1回戦で、ハーディングはこの番組に出演する思いを涙顔で語り、感動を呼んでいる。しかも、危うく落とされそうになったところを、ギリギリで勝ち残ってもいるのだ。2回戦に当たる先週は、打って変わって笑顔を見せ、ユーモアのニュアンスがあるダンスで、これまた次へと残った。そして昨夜の3回戦では、再び涙を流しつつ、「アイ、トーニャ〜」の後に起こったことを、少し明かしてくれている。

映画「アイ、トーニャ〜」では、ハーディングが母にDVを受けて育った様子が描かれる。母役のアリソン・ジャネイはオスカーを受賞(写真/2017 AI Film Entertainment LLC. )
映画「アイ、トーニャ〜」では、ハーディングが母にDVを受けて育った様子が描かれる。母役のアリソン・ジャネイはオスカーを受賞(写真/2017 AI Film Entertainment LLC. )

 この日は、母の日の翌日とあって、会場にはコンテスタントの母の姿が目立ち、カメラも彼女らの表情を頻繁に映し出したが、映画を見た人はご存知のとおり、ハーディングは母にひどいDVを受けて育っている。現在はすっかり音信不通で、母がどこにいるのかもハーディングは知らないそうだ。しかし、映画の中で、彼女がまだ子供の時に家を出ていってしまった父とは、その後もずっと連絡を取り合ってきたそうなのである。

 パフォーマンスの前に流された映像で、ハーディングは、その愛する父は9年前に亡くなってしまったと告白。「父は私の親友だった。みんなが私を嫌っている時も、私を100%応援してくれたわ」と語り、「でも、父は、私の今の夫も、息子の顔も見ることなく逝ってしまったの」と涙した。「今、父がこれを見てくれたなら、私と同じように、きっと涙を流したでしょうね」と言うハーディングは、パフォーマンスの間もずっと泣きそうな表情で、終わる時にはついに感情が爆発してしまっている。

 そんな感動のパワーもあってか、6組中3組が落とされるこの準決勝で、ハーディングは、意外にも勝ち残ってみせた。しかも、彼女の代わりに、審査員の点数も上で、自信たっぷりに光るパフォーマンスを見せた長洲が落とされたのである。意外だったのはハーディングも同じだったようで、名前が呼ばれた時、最初、彼女は、それが何を意味しているかわからない表情を見せていた。結果が発表される前、ハーディングは「決戦に残れたとしたら、それは私にとってすごい意味をもつこと。私はチャンスをいただいて、それをちゃんとモノにしたことになるのだから。私は、ここから出て行きたくない」と語っていたのだが、実際、彼女は、モノにしたわけだ。

視聴者の反響はさまざま

 ハリウッドはもともと、復活劇が大好きである。スクリーンの中だけでなく、裏側でも、たとえばかつてドラッグ中毒で刑務所入りしたロバート・ダウニー・Jr.や、荒れた子供時代を過ごしたドリュー・バリモア、また最近のメル・ギブソンなど、道を正して再び成功をつかんだ人は、見直され、応援された。「Dancing with the Stars」は、一般視聴者も投票できるのだが、ハーディングに入れた人たちの中には、そのような気持ちをもつ人も、きっと少なくないだろう。ツイッターにも「トーニャ・ハーディングは、すばらしいダンサー。それ以外のことで彼女を判断する人と、私は戦うわ」「やった!トーニャが勝った!」といったコメントが見られる。

 だが、そうでない意見も多いのが事実だ。とくに、「未来が落ちてトーニャが勝つなんて、冗談でしょう。もし彼女が勝ったら、もう見ない。だいたい、彼女が出ること自体がおかしいのよ」「トーニャは決戦に出るべきではない。彼女は同情を買っただけ。未来のほうが優れたダンサーなのに。彼女がかわいそう」「番組は信頼を失った」といった、長洲が落とされたことに疑問を投げかけるコメントが目立つ。ハーディングの感動物語にもみんなが心を動かされるわけではないようで、「(それらの話には)もう飽き飽き。彼女はそもそも自分で自分をそういう状況に追い込んだんじゃないの」という、シビアな投稿もある。

 しかし、ハーディングは、嫌われるのにはもう十分慣れているはずだ。結果が発表される前にも、ハーディングは、準決勝まで残してもらえたことに対して、「本当に素敵なことです。アメリカのみなさん、心の底から、ありがとうございます」と感謝の言葉を送っていたが、それはまさに本音ではないか。ちょっと面白いことに、実は、ナンシー・ケリガンも過去にこの番組に出演したことがある。彼女は途中で落とされてしまい、決戦には残らなかった。もちろん、彼女の出演は、ハーディングほど話題にもなっていない。それを考えると、ハーディングの思わぬ大健闘は、ますます興味深くなるというもの。このリベンジドラマは、来週、どんな形で結末を迎えるのだろう。「もう見ない」とツイッターで宣言した人も、きっとこっそりテレビをつけてしまうのではないだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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