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ソニーのゲーム事業<3Q決算> 「PS5は日本軽視でダメ」→でも業績好調 なぜ?

河村鳴紘サブカル専門ライター
ソニー本社ビル(写真:アフロ)

 ソニーグループの2022年度第3四半期(2022年10~12月)連結決算が発表されました。ゲームファンとして気になるのは、家庭用ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」のビジネスの状況です。ゲーム事業視点で説明してみます。

◇ソニー好業績 変わらずゲーム事業がけん引

 ソニーグループの3カ月の売上高は、3兆4129億円(前年同期比13%増)。本業のもうけを示す営業利益は、4287億円(前年同期比8%減)。通期予想(2022年4月~2023年3月の1年間)の売上高は11兆5000億円。営業利益は1兆1800億円となります。

 そして、上記の決算のうち、ゲーム事業の3カ月の売上高は、約1兆2465億円。営業利益は1162億円でした。いずれも部門別でトップ。通期見通しは、売上高が3兆6300億円、営業利益が2400億円です。

 「金額が大きすぎてイメージがつかめない」という方にシンプルに説明すると、基本的に概ね好調です。戦争の影響や物価高などの不安定要因があることを考えるとなおさらですね。そしてグループをけん引しているのは、ゲーム事業です。

 なおゲーム事業ですが、このままでいけば、通期の売上高は、ぶっちぎりの過去最高。10年前(PS4の発売直後)と比べると、売上高は3倍以上に増えています。

【今回の四半期決算 ざっくりポイント】

・PS5の四半期出荷数は710万台。前年同期の390万台を大きく上回る。ただしPS4のピーク時(出荷900万~970万台)には届いてない。

・月間のアクティブユーザーは1億1200万。前年同期をわずかに上回った。

・有料サービスの「プレイステーションプラス」の会員数は4640万。前年同期の4800万から減り、PSプラスの新料金体系の効果が判然としない。

・ゲーム事業の3カ月の売上高の内訳。ゲーム機4400億円▼ソフト6000億円▼ネットワーク1200億円▼その他800億円

・上記ソフトの売上高の内訳。パッケージ900億円▼デジタル2400億円▼アドオン・コンテンツ(アイテム課金など)2600億円。

・ゲーム「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク」を世界で1100万本を売る(10週間)。

・ゲームIPの映像化プロジェクトが10以上進んでいる。

・ゲーム「ラスト・オブ・アス」のドラマ放送後に、米国でゲーム売上UP。

 ゲーム機もソフトも売れているのです。あえて課題を挙げるなら、営業利益率のさらなる向上でしょうか。今はまだハードの普及機にあり、ソフトで利益を得るのはこれからでしょうか。ソフトでしっかり稼げるかが、今後問われることになります。

◇目の前の事象と業績のギャップ

 さて、好調な決算を見て、ゲームファンの中には「どうして?」と納得いかない人もいるかもしれません。日本では、家庭用ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」が2年間店頭に並ばず、転売が横行して、抽選販売が続く状態でした。

 SNSなどで「購入はあきらめた」「日本市場の軽視が許せない」「PS5のビジネスは失敗」という意見をよく見かけました。そして、ゲームソフトの日本の売り上げランキングでは、ニンテンドースイッチ用ソフトがほぼ独占です。しかし、これでは好調な決算と矛盾します。これは、どう考えればよいのでしょうか。

【関連】ゲームソフト販売本数ランキング(ファミ通)

 これは仕方のない話で、ビジネスは、消費者の持つイメージと実態が、うまく比例しないことがあります。日本市場の苦戦は目に見えてイメージがしやすいのですが、海外のことは見えないからです。そして、当たり前ですが、世界の方が広いのです。新卒の就職ランキングで、消費者がよく知っている企業は人気がありますが(ゲーム会社はその典型例ですね)、優れたビジネスモデルを持つものの知名度で劣るBtoB系の企業は人気が出あまりないのですが、「実態とのズレ」という意味ではよく似ています。

 ソニーのソフトの売上高を見ても分かりますが、パッケージとデジタルの比率がざっくり1対3にと、デジタルの金額が圧倒しています。そして、日本のパッケージゲームのランキングをだけ見て、一喜一憂しても、ごくごく一部の話になるのですね。

上の表は、ゲーム事業の売上高内訳で、FY22(2022年度)の3Q(第3四半期)の業績が大きく上がっているのが分かります。下はPS5の四半期出荷数=ソニーグループ決算資料から
上の表は、ゲーム事業の売上高内訳で、FY22(2022年度)の3Q(第3四半期)の業績が大きく上がっているのが分かります。下はPS5の四半期出荷数=ソニーグループ決算資料から

 もちろん、日本のパッケージゲームのランキングで、タイトルを上位独占することも大事です。ただし、そのランキングだけを元に、「〇〇はダメだ」などと全体の話をすると、うまくかみ合わないのです。繰り返しになりますが、日本市場のイメージと、世界の状況(決算)が違うのです。

 イメージと決算では、後者を重視するのはいうまでもありません。そして、日本市場のイメージと、業績(数字)のくい違いは、今に始まったことではありません。任天堂がソニーのPS2に圧倒されていた時代、任天堂はゲーム業界の“王座”から転落していたこともあり、ネットでは厳しい書き込みが多かったものの、業績は堅調に推移していました。

 話を元に戻します。認識のズレを埋めるためにはどうすればよいか。これはもう、さまざまな情報を見て多角的に判断し、自分の抱くイメージとデータが合致しているかを考えることでしょう。

 少々面倒な話ですが、ものは考えようです。目の前に見えない部分を認識するだけでも、物事を見る視野が広がります。それは、決して損にはならないと思うのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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