Yahoo!ニュース

ハイチュウがジェネリックになる日

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:森永製菓株式会社ウェブサイト

「米国で突如人気に、ハイチュウ かみ応え追求の40年」という記事を読みました。「(森永製菓の)米国事業が伸びている。引っ張るのは"ハイチュウ"だ。2012年ごろからメジャーリーガーが好んで食べるようになったのがきっかけ。」ということだそうです。

「15年前に特許を取得したのが食感を大きく変える転機になった。」ということなので調べてみました。登録日が15年前ということから、おそらく、2004年11月19日に登録された特許3618718号「ソフトキャンディ及びその製造方法」だと思われます。「噛み出しの柔らかさに優れ、歯に付着し難いソフトキャンディを提供すること」が発明の目的になっています。国際出願され、米国等でも登録されています。ちなみに、「ソフトキャンディ」を発明の名称に含む特許出願は味覚糖、カネボウ等々によるものが100件近くありますので、結構重要な技術分野であることがわかります。

請求項1の内容は、「少なくとも、糖類、植物性油脂、乳化剤、及び結晶の大きさが30μm未満の砂糖微結晶を配合してなり、かつ歯への付着性が100〜1500(g)であることを特徴とするソフトキャンディ。」となっています。

この特許の出願日は2000年7月31日なので、来年の2020年7月31日には特許権が満了してしまいます。それ以降は、この特許でクレームされた技術の独占権はなくなり、いわば医薬品で言うジェネリック薬品と同じ状況になります。

しかし、森永製菓は、2015年に本特許の改良特許である特許5767969号を取得しています。ソフトキャンディをミルク味や抹茶味にする場合に味を良くするために酸味料を減らすと、ゼラチンの粘度が低下し好ましいチューイング感や歯ごたえが得られなくなるという課題に対応したものです。

請求項1の内容は「少なくとも、糖類、植物性油脂、乳化剤、及びゼラチンを配合してなり、更に、穀類、いも及びでん粉類、砂糖及び甘味類、豆類、種実類、野菜類、果実類、きのこ類、藻類、魚介類、肉類、卵類、乳類、油脂類、菓子類、し好飲料類、調味料及び香辛料類、及び調理加工食品類乳原料から選ばれた少なくとも1種の風味材及び/又は香料を配合することにより、ミルク味、チョコ味、わたがし味、抹茶味、ニッキ味、ソーセージ味、芋味、栗味、野菜味から選ばれた一種の味とされたソフトキャンディにおいて、グルコン酸、グルコン酸塩、及びグルコノデルタラクトンからなる群から選ばれた1種又は2種以上を含有し、質量換算で9倍量の水に溶かして測定したときのpHが2.0〜6.0であることを特徴とするソフトキャンディ。」となっています。

この特許の出願日は2010年であり、権利は2030年まで残りますので、ハイチュウの基本部分についてはジェネリック化して誰でも使えるようになっても、この改良部分については森永製菓が独占できます。

要は、主力製品は基本特許で保護して他社の摸倣を防ぎ、基本特許の存続期間が満了した後も改良特許で差別化を維持するというほとんどの技術分野で行なわれている特許戦略がハイチュウについても行なわれているというお話しであります。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

栗原潔のIT特許分析レポート

税込880円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

日米の情報通信技術関連の要注目特許を原則毎週1件ピックアップし、エンジニア、IT業界アナリストの経験を持つ弁理士が解説します。知財専門家だけでなく一般技術者の方にとってもわかりやすい解説を心がけます。特に、訴訟に関連した特許やGAFA等の米国ビッグプレイヤーによる特許を中心に取り上げていく予定です。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

栗原潔の最近の記事