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「八村塁に勝った男」が富山で目指すBリーグ新人王 松脇圭志の挑戦

大島和人スポーツライター
松脇圭志選手(左) 写真=B.LEAGUE

全中決勝で富山県勢に勝利

2012年8月24日、さいたま市記念総合体育館で「全国中学校バスケットボール大会」の決勝戦が行われた。決勝に勝ち残ったのは福岡市立西福岡中と富山市立奥田中だ。

福岡県は日本最高のバスケどころで、西福岡中も「最強の公立中」として知られている。

富山県は全中バスケの成績で新潟、石川県勢に後れを取っていて、この大会は県勢初の全国制覇がかかっていた。当時の奥田中には八村塁(ワシントン・ウィザーズ)や笹倉怜寿(仙台89ERS)といった逸材もいた。

72-55で決勝戦を制したのは西福岡中。36得点を挙げ勝利の立役者になった西福岡中のエースが松脇圭志だった。彼はいわば「八村塁に勝った男」「富山のバスケ関係者の期待を打ち砕いた男」だ。

新人ながら主力の働き

松脇は土浦日大高校、日本大学を経て、2020年冬から富山グラウジーズに加わった。昨季は試合に絡めなかったが、今季は浜口炎・新ヘッドコーチ(HC)のもとで重用されている。

チームも強豪の揃う東地区に所属しつつ、ここまで5勝1敗と好調だ。松脇はそんな中で全試合に先発し、1試合平均27.2分のプレータイムを得ている。

彼は2019年の関東大学バスケットボールリーグの3ポイントシュート王に輝き、得点ランキングでも4位に入った攻撃力の持ち主。富山でもここまで1試合平均8.5得点、2.8アシストと悪くないスタッツを残している。

ただし松脇の「売り」は別の部分にある。浜口炎ヘッドコーチ(HC)はこう説明する。

「一番期待しているのはディフェンス(DF)です。足が動きますし、読みもいいし、身体も強い、うちのチームで一番上手なディフェンダーです。ポイントガードから、4番の選手までつけるような選手だと思っていて、それくらい信用しています。相手チームのスコアラーにDFをして、グラウジーズのオフェンスのリズムを作る役割を担っている」

筆者が取材した18日の三遠ネオフェニックス戦も、彼は攻撃面こそ4得点と「不発」だったが、29分2秒のプレータイムを任された。もちろん守備面で期待に応えていたからだろう。

「DFを常にやっていく」

松脇は185センチ・85キロのシューティングガードで、細身が多いバスケ選手の中では珍しいがっちり型。いわゆる「フィジカルが強い」タイプで、外国籍選手に当たり勝つような場面もある。

加えて彼はプレーの忠実さ、集中力が素晴らしい。腰の落とし方、足の置き方、相手との距離感が正確で、相手を苦しい方向に誘導する確実な守備を見せる。スティールも1試合平均1.5を記録していて、かなり高水準だ。

松脇はこう述べる。

「僕は得点を取ることだけを意識しているわけではないし、DFを(浜口)炎さんに信頼されている。DFを常にやっていくという気持ちでいます」

西福岡中時代はシューター、スコアラーとしてオフェンスの意識が強かった彼だが、高校大学と守備を磨いて今がある。

「僕的にはずっとオフェンスよりDF、DFの後にオフェンスという意識でした。高校(土浦日大)がDFのチームで、佐藤(豊)先生からすごく言われました。DFの大切さを知って、鍛えてもらいました」

攻撃面の役割、伸びしろは?

富山は個人技で「ズレ」を作れる宇都直輝、ジュリアン・マブンガといったハンドラーがいる。現在は怪我で離脱中だが、ジョシュア・スミスといったパワフルなインサイドもいる。攻撃について彼自身の役割を尋ねると、こんな説明だった。

「ジュリアンとか宇都さんがボールを持っていることが多くて、DFはそちらに寄る場合が多い。その後のフリーのシュート、3Pシュートは高確率で決めていきたい」

浜口HCは松脇が持つ攻撃面の伸びしろについてこう期待する。

「彼は何でもできるプレイヤーです。アウトサイドシュートも得意だし、ドライブもできるしパスも上手。でもDFみたいにオフェンス面で『ここがスペシャル』というものはまだない。そこで今後どう成長していくのかは楽しみです。僕個人としてはもう少しクリエイトできて、1対1に強くて、身体も強いーー。そこからプレーを作っていく選手に成長したら、面白いんじゃないかと思っています」

富山から連続新人王も

富山のチームメイトには2018-19シーズンの新人王・岡田侑大(当時はシーホース三河)、2019-20シーズンの新人王・前田悟がいる。

今季がまだ6試合しか終わっていない状況で性急と知りつつ、松脇に新人王について水を向けてみた。彼は「結構言われるんですよね」と苦笑しつつ、こう返してきた。

「狙いたいのは狙いたいです。新人王を目標にしていきたい」

中学時代に富山の夢を打ち砕いた松脇が、今はプロとして富山を助けている。今季のスタートを見ればチームの躍進、富山からの連続新人王にも期待できそうだ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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