「危険なスコア」からの逆転負け。ホーム最終戦も黒星/レノファ山口
J2レノファ山口FCは11月16日、維新みらいふスタジアム(山口市)にモンテディオ山形を迎え、今シーズンのホーム最終戦に臨んだ。前半で2点をリードするゲーム展開となったが、後半に山岸祐也にハットトリックを決められ、逆転負け。3連敗で順位を15位に下げた。
明治安田生命J2リーグ第41節◇山口2-3山形【得点者】山口=宮代大聖(前半29分)、石田崚真(同42分)山形=山岸祐也(後半9分、同28分、同32分)【入場者数】6117人【会場】維新みらいふスタジアム
試合開始前の段階での山形の順位は4位。J1自動昇格圏の2位とは勝ち点6差、プレーオフ圏内外も混戦で、山形にとっては落とせない試合となっていた。レノファは14位で昇格・降格ともに絡まない位置に付けていたが、13位との勝ち点差が5で連勝すれば順位を上げる可能性があったほか、霜田正浩監督は「山口にサッカー文化を根付かせるためにも、こういう(ホーム最終戦という)節目のゲームをしっかり勝たないといけない」と強調。公開練習を予定していた14日のトレーニングを非公開に切り替えるなど、高いモチベーションで試合に備えた。
主力2選手欠場も、前半は主導権
レノファは今節、ボランチの高宇洋がU-22日本代表のメンバーに追加招集、センターバックやサイドバックで出場してきた前貴之が累積警告で出場停止と、主力二人が不在。これに対応するため、トップ下でプレーする機会が増えていた三幸秀稔をボランチに下げ、センターバックには楠本卓海を置いた。また、攻撃陣も顔ぶれや立ち位置を変更。山下敬大を左のアタッカー、左利きの田中パウロ淳一を右のアタッカーとして起用し、これまでとは左右を入れ替えたポジションでピッチに送り出した。
前半はレノファが従来通りの高めのラインを継続。山下と田中パウロはタッチライン沿いまで広がり、縦に狭く、横に広いレノファらしい四角形の中にフィールドプレーヤーを配置する。ただ、サイドの攻防では山下と田中パウロが相手のウイングバックに常に厳しくマークを受け、必ずしも自由にはプレーできなかった。
それでもサイドを張ることで「その分、ほかのところが空いてくる。大聖(宮代大聖)やジョージ(池上丈二)が真ん中でフリーになることもあった」(三幸)。サイドでボールを動かす時間は長いとは言えなかったが、レノファはサイドに起点を持って行けずとも、中央のラインを生かしてチャンスメークする。
前半29分、中央を駆け上がったセンターバックの菊池流帆が敵陣から左サイドにボールを流すと、川井歩が再びペナルティーエリアへとパスを送り出す。このパスを受けたのがゴールから遠ざかっていた宮代大聖だった。宮代はボールを山下に預けて動き直し、再び回収したパスから右足で鋭くゴールに突き刺した。
「サイドからの斜めのパスは試合中、ずっと狙っていた。いい形で受けられた」。そう話す宮代の一撃でレノファが先制。その後も中央で池上や三幸がボールを受け、ミドルシュートで相手ゴールに迫っていく。
同42分にはその池上がミドルレンジからゴールの右隅方向へとシュートを放つ。これはGK櫛引政敏がファインセーブするが、「こぼれると信じて走り込んだ」と右サイドからペナルティーエリアの中へと走り込んだ石田崚真が詰め、ゴールイン。レノファはこの段階でスコアを2-0とした。
山形も攻め手を欠いていたわけではなく、レノファのセンターバックとサイドバックの間やバイタルエリアで坂元達裕がボールを引き出し、そこから次の展開を作ろうとしていた。ただ、ラインを高く設定していたレノファのアプローチが厳しく、ボールを運びながらも前半のシュートは4本に抑え込まれた。
連続3失点。サッカーが消極的に
前半を終えて2-0。よく言われる「危険なスコア」が、本性をむき出しにするまでは時間は掛からなかった。
山形は後半の開始から選手を入れ替え、FWの大槻周平を下げて、井出遥也を投入する。これが結果的には奏功する。
ハーフタイムでレノファの霜田監督は「相手のシャドーの選手に自由にプレーさせない」ことを指示し、引き続いて高いライン設定を保つようにする。前半は坂元にこそボールを触られたものの、大槻と山岸祐也の自由は奪えていたレノファ。それと同じ状況を継続するため、あらゆるエリアでプレッシャーを掛け続けたが、徐々に相手の1トップ2シャドーにボールを渡してしまう。
後半9分にクリアミスを突かれて山形のカウンターを食らい、山岸に1点差に詰め寄るゴールを許す。レノファは後半のスタート直後こそ攻守両面に勢いがあったが、この時間帯からリズムが崩壊し、地に足が着いたサッカーとは言えない状況になっていく。
主因は、特徴の違う選手が入り対応が後手になったこと。1失点した段階ではまだ対応する方法はあったが、リードしているという状況や相手の迫力に圧され、最終ラインが低下。攻撃の開始地点も低くなり、長めのボールが増えてパスのクオリティーも落ちるという悪循環に陥った。
同28分にもカウンターから少ない人数で攻め込まれると、井出がシュートを放ち、そのこぼれ球に再び山岸が右足を振ってネットを揺らし、スコアは2-2の同点となった。
山岸のゴールショーは止まらず、4分後にも、右から入ったクロスをフリーで受け、右足のシュートがゴールの右隅を突いた。これでハットトリック。山形から見れば2点差のビハインドをはねのけ、連続ゴールで試合をひっくり返した。
レノファは最終盤は最終ラインを2枚にまで削り、レノファユースに所属している16歳の河野孝汰を投入して前線を2トップ2シャドーにする。しかし、集中して守る山形のブロックをこじ開けられず、試合は2-3で閉じた。レノファは順位を一つ下げて15位に降下。山形は勝ち点3を手にし、他会場の結果、自動昇格の可能性は消えたが、プレーオフ圏内を維持した。
ピッチ上での「判断」の難しさ
試合後に三幸は次のように振り返った。
「ワントップに引っ張られないでシャドーにラインを揃えようと言っていたが、後半はワントップに引っ張られてラインが下がり、自分たちのゴールの近くでプレーしなければならない感じになった。どこかで前にリスクを掛けなければいけなかったが、重心が後ろになっていた」
その上で、ピッチ内で「修正できなかった」ことをチームの反省材料に挙げた。これまでの試合であれば、前と高がパートナーとなって様々な判断を共有してきたが、二人が不在のゲームでは、三幸だけで状況を変えるのは難しかった。ただ、前半はいつもよりはバタバタしたとはいえ主導権を握る時間も長く、2得点を手にしたのも事実。霜田監督は「前半は素晴らしい試合ができた。後半にひっくり返されたのは、彼ら(前と高)がいないという言い訳は通用しない」とも話した。
とはいえ、後半のゲーム展開は、周りから見れば「前がいれば」「高がいれば」とたらればを言いたくなるような状況でもあった。ラインを上げたり下げたりする判断、リスクをどこで背負うかの判断も、今シーズン後半戦は前、高、三幸を軸としたセンターラインが担ってきた。外からの指示を待たずに彼ら自身が判断した場面は多く、そういう判断の成功体験や失敗が、彼らの成長を促した側面もあった。
主力が不在であれば、判断を代役となった選手がしなければならない。だが、この試合では正しい判断も、誤った判断であっても、それは十分にはできなかった。悪循環を断ち切れず、1点差の敗戦ながら、完敗に等しい負け。前半の出来をたたえた指揮官も「今季を象徴するような試合になった。若いディフェンスラインが、リズムが悪くなったとき、相手のペースになったときに跳ね返し、自分たちのリズムをもう一度取り戻せるか。そういうゲームコントロールのところで幼さが出た」と無念がにじんだ。
引退を決めた坪井慶介にとっては現役生活最後のホームゲームとなり、試合後には引退セレモニーも開かれた。しかし今節の試合出場はかなわなかった。本来なら2-0のままで試合を進め、クローザーで坪井をピッチに送り出してゲームを締めたかったが、悔しさばかりが募る試合展開になった。
坪井のプロ生活に残された試合時間はあと90分。大ベテランは次の1週間も今まで通りの準備を貫く考えを示し、「最後まで全力で、プロとしてやっていきたい」と誓った。次戦のシーズン最終戦は徳島県鳴門市で徳島ヴォルティスと対戦する。J2の最終節は全11試合が一斉に行われ、各会場とも11月24日午後2時キックオフ。