イスラエルが好き勝手できる時代は終わりつつある?!パレスチナICC加盟の衝撃、安倍外交も問われる
戦争だからと言って何をやってもよいのではなく、民間人や医療関係者への攻撃、民間施設の破壊などの行為は、ジュネーブ諸条約などの国際人道法で禁じられている。それにも関わらず、イスラエルは、昨夏のガザ攻撃のように、民間人の殺害、街ごと殲滅など国際人道法違反の戦争犯罪を繰り返しながら、お咎め無しだ。それは、イスラエルが国際的な批難を浴びても同国の後ろ盾は米国であり、国連安保理でもイスラエルに不利な決議に対し、安保理常任理事国である米国がことごとく拒否権を発動し、葬ってきたからだ。だが、イスラエルが国際人道法を無視して「好き勝手」できる時代は終わりつつあるのかもしれない。この4月、パレスチナがICC(国際刑事裁判所)に正式加盟したからだ。そして、それはイスラエル・ネタニヤフ政権との関係を深める安倍政権の外交姿勢も問うものでもある。
○ICC(国際刑事裁判所)とパレスチナ加盟の意味
ICCとは、集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪などの重大犯罪を犯した個人を、国際法に基づいて訴追・処罰するための国際刑事裁判機関(本拠地オランダ・ハーグ)。'02年にその設立条約が発効、'03年にその活動を開始した。直接的に犯罪を犯した人物だけでなく、重大犯罪を行わせた指導者の責任を問えることが大きな特徴で、'09年には、スーダン・ダルフール地方での虐殺について、同国のオマル・アル=バシール大統領に対する国際逮捕状をICCが発令している。
ICCが裁く重大犯罪
【ジェノサイド罪】特定のグループを狙った集団虐殺や集団レイプなど。
【人道に対する罪】拷問や、女性や子どもの人身売買、国家や政治組織により
行われる強制的な逮捕や誘拐など。
【戦争犯罪】武力紛争下において罪のない一般市民の殺害、学校や病院などの
軍事目的ではない建物への攻撃など。
注:「侵略の罪」についても、2017年以降、管轄権を行使できるとされる。
一般に、ICCは、ICC設立条約(ローマ規程)を批准した国々の領域内で行われた重大犯罪について管轄権を持つ*1。つまり、ICC加盟によりパレスチナは、西岸地区やガザ地区でのイスラエルの国際人道法違反をICCに提訴できるようになったのだ。また、パレスチナは昨年6月にまでさかのぼって提訴できるため、当然、昨年7月から8月にかけてのイスラエルによるガザ侵攻(「境界防衛作戦」)もその捜査対象となり、既に、ICCは予備調査を開始している。
○ICCに追及されうるイスラエルの国際人道法違反
イスラエル軍による昨夏の「境界防衛作戦」は、筆者も現地で取材していたが、正に戦争犯罪のオンパレードだった(動画を参照)。以下、「境界防衛作戦」におけるジュネーブ条約第一追加議定書違反だ。
- 軍事目標主義(軍事行動は軍事目標のみを対象とする基本原則)の確認(第48条)、民用物(要するに軍事用以外の全ての物、施設)の攻撃の禁止(第52条1)
・ガザ市東部のシュジャイヤ地区、ガザ南東部のフザ村などで住宅地が壊滅的被害。
- 医療組織の尊重・保護(第12条)、医療用車両の尊重・保護(第21条)
・ガザ攻撃において、ヨーロッパ病院、アルアクサ病院、シファ病院などがイスラエル軍の攻撃により、被害を受けた。ガザ北部のエル・ワッハ病院は完全に破壊されてしまった。
・救急車が幾度も攻撃され、救急隊員が多数死傷。
- 文民に対する攻撃の禁止(第51条2)、無差別攻撃の禁止(第51条4-5)
・人々の避難場所となっていた国連管理の学校がベイトハヌーン、ジャバリヤ、ラファの3ヶ所でイスラエル軍の攻撃を受け、女性や子どもが死傷した。ベイトハヌーンの国連学校に避難していた、マナール・アルシンバリさん(14 歳)は両足を失う大怪我をし、彼女の母親、姉妹も死亡した。
・一時停戦となったイードの日(断食月の最終日の祝日で日本で言えば正月にあたる)にイスラエル軍はビーチ難民キャンプで子ども達を狙って攻撃、7人を殺害した。
・ガザ中部ブレイズ難民キャンプで民家がイスラエル軍のF-16戦闘機に空爆され、ジャベル一家22人が殺された。
- 文化財及び礼拝所の保護(第53条)
・ガザ各地でモスクが破壊された。
- 文民たる住民の生存に不可欠な物の保護(第54条)
・発電所の攻撃で市民生活に重大な悪影響が及んでいる。
問題となるのは、ガザ侵攻だけではない。国際人権団体「特定非営利法人ヒューマンライツ・ナウ」事務局長の伊藤和子弁護士は、こう指摘する。
「ガザ地区への封鎖はジュネーブ第4条約の第33条で禁じられている『集団懲罰』にあたります。イスラエルがヨルダン川西岸地区および東エルサレムで行っている入植地建設は、同49条の6『占領地への文民の移送の禁止』に違反するし、入植地の建設を伴うパレスチナ人の家屋破壊は同53条に違反します。イスラエルとヨルダン川西岸地区の停戦ラインを越えて建設されている分離壁も、国際司法裁判所が'04年に勧告的意見として『国際法違反』『建設停止すべき』と判断を示しました。そもそも、イスラエルのパレスチナ占領自体が国連決議242号に反しています*2」
○問われる安倍外交―ネタニヤフ首相に逮捕状も?
ICCがイスラエルの国際人道法違反を追及し、違法性があると認めた場合、ベンヤミン・ネタニヤフ首相らイスラエルの政府関係者に国際逮捕状が発令されることもあり得ないことではない。そこで問題となるのが、安倍政権とネタニヤフ政権の接近である。昨年5月、安倍首相は来日したネタニヤフ首相と握手を交わし、今年1月には安倍首相がイスラエルを訪問、ネタニヤフ首相と会談。防衛分野も含めた関係強化を進めている。だが、ICCがイスラエル政府関係者への国際逮捕状が発令されたら、どうするのか?日本も含むICC設立条約の批准国は、当然、ICCの国際逮捕状に協力する義務がある。まして、日本はICCの最大の財政的支援国である。昨年5月に安部首相がNATO加盟28か国の常駐代表の前での演説で「ICCの役割を重視する」と言及した通り、日本がICCの国際逮捕状を無視することは許されない。そもそも、真に日本が戦争犯罪などの重大な犯罪を許さないのであれば、ここ最近の安倍政権のイスラエルへの急接近自体、おかしなことなのである。
国際な動きを観れば、これまでイスラエルを支持、あるいは批判を避けていた国々ですら、イスラエルとの距離をおいている。例えば、EUは再三の批判にもかかわらず入植地建設を続けていることを問題視し、対イスラエル経済制裁も検討しているのだ。最大のイスラエル擁護国である米国ですらも、先月19日、オバマ大統領はネタニヤフ首相の「自分の任期中にはパレスチナ国家を樹立させない」という発言を批判、対イスラエル政策の見直すことを表明した。
パレスチナや中東周辺国との紛争を繰り返してきたイスラエルに対しては、世界のイスラム諸国で強い反発がある。これまで擁護してきた欧米ですら、イスラエルとの距離を置く中で、安倍政権がネタニヤフ政権との関係を強化し続けるならば、それ自体がテロリスクになりかねない。そのような意味で、ICCがイスラエルの戦争犯罪をどこまで追及するか、またそれに対し、どう対応するかは日本にとっても他人事では無いのだ。
(了)
*1
ICCを批准していない国の個人が加害者であっても、国際社会の平和と安全を脅かす状況だとして、国連安全保障理事会がその事態をICCで裁くことを依頼した場合は、ICCはその容疑者の起訴、裁判を行うことができる。ただ、パレスチナがICCに加盟する以前は、イスラエルの戦争犯罪を裁くことをICCに付託させようにも、安保理で米国が拒否権を発動することが予想できたため、実現性に乏しかった。また、パレスチナが'08年末から'09年1月にかけてのイスラエル軍によるガザ侵攻について、ICCの検察官に捜査を求めた当初は、「パレスチナは国家ではない」として受理されなかったが、2012年11月末に国連総会で準国家的な「オブザーバー国家」としてパレスチナが認められたため、ICC設立条約をパレスチナが批准することが可能となった。
*2
国連決議242号(1967年11月22日)の抜粋
一、 検証の諸原則を満たすためには、つぎの二原則の適応をふくむべき
二、中東の公正かつ永続的平和の確立を必要とすることを確認する。
(i) 最近の紛争において占領された領土からのイスラエル軍隊の撤退。
(ii) あらゆる交戦権の主張ないし交戦状態の終結、ならびに同地域の
すべての国の主権、領土保全および政治的独立および武力による威し
又は武力の行使を受けることなく安全な、かつ承認された境界の中で
平和に生存する権利の尊重と確認。
二、 さらにつぎの諸点の必要性を確認する。
(a) 同地域における国際水路の航行の自由を保障する。
(b) 難民問題を公正に解決すること