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新型コロナワクチン未接種の妊婦、9割がワクチン接種を希望 〜国内大規模インターネット調査から〜

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

妊娠中の新型コロナウイルス感染に注目が集まっています。

そのような中、国内の妊婦のコロナワクチン接種状況に関するデータは公開されておらず、現状を把握することが難しい状況でした。

本日、JACSIS研究妊産婦調査分析特別チームから、「妊婦の新型コロナウイルスワクチン接種希望の調査―未接種者の9割がワクチン希望―」というタイトルの調査レポートが出されました。

本レポートについて、詳しく解説します。

*なお、JACSIS研究チームとは、新型コロナウイルス感染症の問題を含めた住民の生活・健康・社会・経済活動の実態に関する調査・データ分析を行い、科学的根拠に基づいた「住民の健康と社会活動を守る」ための現実的な社会経済的救済策や健康増進策の立案につながる情報提供を行う研究者チームです。(詳細はウェブサイトをご覧ください)

全国47都道府県に住む妊婦1,621名への調査

2021年7月28日から8月31日にかけて、全国47都道府県に住む妊婦1,621名に対し、インターネット調査(*)が実施されました。

回答時の妊娠週数の内訳は、妊娠28週未満が356名(22.0%)、妊娠28週以降が1,265名(78.0%)でした。

居住地域の分布については、北海道・東北地方が151名(9.3%)、関東地方が581名(35.8%)、北陸・甲信越地方が85名(5.2%)、東海地方が212名(13.1%)、関西地方が311名(19.2%)、中国・四国地方が126名(7.8%)、九州・沖縄地方が155名(9.6%)でした。

なお、本研究は倫理審査の承認を受けており、倫理面にも配慮した上で実施されています。

* 日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題による社会・健康格差評価研究 The Japan COVID-19 and Society Internet Survey: JACSIS study 2021

どのような結果がわかったの?

主な結果として、以下の2点が報告されています。

(1)回答者のうち217名(13.3%)が既に新型コロナワクチン感染症に対するワクチン接種を行っていた(1回接種のみ、2回接種のどちらも含む)

(2)ワクチン接種を行っていないと回答した1,404名にワクチン接種の希望を質問したところ、「接種したい」が579名(41.2%)、「様子を見て接種したい」が689名(49.1%)、「接種しない」が136名(9.7%)だった

以上から、

・約13%の妊婦ではすでに1回または2回の接種を済ませている

・未接種者のうち、約90%の妊婦が接種を希望している

ということがわかりました。

これまでに妊婦のコロナワクチン接種率に関する大規模な調査報告はなかったため、貴重なデータと考えられます。

すでに13%の妊婦が接種を一回以上済ませ、未接種者のうち90%は接種を希望していることから、今後の接種提供体制の整備が進むにつれ、接種率の増加が想定されます。

「接種したい」の理由は?

未接種者のうち、「接種したい」と回答した妊婦は約4割でした。

その理由は、多い順に以下の通りでした。

「新型コロナウイルス感染への心配」 95.2%

「家族や周りの人に感染させたくないから」 92.2%

「副反応のリスクより、感染の重症化の方が心配」 85.1%

「接種することが社会にとって必要だと思うから」 76.5%

やはり、「新型コロナウイルス感染への心配」という声が最も多く、同じくらいに「家族や周りの人に感染させたくないから」という声が多いようです。

また、妊娠中で様々な不安を抱える中でも、「接種が社会全体にとって大事なこと」と考えている方も多いことがわかりました。

なお、コロナにかかると妊婦は重症化しやすい(気管挿管など)ことが明らかになっています。

そして、実際のデータから、ワクチン接種による妊娠中の母体重症化予防効果は非常に高いことが英国の報告などからわかってきています。

「様子を見て接種したい」の理由は?

未接種者のうち、「様子を見て接種したい」と回答した妊婦は約半数を占めていました。

その理由は、多い順に以下の通りでした。

「胎児への影響が心配」 85.3%

「副反応が心配」 83.6%

「授乳への影響が心配」 67.6%

「家族や周りの人への感染が心配」 58.3%

「新型コロナウイルス感染への心配」 49.8%

妊娠中であり、胎児や副反応が心配になるのは当然だと言えるでしょう。

しかし、これまでのデータから、コロナワクチン接種によって

  • 初期の流産は増えていない
  • 胎児の先天異常は増えていない
  • 妊娠中や授乳中の接種は、抗体が移行することで生まれてきた子どもをコロナから守ることが期待されている
  • 副反応は特に妊婦だからといっておきやすくない

ことなどがわかってきています。

なお、海外各国の公的機関に加え、日本の厚生労働省のウェブサイト「新型コロナワクチンQ&A」でも、こうした妊産婦に対するコロナワクチンの安全性についてきちんと解説されています。

過去のワクチンに関するデータを踏まえると、「様子を見て接種したい」という方は、接種者が増えていくほどに「自分も接種しよう」と考える傾向があるため、まずは接種を希望している妊婦がスムーズに接種できる体制を作っていくことが重要だと考えられます。

正しい情報をもとに安全性をわかりやすく伝えていくことが必要

本調査レポートの考察では、以下のように記載されています。

本調査では、「様子をみて接種したい」と回答した理由において、胎児や授乳への影響や副反応を心配している割合が高く、今後正しい情報をもとに安全性をわかりやすく伝えていく必要があります。

また、レポート内には日本産科婦人科学会厚生労働省の新型コロナワクチン接種に関するウェブサイトが、信頼できる情報源として紹介されています。

心配なことがある妊婦さんやそのご家族の方は、ぜひこれらの情報源をご参照ください。

以下の記事にも、信頼できる情報源を整理しています。

【2021.9/4版】妊産婦を含む女性の方へ 信頼できる新型コロナウイルスの情報まとめ

本レポートの内容は、現在論文作成中のため、正式な学術論文としてではなくあくまでも参考情報として取り扱うべきではありますが、日本において貴重な報告だと言えるでしょう。

まだワクチン接種をしていない妊婦の皆さんも、こういった情報も参考にして、ワクチン接種をぜひご検討ください。

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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