中露を競い合わせる北朝鮮 韓国には真似できない北朝鮮の「天秤外交」
中国の趙楽際・全国人民代表者会議(全人代)委員長が2泊3日の訪朝を終え、4月13日に帰国した。趙委員長は中国共産党では習近平主席、李強総理に注ぐ序列3位の政治局常務委員である。
中国最高幹部の訪朝に北朝鮮は党序列4位の政治局常務委員である崔龍海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長が平壌空港で歓送迎するなど接待役を担い、金正恩(キム・ジョンウン)総書記も接見し、盛大な昼食会を催していた。中国共産党の最高指導部の訪朝は2019年6月の習主席以来で約5年ぶりであるだけに北朝鮮が熱烈歓迎するのは当然のことである。
今朝の「朝鮮中央通信」によると、趙委員長は習主席のメッセージを伝え、これに対して金総書記は中国が国交樹立75周年に当たる今年を「朝中(中朝)親善の年」と宣布し、高位代表団と芸術団を派遣してくれたことに感謝の意を表していた。
趙楽際委員長の訪問目的について中国では12日に平壌の東平壌大劇場で開かれた「朝中親善の年」の開幕式に出席するためとされているが、北朝鮮は中国には同様の代表団を派遣していない。北朝鮮の高官、もしくは金総書記が近々、訪朝するならば話は別だが、現状では中国の一方通行のようにみえてならない。
中国は昨年も7月の朝鮮戦争休戦協定締結70年記念式典に李鴻忠・全人代副委員長を派遣していた。この時はロシアからもショイグ国防相が国防省代表団を引率し、訪朝していたこともあって北朝鮮は李副委員長よりもショイグ国防相を優遇していた。金総書記が自らショイグ国防相を兵器展示館に案内し、説明役を買って出ただけでなく、記念報告大会では両国の貴賓を招きながらショイグ国防相にのみ演説させるなど終始、ショイグ国防相を特別扱いしていた。北朝鮮の対露重視の表れであることは言うまでもない。
その後、金総書記が9月に訪露し、またラブロフ外相が翌10月に訪朝したこともあって、気が付けば、北朝鮮にとっての友好国のトップの座が中国からロシアに取って代わっていた。そのことは今年1月、金総書記が外国の首脳らに年賀状を送った際に朝鮮中央テレビが真っ先に名前を読み上げたのがプーチン大統領であったことで判明した。それも「ロシア連邦のウラジーミル・プーチン大統領に新年祝賀の挨拶を送った」と別格扱いしていた。習主席はその次に他の首脳と一緒に名前が読み上げられていただけだった。ちなみに昨年までは習主席が常にトップだった。
露朝は今まさに、史上最良の関係、蜜月関係にある。
今年も1月に崔善姫(チェ・ソンヒ)外相が訪ロした際にはプーチン大統領は異例にも接見し、また、2月には安保理制裁決議を無視し、「ロシア版ロールスロイス」とも呼ばれているロシア初の高級ブランド車「アウルス(Aurus)」をプレゼントしていた。金総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長はこの贈り物について「朝露両国の首脳の間に結ばれた格別な親交の明白な証左となり、最も立派な贈り物になる」と述べていた。
その後も、「平壌市の金秀吉(キム・スギル)党責任書記を団長とする代表団がロシアの政権与党「統一ロシア」主催の国際会議に出席したほか、水産省代表団や体育代表団が続々とモスクワ入りし、ロシアからも先月には文化省代表団がマリインスキー劇場沿海地方分劇場芸術団を引き連れ平壌に入り、また、対外情報局セルゲイ・Ye・ナルイシキン局長を団長とするロシア連邦対外情報局代表団も訪朝していた。
露朝の急接近について中国外交部は終始一貫「ロシアと北朝鮮の両国の問題である」と、当たり障りのないコメントを繰り返しているが、北朝鮮の優先国順位で2位にランクを下げた中国としては内心穏やかでいられないはずだ。
そのことは、先月(21日)訪中した党政治局員でもない党序列20前後の金成男(キム・ソンナム)政治局員候補・国際部長を中国はカウンターパートナーの劉建超党対外連絡部長以外に党序列4位の王滬寧人民政治協商会議全国委員会主席、党序列5位の蔡奇党書記処書記、それに王毅中共中央外事事業委員会弁公室主任らが相次いで会うなど、異例の対応をしていたことからも明らかだ。
そして、今回、党序列3位の最高幹部の一人を送りこんだほか、平壌で「眠れる森の美女」を披露したロシアのマリインスキー劇場沿海地方分劇場芸術団に対抗するかのように中国もまた、中央民族楽団を送り込み、金総書記が鑑賞した特別公演では最後に「朝中友好は永遠なり」を合唱し、中朝友好ムードを盛り上げていた。
そうした努力の甲斐もあって、今朝の朝鮮中央通信のホームページの画面には新たに「朝中親善の年 2024年」の特別コーナーが、それも「歴史的転換期を迎えた朝露関係」の上に設けられていた。
中朝は会談する度に「戦略的な意思疎通を緊密にする」ことを謳っているが、現実とはかけ離れている。例えば、核保有宣言から南北対話及び統一放棄の北朝鮮の決定は中国と相談なく、行っている。習主席が2019年6月に訪中した際に金総書記は「非核化への意思は変わっていない」と話し、「韓国との和解・協力を推進する用意があり、朝鮮半島での対話の流れは変わらない」とのメッセージを出していたが、今の北朝鮮がやっていることは中国からすれば完全に信義に反する行為である。
北朝鮮もまた、国連安保理対北制裁委員会の専門家パネルの延長にロシアが拒否権を行使したのに中国は同調せず、棄権に回ったことや中国が今なお、朝鮮半島の政策として南北対話による平和統一を堅持していることに不快感を持っている。まして、北朝鮮に敵対的な日中と5月に韓国で首脳会談を開催する動きにも苛立ちを隠していない。
そうした微妙な時期に中国が国交樹立75周年記念日(10月6日)の半年前に序列3位の最高幹部を派遣したのは24年ぶりとなるプーチン大統領の訪朝を意識していることは言うまでもないが、仮にトランプ前大統領が11月の大統領選で勝った場合、来年米朝首脳会談が再開される可能性も想定し、その前にもう一度、北朝鮮との関係を強化し、引き付けておく必要性が生じたからではないだろうか。
中国には北朝鮮が2018年の南北首脳会談も、史上初の米朝首脳会談も中国に事前通告しなかったことへのトラウマがある。当時、南北首脳会談と米朝首脳会談を習主席に伝えたのは戦略的意思疎通の関係にはなかった韓国の特使であった。
中国としては2018年に以来、訪中していない金総書記を年内に呼び寄せたいところだが、仮にNo.3の訪朝でその確約を取っているならば、遅かれ早かれ北朝鮮の友好国1位の座に返り咲くのではないだろうか。
中国とロシアを巧みに張り合わせている北朝鮮の外交手法は韓国にはとても真似できそうにはない。