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もはやPTAを禁止する法律が必要か?「やめたらどうなる問題」を考えた

大塚玲子ライター
登壇者の木村草太さん、加藤薫さんから、次々と大砲が放たれた(画像:筆者作成)

任意加入と言いながら、退会すると「お子さんに卒業式の紅白まんじゅうをあげられなくなる」と言われたり(筆者はこれを“まんじゅうプロブレム”と呼ぶ)、なかには近所の子と集団で学校へ通う“登校班”から子どもが排除されたりすることもあるPTA。

どうしたらいいかみんなで考えようと、10月27日(土)サイボウズBarにて、イベント「やめたらどうなる?PTA【PTAを自由に考える】」(共催:サイボウズ株式会社、ハフポスト)を企画、開催した。

登壇者は、かねてPTA強制の違法性を指摘してきた憲法学者の木村草太さん(首都大学東京教授)と、日本文化の視点等からPTAの問題に長く取り組んできた加藤薫さん(文化学園大学教授)と、筆者・大塚玲子(PTAジャーナリスト)の3人。

会場には、PTAをやめた保護者、PTAの問題改善に取り組む保護者のほか、PTA担当の先生や教育関係者など幅広い参加者が集まった。トークセッションは、ハフポスト泉谷由梨子さんの司会で進行。以下、その模様をレポートする。

*ポイントは「非会員の子どもへのいじめをなくすこと」

「もうPTAを作るのを禁止する法律でも作ってはどうか? いいことをやっているかもしれないが、最近見ていると弊害のほうが大きい。任意なのに任意にならないのだから、禁止するしかないのでは

開始早々、木村草太さんが大砲を放ち、会場に笑いが広がった。冒頭、本イベントの企画者の一人である石原慎子さんが話した「病気で点滴を打ちながら、暗い顔でPTA活動をやっていたお母さん」や、加藤薫さんが話した「登校班はずし」のエピソードを受けての発言だった。

「これだけ法的な問題が指摘されても変わらないのに、何を根拠に、強制をやめられると思うのか?」と畳みかける木村草太さんに、たじろいだ。

筆者も正直なところ「こんなに言っても変わらないのだから、無理なのか?」と思うことはある。でも、ここ数年で徐々に空気が変わってきたことも感じてはいるので、時間をかければ変われるのでは? と思うが、根拠はない。そう答えた。

一方、排除された経験をもつ非会員保護者の声に耳を傾けてきた加藤薫さんは、「PTAは任意加入になった時点で成り立なくなって消滅するだろう。これだけはやらなくちゃいけない、というものがPTAには何もないからだ。保護者懇談会さえあれば、PTAは必要ない」と発言。ぼかんぼかん大砲が飛ぶ。

木村さんは「心からやりたいと思っている人が、子どものためのボランティア団体を結成するのを禁止したら、それはそれで憲法違反になる」としたうえで、「ポイントは非会員の子どもへのいじめをなくすこと」と指摘。

以前、私立校のPTA(保護者会)で起きたコサージュ裁判(卒業式で子どもが胸につける花飾りを非会員の子にあげなかったため保護者が提訴)を振り返り、「(PTAは)半ば学校と一体化していながら、裁判では私的な団体としてふるまうので、裁判で勝つのは簡単ではない」と発言。

その上で「保護者が学校内で特定の子どもを排除した場合には、学校長から指導ができるように、法律上の根拠をつくったほうがいい段階にきているのでは」と話した。

以下、参加者からの質問と、これに対する登壇者の回答を抜粋で紹介しよう。

Q「学期途中で地方から東京の学校に転校したところ、校長名でPTA会費の督促状が届いて驚いた。問題はないのか?」

木村草太さん回答「この場合の督促状は無効。法的に意味がない。校長の名前で出すというのは、PTA会員の一人としてならあるかもしれないが、学校長として督促を出すのは、職権乱用になり得る。もしあまりやり方がひどい場合には、警察に相談を」

Q「PTAの問題について教育委員会などに問い合わせても、責任の所在がはっきりしない。各学校のやり方に任せています、と言われるばかり」

加藤薫さん回答「このような回答は多かったが、最近は滋賀県大津市、埼玉県、さいたま市等の教育委員会が『無理な役員選考をしないように』『退会者の子どもへの扱いが変わらないように』などと注意を促す通達や手引書を管理職に対して発行している。今後もし無責任な対応を続ける教委があれば、こういった事例を伝え、きちんとした対応を求めてはどうか」

参考)PTAの違法・強制から保護者を守る! 教育委員会のお助け「通知」を一挙公開

出典:Y!ニュース

Q「(学校の先生から)PTA関連で、学校や教員にしてほしいことは?」

大塚回答「強制加入は、学校がもつ保護者の個人情報をPTAの用途で使うから可能になる。学校は黙認をやめてほしい、そうすれば強制加入はなくなる。もし学校の手伝いをPTAに頼むなら『無理に人を集めなくていい』と添えてほしい。保護者は学校が思うより強く受け止めるため、『病気でも、仕事を休んでも、必ず来い』と他の保護者に強制することになりやすい」

Q「今年の夏、クーラーがついていない学校が問題になった。PTAの力が弱まっているからではないか」

木村草太さん回答「そんなわけはない、要望は個々で出せばいい。1本の電話より、40人が学校に電話したほうが効果はある。逆にPTAがあるから、保護者と学校がなあなあの関係になり、要望を出せなくなっている面がある。PTA会費でエアコンをつける学校もあるが、有志でもやろうと思えばできること」

加藤薫さん回答「PTAがエアコンの要望を出してこなかった結果が、現状ともいえる。組体操で子どもが怪我をしたり死亡する事故がたくさん起きても、PTAは『やめてくれ』という要望を出していない。PTAは学校から体よく使われてきただけで、保護者の意見を教育行政に届けるような役割を果たしてきたとはとても言えない

大塚回答「やってこなかった保護者の怠慢もあるかもしれないが、学校は昔からPTAが意見することを嫌い、阻止してきたという背景もある。40本の電話も学校にはとても効果が大きいと思うが、PTAの要望も(もしあったら)学校は無視しづらいところがあるのでは」

Q「PTAに加入するかどうか聞かれていないまま、給食費の支払い口座から勝手に抱き合わせでPTA会費を引き落とされている。どうしたらいい?」

木村草太さん回答「入会していないのにお金をとられているのであれば、返金を求めたほうがいい。普通は銀行が引き落としをするのには本人の許可が必要。銀行に『PTA会費の分は引き落とさないで』と言えばよい、そうすれば止まる」

加藤薫さん回答「給食費などの学校徴収金とPTA会費を抱き合わせで集める学校は昔から多く、問題になってきた。合計いくら、という形で請求されるので、保護者は『PTA会費を払わない』という選択を極めてしにくくなる。集め方を変えさせたほうがよい」

Q「PTA問題を改善するため村八分状態で奮闘している。仲間をつくるにはどうしたらいいか」

大塚回答「腹が立つのはよくわかるが、みんな悪気がないらしいところが難しい。なるべく感情を横において話を。怒っていると周囲の人も近寄りづらい。みんな薄々今のやり方がおかしいと感じているはずなので、淡々と指摘することをお薦めする」

  • *参加者の杉田誠さん(@makoto_sugita)による記録を参考に記事を作成しました。ありがとうございました
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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