グーグルが挑む「空の無線基地局」初の商用サービス
先ごろロイターは、米グーグルのグループ会社で空の無線通信基地局事業を手がける米ルーン(Loon)が、まもなくアフリカのケニアで初の試験的な商用サービスを始めると報じた。
山村地域に4G通信サービス
ルーンの事業は、気球を高度2万メートルの成層圏に漂わせ、そこから地上に電波を発信し、インターネット接続を提供するというもの。
ケニアでは、同国3位の通信事業者テレコム・ケニアが協力し、いまだネットを利用できない山村地域の住民に対し一般的な料金で、4G通信サービスを提供する。これで多くの国民がネットにつながるようになると当局者は期待に胸を弾ませている。
ルーンはこれまでも、世界各国の通信事業者に自社サービスを売り込んできた。基地局の建設に膨大な費用がかからず、迅速に通信網を整備できるとアピールしている。
しかし多くの事業者は、技術的な課題や事業モデルに懸念を抱き、二の足を踏んでいる。そうした中、ケニアの試験サービスは、ルーン事業の今後の行方を占う試金石になると、ロイターは伝えている。
グーグルの最先端研究開発プロジェクトが前身
ルーンの前身は、グーグルが最先端の研究開発に取り組む組織として設けた、「グーグルX」のインターネット接続環境構築プロジェクト。
グーグルは2015年10月にアルファベットを親会社とする組織再編を行ったが、このときプロジェクトは、アルファベットの先端技術研究事業「X」に移管された。そして昨年7月、自動運転車開発の米ウェイモ(Waymo)と同じく、アルファベットの野心的な新規事業として独立した。
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気球は薄いプラスチック素材で作られており、その重さは75キログラム。これに同じく75キログラムの機器(太陽光発電パネルやアンテナなど)を搭載できる。成層圏で最大限に膨らんだときの大きさはテニスコートとほぼ同じ(縦約24メートル、横約11メートル)。
複数の懸念材料
複数の気球が仮想的につながり、地上の数千台に上る電子機器に通信電波を送ることができる。しかし、現段階では技術的な課題がいくつもあると指摘されている。
例えば、風によって気球の位置が変わると通信が途切れる。また搭載機器に電力を供給するため、年間を通して太陽光が十分に得られる地域に限定される。米国や欧州、中国、南米南部、アフリカなどの多くの地域では利用できないという。
都市の近くでは電波妨害を引き起こす。気球1機の価格は数万ドル(数百万円)で、プラスチックの表皮部分が劣化するため、5カ月ごとに新しいものに交換しなければならない。こうしたさまざまな問題が指摘されている。
料金モデルも、通信事業者に導入を躊躇させている要因だとロイターは伝えている。ルーンは電波のカバーエリアに応じた固定料金とデータ利用量に基づく追加料金を提示している。これに対し、通信事業者は加入者数に基づく料金体系を望んでいるという。
- (このコラムは「JBpress」2019年7月3日号に掲載された記事をもとに、その後の最新情報を加えて編集したものです)