4マス全体への業種別広告費の10年間の変化をさぐる(変化率や特定業種動向)(2024年公開版)
電通は2024年2月に日本の広告費に関する調査報告書「2023年 日本の広告費」を発表した。その内容を基に広告を出稿した業種の4マス(4大従来型メディア。テレビメディア、ラジオ、新聞、雑誌。今件記事ではテレビメディアにおいて衛星メディア関連は除かれている)全体における広告費の10年間での変化を確認する。
直近分となる2023年における媒体別広告費を10年前の2013年分と併記したのが次の図。
単純な総額(4マス限定)では2013年が2兆7825億円、2023年が2兆1909億円と2割強の減少。業種別で増加したのはエネルギー・素材・機械、情報・通信、外食・各種サービス、官公庁・団体の計4業種で、あとはすべて減少。東日本大震災の影響、相次ぐ政変、高齢化の進行(特に団塊世代の高齢化突入)に伴う社会構造の変化、インターネットやスマートフォンの普及によるメディアシフトの流れ、新型コロナウイルスの流行、ロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じた物価高など、劇的な動きが生じたとはいえ、金額面における変容ぶりが改めて認識できる結果ではある。またこの時代の流れでどこまで(4マスへの)広告投資のウェイトが変わったのか、業種別の動向を推し量れる値となっている。
割合でもっとも増加したエネルギー・素材・機械(プラス37.8%)は249.0億円から343.0億円へと94.0億円の増加。具体的には「電気、ガス、ガソリン、紙、鉄鋼、化学材料、農業機器、建設・土木機器、工作機器、店舗用機材など」が該当し、ロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じた物価高(特に資源価格の高騰)が大きく影響していそうな業種ではある。
これを金額ではなく、10年間の経過における増減比率で見たのが次のグラフ。
10年で金額を上乗せできたのは4業種だが、中でも大きな上げ幅を示しているのはエネルギー・素材・機械。下げている業種の下げ度合は一様ではなく、大きな違いを見せていることが改めて分かる。
50%以上の下げ幅、つまり半減以上の減り方を示しているのは上記の通りファッション・アクセサリーと自動車・関連品のみ。しかしその2つ以外にも3割台、4割台の下げ幅を示している業種が複数確認できる。
もっとも、これら下げ幅の大きい業種が、すべて同じ理由によって広告費を落としているとは限らない。業界そのものが不調なもの、インターネット広告をはじめとした4大従来型メディア「以外」との相性がよいものなど、いくつかの理由が考えられる。その内情までは把握できないが、上記のファッション・アクセサリーや自動車・関連品における状況変化のように、推測できるものもいくつか見受けられよう。
変移が気になる業種を4つほど抽出し、2005年以降の動向を記した。また変化が分かりやすいように、それぞれの業種における2005年の額面を基準とし、どれほど増減をしたのかを比率算出したグラフも併記する。すべての業種が金融危機・リーマンショック後に大きな減少を示しており、自動車・関連品や金融・保険はその減少後の復調ぶりも弱く、自動車・関連費はこの数年では再び大きな失速を見せている。飲料・嗜好品は金融危機・リーマンショック後の復調がほとんど果たせず、実質的には失速状態の継続と読める動き。他方、2021年では、情報・通信が劇的な増加ぶりを見せたのをはじめ、飲料・嗜好品、金融・保険も軒並み増加している。しかし2022年以降、情報・通信はまた減少してしまっている。
残念ながら「日本の広告費」では4大従来型媒体以外の業種別出稿額推移は公開されていないので、単に4マスから距離を置き他メディアにシフトしているのか、広告費そのものを減らしているかまでは判断が難しいが、該当業界で広告媒体に対する評価の点において、大きな動きが生じていることに違いはない。
蛇足ではあるが、出版の広告費を抽出した結果が次のグラフ。
金融危機・リーマンショックで大きく下げた状況は他業種と変わらないが、その後上昇の動きがほぼ無い。東日本大震災翌年の2012年にはわずかに上昇しているが、その翌年以降は再び前年比でマイナスを継続。そして新型コロナウイルスの流行が始まった2020年の翌年となる2021年もわずかに上昇しているが、これも反動によるものに過ぎず、その翌年以降は再び前年比でマイナスを継続。飲食・嗜好品と動きが似ており、多分にインターネット広告へとシフトしているものと考えられる。同時に出版業界の苦しい実情もうかがいしれよう。
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