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福田麻由子が『蒲田前奏曲』に出演。名子役からバイトも経験して「1周回ってまた頑張りたいと思いました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜 メイク/藤原玲子 ヘア/YAMA 衣装協力/Ray BEAMS

小学生の頃、『女王の教室』や『白夜行』など様々な作品に出演し、天才子役として名を馳せた福田麻由子。現在は26歳。20歳の頃に一線を離れた時期もあったが、近年は朝ドラ『スカーレット』などで、より深みを増した演技を見せている。公開中の映画『蒲田前奏曲』では結婚願望の強い女性役。今、彼女は女優業にどう向き合っているのか?

昔ながらの女性らしい考え方はしないタイプです

『蒲田前奏曲』は女優の松林うららが企画・プロデュースした、4作品から成る連作長編。福田が出演した第2番『呑川ラプソディ』は、松林が演じる売れない女優・マチ子が大学時代の友人4人と久々の女子会をするストーリー。福田が演じた麻里は人生で初めてできた彼氏との結婚を控えている。

――『蒲田前奏曲』の舞台の蒲田に馴染みはありました?

福田  正直、全然なかったです。『呑川ラプソディ』の撮影は2日間で、最初に蒲田温泉にみんなで浸かったので、私にとって蒲田は完全にあの温泉のイメージになりました(笑)。

――蒲田に温泉があるのも意外でした?

福田  蒲田温泉は聞いたことはありました。黒湯が気持ち良かったです。

――銭湯は初体験?

福田  私、銭湯は好きで、よく行きます。地方ロケなどでは撮影が早く終わっても飲みに行くタイプではないので、その土地のスーパー銭湯に行くのが楽しみだったり、家の近所の470円の銭湯にも行きます。

(C)2020 Kamata Prelude Film Partners
(C)2020 Kamata Prelude Film Partners

――家に風呂があっても、あえて?

福田  一人暮らしの家のお風呂だとそんなに広くないので、銭湯はぜいたく感があって好きなんです。月に2~3回は行ってます。

――それで、今回演じた麻里は初めてできた彼氏との結婚が決まって、「お嫁さんになるのが夢」という役でした。

福田  私はあまり、いわゆる女性らしい生き方や考え方をするほうではないので、いろいろな考えを知るために、婚活している方のブログを読んでみたりしました。この映画は基本的に社会の中で“女性らしさ”と言われるものに疑問を提示していて、まりっぺは逆に昔ながらの価値観を持っているので、わかりやすい存在として演じました。かと言って、まりっぺが否定的に描かれてもいなくて。

――そうですね。

福田  「結婚して家庭に入るような生き方は遅れている」という切り口ではなく、キャリアウーマンの帆奈(伊藤沙莉)もまりっぺもフラットに描かれているのが、この映画の素敵なところだと思います。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

結婚が幸せだと自分で選んだならいいと思います

――婚活している人のブログに、演技のヒントはありました?

福田  この作品をやるまでは、私はまりっぺのような生き方に少し否定的な気持ちがありました。でも、幸せは人それぞれですし、自分で考えてそういう生き方を選んだなら、全然いいなと思いました。ブログを読んでいても、そこは分かれるんです。同じように「何歳までに結婚する」と言っていても、それが自分の幸せだと前向きに書いている人の文章はすごく気持ちいい。でも、世間体とか親に言われて「結婚しないと人生のレールを外れてしまう」みたいに考えている人の文章は苦しそうで、読んでいて辛くなる。もう全然違いました。

――麻里は前者だったと。

福田  そうですね。最初はまりっぺも結婚に縛られているのかと思ったら、意外と一歩進んでいて、「自分の幸せはこれだ」って強い意志がありました。ある意味、一番強いですよね。何があっても心を惑わされないで、自分の人生を守ろうとしていて。

――福田さんは以前、「結婚のために仕事を辞めるくらいなら一生1人でいい」と話してました。

福田  基本、そういうタイプです(笑)。

――麻里の台詞にあった「1人ぼっちで死ぬのかと思ったら怖くて眠れない夜」もないですか?

福田  そういう感覚はこの1~2年で、ちょっとわかるようになりました。高校を出て一人暮らしを始めた頃は「自由最高!」みたいに思っていたのが、7~8年経って、たとえば台風の日とか、1人で家にいると心細くなったり。相手は男性でなくてもいいかもしれませんけど、人は1人では生きていけないと、実感しているところはあります。

――福田さんは結婚を壊さないために、相手が浮気しても大目に見たりはします?

福田  絶対あり得ません。そんなの、ビンタしてバイバイです(笑)。キッパリとサヨナラしちゃうと思います。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

子役の頃の出演作は緊張して観られません(笑)

――麻里は手を振ったりする仕草とか話し方とか、かわいらしい感じですね。

福田  そうですね。悪い子ではないんですけど、ちょっと浮いていて。屋上でのパーティーに長いヒラヒラの服を着てきたり、1人で日傘を差していたり(笑)。サバサバした他の女性たちが見ると「ん?」となるようなズレが、コミカルに出ればいいなと思いました。服も典型的なコンサバというより、ちょっと個性的で、世間に合わせているわけではなく、彼女の意志で着ている。結婚したい、家庭に入りたいということで意外と自分を持っているところが、衣装からも感じられたらいいなと。

――かわいらしく振る舞うのは、福田さんの演技の引き出しのひとつですか?

福田  沙莉が演じている帆奈が、まりっぺにちょっとイライラするのが、だんだん楽しくなってきて、面白がってやっていたところもあります(笑)。沙莉にも「すごく楽しそうだね」と言われました。

――伊藤沙莉さんとは子役時代に『女王の教室』で共演してました。

福田  その後にも『霧の火』というドラマで姉妹役を演じました。それが14歳くらいの頃で、今回が12年ぶり。その間にもちょくちょく、共通の知り合いを交えてごはんに行ったり、映画のトークショーで会ったりはしていました。

(C)2020 Kamata Prelude Film Partners
(C)2020 Kamata Prelude Film Partners

――小・中学生の頃に共演して、大人になって、また共演するのはどんな感覚ですか?

福田  やっぱり特別ですね。正直、友だちというほど親しくもないですけど、小学校の同級生って親友ではなくても、大人になってから知り合った人にはない感覚がありますよね。そういう感じの存在です。テレビで沙莉を観ると刺激を受けて「私も頑張ろう」と思っていました。今回共演したら、全然変わってなくて。もちろん、お芝居でいろいろ積み重ねて変わった部分はあっても、『女王の教室』で会ったとき、子ども心に「この人はすごいな」と思ったのは今もそのままだったので、嬉しい気持ちが強かったです。

――『女王の教室』とか『白夜行』とか、自分の子役時代の作品を観ることはありますか?

福田  観ないです。でも、いつか観てみたい気持ちもあります。1年くらい前に、『女王の教室』より前に撮った『ラストプレゼント』を初めて観返したら、お芝居への憧れとか当時のいろいろな感情を思い出して、すごく良い時間になりました。『女王の教室』とかもそろそろ観たら面白いのかなと思いますけど、昔の自分を見るのは緊張するから、なかなか……(笑)。タイミングを見計らっています。

――当時は自信を持って演じていたんですか?

福田  自信とかいうことではなく、いつの間にかこの環境にいて、目の前のことを一生懸命やっていただけでした。

――大人はその福田さんの演技に、涙してました。

福田  本当にただ夢中でやっていた感じで、今、離れたところから観たら、どうなのか? 当時はどんな作品なのか、意外とわかってなかったと思うので、観てみたいですね。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

15年前の作品を覚えてもらえていて嬉しいです

――振っておいてナンですが、子役時代のことを聞かれるのって、ウザかったりはします?

福田  いえいえ、そんなことはないです。正直、高校生の頃はちょっとイヤな気持ちもありましたけど……。自分が大人になっているのに、子どものときの話はしたくない、という。でも、今は何も思わないです。むしろ、15年前とかの作品をいまだに覚えてくださっているのは、本当に嬉しいことだと思います。自分自身が大人になると、昔触れた作品に救われることもあるので。

――確かに。

福田  最近知った作品より、昔から知っている作品が10年、15年と経つと、情が深まるじゃないですか。自分が出た作品がそんなふうに、誰かの心のどこかにずっとあったなんて、すごいことですよね。子どものときにはわからなかった素敵なことが起きているんだと、素直に思います。

――福田さんにとって、そんな作品というのは?

福田  『セクシーボイスアンドロボ』です。中学生の頃に観ていたのかな? DVDボックスを持っていて、いまだに2年に1回は絶対に観ます。仕事で悩んだり、演技で恥ずかしさとか緊張とか要らないものが自分にまとわり付いてきたと感じたとき、観るようにしていて。そうすると、全部がパーッとなくなるんです。きれいな気持ちでお芝居をしたら幸せ……という純粋な状態に戻してくれて、『セクシーボイスアンドロボ』抜きには私の人生はなかったと言っても過言ではないです(笑)。

――ともあれ、子役として大成功を収めたことは、その後の女優人生でプレッシャーにはなりました?

福田  それはなかったと言えばウソになります。だからこそ、たとえば沙莉と「子役をやっていたから」みたいな話はまったくしませんけど、似たような気持ちをきっと共有していると思えるだけで、信頼感が深まります。『セクシーボイスアンドロボ』の大後寿々花さんも、共演したことはなくても、子どもの頃からお芝居をやってらっしゃったということで、何となく通じ合えるような想いは勝手に持っています。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

現実での経験が足りない危機感があって

――福田さんは大学生の頃、仕事をセーブして、バイトをいろいろやっていた時期があったんですよね。そういう経験が女優として必要だと思ったんですか?

福田  単純に人前に出ることに疲れてしまって。かと言って、ずっと家に引きこもっていても暇ですし、何か意味があることに時間を使ったほうがいい気がしたんです。20歳くらいの頃、作品にどっぷりと向き合ったり、世の中に出て行く気持ちにはどうしてもなれなくて、冷凍倉庫の奥の奥で仕分けのバイトをしてました(笑)。

――『女王の教室』の天才少女がそんなことをしているとは、誰も思わなかったでしょうね(笑)。

福田  お芝居のワークショップにも通ってましたけど、そのときは作品で演じるより、現実世界での経験が圧倒的に足りていないことに危機感があって。ずっとフィクションの世界で生きてきたから、人間的な体温のようなものがすごく欠けている気がしていました。「じゃあ、どうすれば?」と考えた先にあったのが、仕分けのバイトだったんです(笑)。でも、やって良かったと思います。

(C)2020 Kamata Prelude Film Partners
(C)2020 Kamata Prelude Film Partners

――その後の女優活動に、どうプラスになりました?

福田  心が自由になったし、バイトでもちゃんと働いたらお金をいただけるわけで、「やる気になればどこでも生きていける」と実感できました。それまでは無意識に、「この仕事でやっていくしかない」と追い詰められていて。でも、一度お芝居から離れてみたら、どこだって誰とだって生きていけるし、本気になれば自分の居場所だって見つけられるとわかったんです。そしたら気持ちがすごく楽になって、「やっぱり私はここでやりたい」という想いが強まりました。

――改めて女優業への意欲が高まったと。

福田  1周回って、やっと最近、「もう一度頑張ってみたい」と思えるようになりました。1周回っている間、ずっと見守ってくれた事務所に感謝です。長い目で見たら、あの時間は無駄でなかったと、証明していきたいです。

――大人の女優としての代表作もできるように?

福田  そうですね。時代もいろいろ変わってきて、配信の作品が増えてきたりもしているので、私も新しいことにどんどん挑戦していきたいです。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

“本当の幸せ”について考えています

――一方で、麻里のような結婚願望は高まりませんか?

福田  それは相変わらず、あまりないかもしれません(笑)。

――会見して指輪を見せるのは、だいぶ先ですかね?

福田  そもそも指輪をすぐなくしちゃうと思うから、要らないかな(笑)。いろいろなものをなくしがちなんです。昨日も昼間に携帯がないことに気付いて、今日の集合場所がわからないから、事務所に行って教えてもらいました。携帯は結局、あったんですけど。

――どこに?

福田  枕の下のシーツの下に入っちゃってました(笑)。枕の下は見たんですけど、シーツの下までは探してなくて。昨日の夜、寝るときに触っていたら見つけました。そんな感じで、常に何かなくなるので、ちゃんとしないと(笑)。

(C)2020 Kamata Prelude Film Partners
(C)2020 Kamata Prelude Film Partners

――『呑川ラプソディ』で、友人の1人が「本当の幸せって何なんだろうね?」と言ってました。そういうことを考えたりはしますか?

福田  本当に考えます。自給自足の生活が一番幸せなのかなと思ったりもします。こういうお仕事はそことは対極にあるもので、関わる人がすごく多いですよね。会ったことのない遠くの方々にまで作品を届けられる幸せもあるし、手の届くものを全力で大事にする幸せもあって。この作品でも一見、帆奈のほうが自分の意志を持っていて、女性ということに捉われずに生きているように思えるかもしれません。でも、「女性だからって差別されたくない」と捉われてるようにも感じるし、まりっぺも「女性は家庭に入って……」という気持ちに捉われてるのかもしれない。どっちもどっち、という見方もありますよね。

――なるほど。

福田  だから、この作品が問い掛けていることに、何の答えもないと思うんです。「本当の幸せって何だろう?」という台詞に、すべてが詰まっている気がします。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

Profile

福田麻由子(ふくだ・まゆこ)

1994年8月4日生まれ、東京都出身。

1998年にCMに出演して芸能界デビュー。小学生時代にドラマ「女王の教室」、「白夜行」などで注目を集める。主な出演作はドラマ「Q10」、「それでも、生きてゆく」、「未来日記-ANOTHER:WORLD-」、「スカーレット」、映画「L change the WorLd」、「ヘブンズ・ドア」、「マイマイ新子と千年の魔法」、「FLARE フレア」、「ラ」ほか。10月7日スタートのドラマ「メンズ校」(テレビ東京系)に出演。

『蒲田前奏曲』

監督・脚本/中川龍太郎、穐山茉由、安川有果、渡辺紘文

ヒューマントラストシネマ渋谷、キネカ大森ほか全国順次公開

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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