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「井上尚弥はアメリカでもビッグスターになれる」 ハロルド・レダーマン(HBOジャッジ)インタヴュー

杉浦大介スポーツライター

ハロルド・レダーマン 75歳。1967年からボクシングのジャッジを務め、1986年以降はHBOのコメンテーターも兼任。1999年にジャッジを引退するが、その後もHBOの非公式リングサイドスコアラーとして活動する。HBO放送席との試合中の軽妙な掛け合いはボクシングファンの間でお馴染み。2015年12月には国際ボクシング名誉の殿堂入りメンバーに選出された。

マイケル・カルバハルのように

ーー昨年末にWBO世界スーパーフライ級王座の初防衛を果たした井上尚弥についてどんな印象を抱いていますか?

HL:ああ、本当に素晴らしいファイターだね。たった8戦のキャリアで2階級を制覇したのだから、センセーショナルと表現するべきだろう。彼がローマン・“チョコラティート”・ゴンザレス(ニカラグア)と対戦する日を私はもうしばらく楽しみにしているんだ。今後、重大な故障を負わない限り、特筆すべきキャリアを築いていくだろう。

ーーあなたはプロのジャッジとして、HBOのアナリストとしてボクシングに長く関わり続けています。そんなあなたから見て、今のアメリカに井上のような軽量級のファイターがスターになる土壌は整っていると思いますか? 

HL:答えは疑いもなくイエスだ。HBOは1990年代にマイケル・カルバハル(元WBC、IBF、WBO世界ライトフライ級王者)をスターとして売り出し、成功を収めた。ウンベルト・“チキータ”・ゴンザレスとの直接対決はビッグビジネスになった。私の経験から言って、115パウンド以下の優れた選手たちも、他の階級のファイターと同じように好ファイトを演出してくれる。良い試合でファンを喜ばせることさえできれば、井上もHBOのビッグスターになれるよ。

ーーその位置にたどり着くために具体的に必要なものは何ですか?

HL:ローマン・“チョコラティート”・ゴンザレスとの対戦だ。HBOでそのマッチアップが実現すれば、軽量級史上に残る大きな試合になるだろう。 

まずは米国内での露出が必要

ーーその試合を実現させるためには、アメリカのマーケットではまだ井上の知名度は不足しているようにも思います。2014年の年末にオマール・ナルバエス(アルゼンチン)を派手にKOした直後にはアメリカでも注目されましたが、その後にケガでブランクを作り、今では話題になる機会は減ってしまいました。

HL:現時点での井上がまずアメリカでの露出の機会を必要としているのは事実だ。(ゴンサレス戦を具体化させる前に、)まず1試合は行わなければならない。ファイトを実際に観れば、誰もが彼に注目するはずだ。

ーーブライアン・ビロリア(アメリカ)、ハーマン・“タイソン”・マルケス(メキシコ)といった知名度のある元王者との対戦が望ましいですよね。   

HL:そういった選手と試合をしても、彼なら良い内容のファイトを見せてくれるだろう。ただ実力を評価されるだけでなく、人気者になれる素材だよ。

ーー露出を増やすという意味では、個人的には、試合をする以外にアメリカ国内で行われる大興行の記者会見に顔を出すといったような努力も必要と考えます。今ならアメリカ国内の記者にも囲まれ、話題性も増すでしょう。

HL:様々な努力をして、何とかしてアメリカで、特にHBOで試合をする機会につなげることだ。とにかく1試合やることだよ。そしてその一戦がHBOで中継されれば言うことはない。そうすることによって、アメリカのボクシングファンからの期待度、注目度が一気に上がることは確実だからね。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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